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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第1話 環境調査員、異世界へ。

新連載スタートです!


環境整備の若手社員が、勘違い勇者の捨てた動物たちを甘やかす、異世界開拓記。

クスッと笑えるスローライフを目指して書いていきます。


ぜひ最後までお付き合いください!

「土岐さん、こっちのエリアのサンプリング終わりました。今日の調査はこれくらいですか?」

「ああ、お疲れ。あとは水脈の最終確認をしたら上がりだな」


関東近郊、とある山林の奥深く。

環境調査およびビオトープ造成の事前調査として、俺――土岐とき つむぐは、同僚の佐藤と言葉を交わしながら機材を片付けていた。


「昨日けっこう強めの雨が降ったんで、地盤がかなりぬかるんでます。下りの斜面、転ばないように気をつけてくださいよ」

「わかってる。じゃあ、俺は下の方の土を見ておくから、佐藤は念のため上の方の地層を確認してきてくれ」

「了解ッス。終わったら無線入れますね」


佐藤が斜面を登っていくのを見送り、俺は指定された下層エリアへと足を向ける。

湿り気を帯びた黒土をスコップで掬い上げ、鼻先へ近づけた。

微生物が豊かに息づく、質の高い土の匂いだ。


ズズッ、と。


足の裏から、腹の底を揺らすような低い振動が伝わってきた。


「……なんだ?」


ただの風の音ではない。

山そのものが低く唸るような、不気味な地鳴り。

視線を上げた先、数十メートル上の斜面の岩肌から、赤茶色に濁った水が鉄砲水のように噴き出しているのが見えた。


(やばい、山が崩れる!)


限界まで水を含んだ地層が崩壊する寸前の、自然からの最終警告。

思考より先に足が動いていた。機材を放り出し、少しでも地盤の固い場所を目指して走り出す。


『土岐さんっ! 早くっ!』


上の方から、悲鳴のような佐藤の声が響く。

「くそっ!」

声のする方向へ駆け上がろうとした、その時。



怪我をして身動きが取れなくなっている一匹の蛇と目が合った。

ただの蛇ではない。

透き通るような純白の鱗を持つ美しい蛇。


(馬鹿野郎、こんなところで!)


見捨てるという選択肢は、俺の頭にはなかった。

崩れ落ちる土砂に向かって身を翻し、ひんやりとした白蛇の胴体を両腕で抱きかかえる。


直後、視界のすべてを圧倒的な土砂の濁流が覆い尽くした。


(あ、終わった。これ、絶対潰される……!)


全身を激しい濁流に揉みくちゃにされる感覚。

だが――。


(……あれ? 痛くないぞ?)


泥の重さも、大岩がぶつかる致命的な衝撃も感じない。

腕の中の白蛇が、目を灼くような強烈な光を放ち、俺の身体をすっぽりと包み込んでいるのだ。

必死にもがく中、視界はさらに白さを増していく。

まるで巨大な光のトンネルへと吸い込まれるように。


ふっと、意識が途切れた。


「ハッ!」


大きく息を吸い込み、跳ね起きる。

荒い呼吸を整えながら、急いで自身の身体をまさぐった。

着慣れたキャンバス生地のコートも、作業着のズボンも、地面に倒れていたせいで泥だらけだ。

しかし、骨折どころか、かすり傷ひとつない。


(あの光……あの白蛇が助けてくれたのか? いや、そもそも光るってなんだよ……)


掌に残る鱗の感触を思い出すが、あんな現象、日本の生態系ではあり得ない。

立ち上がり、周囲を見渡す。


「……どこだ、ここ」


むせ返るような、濃密な緑の匂い。

だが、日本の山林特有の匂いじゃない。

肌にまとわりつく湿度も、足元の粘土質の強い土も、俺の知るデータとまったく一致しない。

軽い混乱を覚えたその時。


右目の奥に、チリッとした奇妙な熱を感じた。

直後、木々の向こうから、下品な叫び声が鼓膜を打つ。


「ギャギャッ!」


足音を殺し、音のする方へ慎重に近づく。

茂みをかき分けた先の開けた場所。

そこで繰り広げられていた光景に、俺は目を疑った。


緑色の肌をした子鬼のような醜悪な生物が二匹。

一匹は丸太のような棍棒を、もう一匹はサビだらけの剣を握り、一羽の巨大な鳥を追い詰めている。


(……は? ゴブリン? ゲームとかアニメに出てくる、あの?)


映画の撮影かドッキリか。

だが、周囲にカメラもスタッフも見当たらない。

何より、あの着ぐるみにしては生々しすぎる皮膚の質感と漂ってくる強烈な血と汚物の匂いが、これが「現実」であることを雄弁に物語っていた。


緑色のバケモノたちが追い詰めているのは、『ハシビロコウ』に似た巨大な鳥だ。

微動だにせず、鋭い眼光だけで相手を威圧している。


「ギギャァッ!」


剣を持ったゴブリンが凶悪な笑みを浮かべ、巨大鳥へ刃を振り下ろそうとする。


(なんで俺はこんなところに……いや、考えてる暇はない!)


理屈よりも先に、身体が動いていた。

無抵抗な動物が理不尽な暴力に晒されるのを、黙って見過ごせるほど人間ができていない。


「危ないっ!」


茂みから一直線に駆け出し、剣を振りかぶっていたゴブリンの脇腹へ、全体重を乗せた強烈な体当たりを見舞う。


「ギャベッ!?」


予想外の衝撃に吹き飛び、地面を転がるゴブリン。

その手からこぼれ落ちた剣を、すかさず拾い上げる。


(なんだ、このなまくらは)


柄は血と脂でひどくベタつき、重心のバランスも最悪。

刀身の表面は荒く、刃こぼれでボロボロだ。

だが、素手よりはマシだ。


剣を構える。

もう一匹の、棍棒を持ったゴブリンが血走った眼でこちらを睨みつけていた。


(落ち着け。相手は大振りだ)


心臓が早鐘のように鳴っている。

小中高と続けてきた剣道。だが、竹刀で一本を取る動きと、真剣で命を奪い合う動きはまったく違う。

当てればいいわけじゃない。

これは、肉を断ち切り、骨を砕くための暴力だ。


「ギ、ギギギッ!」


よだれを撒き散らしながら、棍棒のゴブリンが飛びかかってくる。

狙いは頭。素人丸出しの、大雑把な軌道。


「……遅い」


右足を半歩引き、最小限の動きで棍棒を躱す。

同時に、手にした粗悪な剣を、大きく振りかぶってゴブリンのがら空きになった首元へ叩き込んだ。

刃が通らないなら、打撃で叩き割る。


ゴキッ、という鈍い音と共に、子鬼の首が不自然な方向へ折れ曲がる。

ビクビクと痙攣したのち、緑色の肉塊は完全に動かなくなった。

その様子を見ていたもう一匹も、弾かれたように森の奥へと逃げ出していく。

静寂が落ちる。

荒くなった呼吸を整え、額の汗を手の甲で拭う。

初めて命を奪った感触。柄を握る掌が、自分でも驚くほど震えていた。


一度深く息を吐き出し、強張った指を開いて剣を下ろす。

視線を向けると、先ほど助けた巨大なハシビロコウが、瞬きひとつせずじっとこちらを見つめていた。


ゆっくりと歩み寄り、屈み込んで声をかける。


「……怪我はないか?」


相手は鳥だ。言葉が通じるなんて思っていない。

だが、環境調査の現場で数々の野生動物と接してきたプロとしての本能が、自然とそう尋ねさせていた。


ハシビロコウは微動だにしない。

鋭い眼光でこちらを観察しているようだが、羽毛の乱れや外傷は見当たらなかった。


(無事みたいだな。なら、いいか)


長居は無用だ。

この血の匂いを嗅ぎつけて、他のバケモノが来るかもしれない。

安全な場所を探すため、背を向けて立ち去ろうと足を踏み出した、その時。


「……助かったわぁ、アンタ。ありがと♡」


背後から、不意に声がした。

低く、妙に艶っぽく、それでいてハートマークが見えそうなほど甘い口調。


ピタリと足を止め、周囲を見渡す。

茂みの奥か? それとも木の上か?


「え……今、誰が喋った?」

「ここよ、コ・コ。貴方のう・し・ろ♡」


恐る恐る振り返る。

そこには、巨大なハシビロコウが、ゆっくりと嘴を開閉させている姿があった。


「なかなかいい動きするじゃないの。見惚れちゃったわ」


『……は? 鳥が喋った!? しかもゴリゴリのオネェ!?』


想定外すぎる事態に、心の中で激しくツッコんでしまった。

張り詰めていた緊張の糸が、まったくおかしな方向へ弾け飛んでいった。


「ちょっと、失礼な顔してるわね。アタシみたいに美しくて知的な鳥が喋っちゃおかしいとでも?」

「……いや、驚いた。言葉が通じるなら話が早い」


軽く咳払いをして、どうにか平静を取り繕う。


「俺は土岐とき つむぐ。ツムグだ。お前、名前は?」

「名前? そんな気の利いたもの、アタシみたいな野良にはないわよ。種族名なら『シュービル』だけど」


『ハシビロコウの英訳じゃねえか!』


喉元まで出かかったツッコミを、すんでのところで飲み込む。


「……じゃあ、今日からお前は『ハシ姉』だ。シュービルのお姉さん、略してハシ姉」

「ハシ姉? ……ふふっ、悪くないわね。アタシの美貌にぴったりじゃないの」


カタカタカタッ!

ハシネが、嬉しそうに機関銃のような甲高い音を鳴らす。クラッタリングだ。


「ところでツムグ、アンタ随分と見ない格好ね。その分厚い布地……どこの田舎から出てきたの? 冒険者にしては、さっきまで武器も持ってなかったし」


ハシネの鋭い視線が、俺の泥だらけのキャンバス生地のコートと作業着を舐め回すように動く。


「まあ、遠いところから来た。俺は環境……いや、土をいじる仕事をしてるんだ。それよりハシ姉は、なんであんな奴らに襲われてたんだ?」


「アタシ? アタシはただ、あそこでじーっと静寂を楽しんでただけよ。そしたらあの薄汚い緑の小鬼どもが、急に襲いかかってきたの。ほんと、野蛮で嫌になっちゃうわ」


『微動だにしないから格好の的になったんじゃねえか……』


どうやらこの鳥は、ただ突っ立っているだけで襲われたらしい。

なんともマイペースな奴だ。

呆れ半分でため息をついた俺に、ハシ姉は長い嘴を器用に傾けてみせた。


「さ、自己紹介も済んだことだし。ツムグ、さっさとその小鬼の胸を裂いて、魔石を取り出しちゃいなさいな」

「……魔石?」

「そうよ。この世界じゃ、それが一番の『カネ』になるんだから」


泥だらけの作業着姿の俺と、オネェ言葉のハシビロコウ。

どうやらここは、俺の知る地球ではないらしい。


理不尽な生態系。だが、腹は減るし生きていかなくてはならない。

俺は覚悟を決め、血生臭い解体作業に取り掛かるのだった。

第1話お読みいただき本当にありがとうございます!


異世界の過酷な生態系……と思いきや、まさかのオネェ言葉のハシビロコウ(ハシ姉)登場でした。

ツムグの心労とツッコミはこれからも続きます(笑)


少しでも、

「面白い!」「続きが読みたい!」「ハシ姉、いいキャラしてる!」

と思っていただけましたら……

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