人の目を引くナイスなカップル
「ごらんになって、ロック!」
真夏の日差しよりも輝かしい笑顔で、リアティスが多少演技がかって言った。
今日は一段と美しい。
ロードリックは無言のまま、買いだした食料を手早く馬の荷に積んでいた。
ロードリックの表情は渋い。リアティスは構わず明るく叫んだ。
「村人たちのあたくしたちを見る目が違いますわ!」
(……本当にな)
獲物を見る人々の、ギラギラとした欲望に塗れた瞳。
もしかすると、何やロードリック達の知らぬ間に、王宮からお触れでも出たのかも知れぬ。
「やはりあたくしたち、人の目を引くナイスなカップルですのね!」
(だから!いつからそうなったと?!)
叫びたいのを堪えて、ロードリックは沈痛な表情のままリアティスを振り返った。重く口を開く。
「………本当に、そう思うのか?」
「思えたら楽しゅうございますわね」
リアティスがにっこりと微笑みつつ答えた。
数秒の沈黙が二人の間に満ちる。
「逃げるぞ」
「はい」
あくまで軽やかにリアティスが応じた。
「追いかけてらっしゃいますわね」
「ああ…」
リアティスが後方を振り返り、怯えた様子も無く言った。
追いかけてくる面々は、王宮の近衛兵ではなく、この辺りを守護する警備兵のようだった。一目見ればわかるほど身なりが違う。
多分、噂を聞きつけた村人も混じっているのだろう。数は三十を下らなかった。
「素晴らしい地響きです事」
(地響きを褒めた女はお前が初めてだ)
ロードリックは呆れつつも、リアティスと同じく後方を振り返った。
そうしてひとつ溜息を吐く。
王宮の近衛兵ならば、スピードを上げてなんとか逃げ切れば良い話だが、追手が土地の者となると話が変わる。土地勘がある分、引き離したと思っても、どこからか抜け道を通って追ってこないとも限らない。
なにより、話がどこまで正確に伝わっているのか。
ロードリックの身はともかく、リアティスは女でその上この美しさだ。血迷う者が現れないとも限らない。
「厄介だな」
ロードリックが呟くと、リアティスが馬の荷に手を伸ばした。
「お任せになって、ロック!こんな事もあろうかと!」
リアティスが場にそぐわぬ明るい声で言うと、ガイウスから受け取った金貨の入った袋を、中身をばら撒くようにして後方へと投げ落とした。
「おい?!」
「もひとつ」
驚くロードリックに構わず、リアティスはもう一つ袋をばら撒く。
「金貨だ!」
金貨のばら撒かれた場所に追いついた追手が、馬を止め、我先にと争う様に金貨を拾い始めた。
「止めんか!お前達!あの者たちを捕らえることが出来れば、その程度の金貨より、より多くの報酬を得る事ができるのだぞ!」
追手を率いる部隊の上の人間だろう男が、金貨に群がる人間を叱咤するが全く効き目が無い。
リアティスの行為は、大変に立派な足止めの方法として機能していた。
遙か遠くになった人々を顧みて、ロードリックが口を開いた。
「良いのか?」
「なにがですの?」
「せっかくの兄君のご厚意を」
「良いのですわ。捕まってしまう方が本末転倒ですもの。それに…」
思わせぶりに一端言葉を切ったリアティスに、ロードリックがどうしたのかと先を促す。リアティスは意味深に微笑んだ。
「あの金貨。中身は半分近く偽物ですのよ。前の町で買ったおはじきとか、ちょっと形の似たものを詰め込んでありますの」
楽し気に笑うリアティスにロードリックは二の句がつけなくなった。
一体いつの間に…。
「でも半分は本物が混じってますから、拾わずにはいられませんの事よ」
「なるほどな…、とにかく助かった。礼を言う」
「どういたしまして」
ロードリックの謝礼の言葉に、リアティスは鷹揚に笑って答えた。




