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Children  作者: PC
序章
3/3

Part 3

うーん…………。


思い通りに話が……………。

 更に同時刻。

 

 とある戦場にて。

 

 片翼のもげた竜の口腔内がカッ!!と光る。そして、次の瞬間には口腔に集束していた光の塊が矢のように放たれ、燃え続ける大地に着弾すると同時に巨大なキノコ雲が上がった。続いて着弾によって生まれた強大な衝撃波と爆風とが、着弾地点から何キロも離れた軍勢すら軽々と吹き飛ばし、何十キロも離れた数人の人物の髪すら激しく揺らした。

 

「………………宿主に対する理解不能な爆撃による重体、それが原因での憑き神の暴走、その上、憑き神は片翼を失うほどの大怪我をしている。そして着目すべきは人間よりも遥かに強固であるはずの憑き神の理性が吹き飛ぶほどの、怒り。まったくもって…………、一切合切、帝国と教国の連合編成による先行軍は何を仕出かしたんだい?」

 

 爆風によって飛ばされそうになった帽子を抑えながら言い、左目を眼帯で覆った少女が隣に立つ黒衣仮面の男を見上げる。隣に立つ男の表情は仮面に阻まれ、残念ながら不明である。

 

「どうするよ教頭。お前の甘ったれた考えによる行動の所為で、憑き神が暴走し、それによって帝国と教国による連合軍が全滅しかけている。…………ちなみにこれは余談だが、今回の宿主による無断爆撃は君の独断かい?」

 

 少女は眼帯に覆われていない方の目を細め、低い声で呟きながら携帯に話しかける。

 

 携帯の向こうからは躍起になって弁明する喚き声が聞こえるが、聞いている側の少女はその声の大きさに煩わしそうに眉を顰め、今だに喚き声の聞こえる携帯から顔を離し、プツリと電話を切った。

 

「あーもう……、どっかのエロジジィの所為で大変なモノを押し付けられたもんだ。まったくもって悲憤慷慨ひふんこうがいだよ」

「そう言っちゃぁダメだよぅ、指揮官リーダー。あんなエロォでジジィな教頭はいぃつでもれるんだからぁ、我慢してちょー」

 

 黒衣に仮面の男の頭の後ろから、にゅっと湧き出た少年がニコニコと笑みを浮かべながら中々物騒な事を言う。

 

 見た目小学三年生の癖に、口と知識だけは妙にある少年は勝手に肩車の形で男の頭にしがみ付き、フンと鼻を鳴らす。

 

「―――――ってあららぁ? エディがいないや、どこ行ったのかなぁ?」

 

 少年が男の頭にしがみ付いたままキョロキョロと目を動かす。

 

 そして、

 

「あっ、エディみっけぇ。……………ってあの子、何してんの」

 

 少年が男の頭にしがみ付いたまま竜の居る戦場を指差し、少女がその先を見れば、呼吸のたびに火炎を漏らす竜が吹っ飛ばされた。土煙と轟音とを立てて竜が地面に叩きつけられ、次の瞬間、怒りの咆哮を上げてもがき上がろうとした竜が更に地面に叩き付けられる。

 

「ヴォオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 仰向けになりながら片方しかない翼を振るい、竜が咆哮と共に口から光線を放つ。ヒュッという風切り音を立てて光線は逃亡を図る連合軍目掛けて飛び、そして着弾と共に視界を埋め尽くすほどの閃光が起きた。

 

「…………まさに阿鼻叫喚あびきょうかんと言うべきか………」

 

 少女が帽子ごと頭を抱えながら呻き、少年は溜息を吐く。

 

 男は少年を肩車したまま直立不動の姿勢で立ち尽くし、ただ腰に差してある得物だけがカタカタと身を震わせた。

 

 三人が見つめる先には、紺色の上着(ジャージ?)の裾を翻しながら鎚を振るう少女の後ろ姿が見える。

 

 こちらに背中を向けている為に顔は見えないが、恐らく嬉々とした表情で竜の横っ面目掛けて鎚を振るっている事だろう。

 

 現在進行形でも竜は吹っ飛ばされ、身体の各部に殴打による青黒い痣が浮かび上がり、中々痛ましげな身体を揺すって竜は吼える。

 

 吼えるたびに大気が震え、人間の鼓膜を激しく揺さぶるが、少女はそんなものお構いなしに鎚を振るい、今度は竜の脇腹がグニャリとくの字に折れ曲がり、轟音を立てて付近の山壁に叩き付けられた。

 

「ヴォ…………………グゥ、オ、オォ、―――――――オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 と思ったら、バネ仕掛けのように片翼の竜は飛び上がり、二本脚で立ちながら何度も吼え続ける。

 

 口や鼻腔、翼の千切れた部分から大量の血を垂れ流しながら、竜の装甲たる鱗にヒビが入りながら、全身が鈍痛に苛まれながらも竜は吼え続ける。

 

 それは、決して自らが守り続ける最も大切な存在をこれ以上、傷付かせないが為に。

 

「――――――――オオオオオオオオオオオオオオオオッ」

 

 

 

 

 

 

 

「…………指揮官リーダー、あれは、どうする。指令通り、殺すのか、それとも、捕縛するのか」

 

 遥か遠くで吼え続ける竜を見続けていた黒衣仮面の男が、唐突に少女に話しかける。顔は前に向いたままだったが。その言葉に少女は腕を組む。

 

「本当なら校長や生徒会と談論風発だんろんふうはつすべきなんだろうけどねぇ…………、今回は面倒な事に相手側に時間がないのだよ、諸君」

 

「……………つまりぃ?」

 

 男の肩の上で少年が首を傾げる。

 

「エディが憑き神の相手をしている間に、宿主を確保する」

 

「………………連合軍を敵に回すのぉ? 指揮官リーダー、それって上の意向と真逆の事をするんだよぉ?」

 

「そう、か? 俺は、別に、それでも、構わない、が?」

 

「大体、原因を作ったのは軍なんだもん。軽挙妄動けいきょもうどうな行動をした軍の尻拭いぐらい、上だって認めてくれるだろうさ。……………最も、それでも殺せなんて指令が来た場合は、今度は執行部が暗中飛躍あんちゅうひやくするだろうね」

 

「うえぇ……、みんなノリノリで暗躍するだろうねぇ……………」

 

「執行部は、みな、良い人、ばかり、だ。…………ただ、性格が、歪んでいる、のは、難点、だが」

 男は苦笑しているのか、身体を揺らし、仮面の顎の部分を軽く擦り、少年は肩に座ったまま、苦いモノを噛み砕いたような顔をして顎を男の頭部に置いた。

 

「さて諸君、遊びの時間だ! 中身は至極簡単。即ち、――――――――宿主を奪い返せ」

 

 最後の言葉に二人がそれぞれの形で敬礼をして見せた。

 

 少年は男の肩に座ったまま敬礼し、男は左胸に拳を当てて応えた。

 

「―――――――Yes・my Lord」

 

 二人が同時に発した言葉に、少女は笑った。

 

 

 

 

 

 

「………退却退却! 早くここから逃げろ!!」

 

 戦車の上、あるいは馬上の上でピッケルハウと呼ばれるヘルメットを被った男達が、恐怖で身を強張らせながら叫ぶ下で、隊列を組みながら必死の形相で走る兵士達が居た。

 黒の簡易鎧に身を包み、腰には剣を差している。

 

 足元には血溜まりや折れた槍、元は人だったはずの肉塊や馬の死体、巨大な岩石に未だに地面の所々で燻ぶる火。

 

「なんだよなんだよなんなんだよ!! あんなモンが出てくるなんて聞いちゃいねぇぞ!!?」

 

 苛々と叫ぶ兵士達も、その目は遠くで吼え続ける竜を見ている。

 

 空想としか思っていなかったモノが目の前で突然現れ、対空ミサイルで片翼を吹き飛ばしたと思った途端、反撃を喰らい、その一撃で連合軍の三分の一以上が消え去ったのだから。

 

 目の前で一瞬で蒸発した仲間達をまじかで見た兵士達は走り、しかし時折飛んでくる光線や炎、爆風や衝撃波、そして吹っ飛んできた竜の巨体に巻き添えを喰らい、五万の軍勢だった連合軍は今や二万以下になるまでに減っている。

 

 彼らの前方では無骨な黒塗りの護送車が辺り構わず走り、誰よりも早くその場から逃走しようと図っていた。

 が、しかし。

 

「はいそこぉ、アウトー」

 

 声と共に護送車を囲む形で巨大な火柱が立ち上がる。

 

「っ!!!??」

 

 ハンドルを握る軍人が驚愕の目で目の前で突然現れた火柱を見、そして慌ててブレーキを踏み、紙一重で火柱の中に突っ込む事だけは避けた。

 

「逃げちゃぁ駄目だよぅ? 軍人さん。中にいる子供、渡してくれるかなぁ?」

 

 声に反応した軍人が前屈みにハンドルを握ったまま震えているれば、突然、何かの影によって光が遮られた。

 

 ガチガチと歯を鳴らしながら見上げれば、目の前に一つの人影。

 

 集束された超高温の炎によってドロドロに溶けたフロントガラスの縁に足をかけ、その人影――――少年はにっこりと震える軍人に笑って見せた。

 

 同時に、ハンドルを握ったまま軍人は白目を剥いた。

 

「…………なんてこったい。まさかの気絶なんて空気読んでよぅ」

 

 足元ではハンドルを握ったまま白目を剥いて気絶した軍人。そして少年の背後にはクネクネと身体をくねらせる巨大な火柱。

 むぅ、早くしないと連合軍が気付いて撃って来るしぃ…………、どうしようかなぁ? ねぇペルーダァ?」

 

 うねっていた火柱が呼応するように動く。グルグルと渦を巻き、しばらくして一匹のトカゲと蛇とをミックスさせたような姿の生き物が渦の中心からピョンと飛び出て、少年の肩に飛び乗った。

 

 ペルーダと呼ばれたトカゲもどきが小さな口をガパッと開け、マッチに点った火に似た規模の炎を吐き出し、続いてチロリと長い舌をブラつかせる。

 

 少年が顎で護送車の後部を示せば、次の瞬間、後部の壁の一部がドロッと溶け出した。

 

 溶岩の如く溶け出し、後部の壁の穴を広げていけば、差し込んだ明かりが奥で蹲っている人影の足を照らしだす。

 

「………………………。」

 

 チロチロと舌を覗かせるトカゲもどきを肩に張り付けたまま、少年は無言で中に足を踏み入れ、途端鼻の奥を突くような匂いに顔を顰める。

 中は暗く、すると肩にへばり付いているトカゲもどきが身体を発光させた。

 

 パァッと一気に明るくなった箱の中、その片隅では腹と肩に血の滲んだ包帯を巻かれた少女が横たわっている。

 目は虚ろで、巻かれた包帯からは血が滲み、下半身には何も身に付けてはいなかった。

 

 悪臭の原因はこれだ。

 

 体臭の匂い、汗、少女の体液、そして男の――――――――。

 

 少年は服の袖で口と鼻を隠しながら、少女に近付く。

 

「………………………………………………………………、指揮官リーダー

 

 一時の間を置いて、少年はズボンのポケットから携帯を取り出し、電話をかけた。

 

 《おや、クラウ。どうしたんだい? まさかなん―――――――――――――》

 

指揮官リーダー

 

 《うん? 》

 

「ゴメン、僕もう止められないや」

 

 《…………ふむ、そうか。…………理由は聞かないよクラウ。君の好きなように臨機応変に行きたまえ》

 

「ありがとうございます、指揮官リーダー

 

 《いやいや、別に構わないさ。―――――――――――――想定していた最悪のパターンが現実化しただけだからね》

 

「うん。憑き神に関してはエディが相手をしているかもしれないけど、多分、長くは持たないと思うから、時期を見計らって退かせて」

 

 《構わないよ。その時は私が相手をするだけさ。…………なぁに、殺しはしないよ》

 

「うん。お願いします」

 

 《了承した。――――――――――クラウも気を付けなさい》

 

「うん。………うん」

 

 最後の言葉に少年は瞳を細め、少女に上着を掛け、その頬に触れた。

 

 ベトベトに湿った身体は気持ち悪く、だらしなく開けられた口からは唾液が零れ、瞳は虚ろなままだ。

 

 恐らく薬を―――しかも人間に使うべきではない強力な合成麻薬ドラッグを射って事に及んだのだろう。抵抗した感じは無いし、殴られた跡も無い。しかも箱の中を見渡す限り、複数人でやった可能性もある。

 

「気持ち悪い」

 

 うっそりと呟けば、肩にへばり付くトカゲもどきが首をもたげて少年の顔を眺めてくる。

 

 そして蛇の顔を擦り付け、チロチロと舌を動かす。

 

「ペルーダ、大丈夫?」

 

 任せろや、と言わんばかりにトカゲもどきは口を最大まで開け、小さな炎を吐いた。

 

「うん、よろしく」

 

 人差指でグリグリと頭を撫で、少年は顔を上げた。

 

 ゴッ!! と護送車を呑み込むほどの炎が出現し、それは次第に収縮し、一つの形を創り出す。

 

「ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 炎を纏う、蛇とトカゲを混ぜたような姿を持った巨大な生き物が、咆哮を上げる。

 

 それは、眼下で悲鳴を上げる軍勢へと牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 背後で上がった咆哮に、黒衣仮面の男はゆっくりと身体を起こした。

 

「う、ん…………?」

 

 彼の足元には辺りを埋め尽くすほどの死体が転がり、死体から流れる鮮血が地面を赤く染めていた。

 

 黒衣仮面の男は手にしている千切れた頭を手放し、前屈みになっていた身体を動かす。

 

「あ、れは、クラ、ウ? 予定、変、更?」

 

 ノロノロとした動作で懐から携帯を取り出し、これまたノロノロとした指使いで通話ボタンを押した。

 

 《――――――――――ハイこちら編集部ー》

 

「……………指揮官リーダー、冗、談はよして、くれ。クラウ、に何か、起き、たのか?」

 

 《クラウかい? クラウには自由行動していいって許可出したんだー。一応は目標は確保したらしいんだけど、なんか問題勃発しちゃってさー》

 

「………………俺は、どうすれば、い、い?」

 

 《うーむ、…………ねぇ、エディはまだ憑き神と戦闘中かい?》

 

 指揮官リーダーの言葉に男は轟音が止まない後方へと首を回す。

 

 彼の視線の先では傷付いた片翼の竜と、鎚を握り、宙を舞う少女の姿。

 

「そのよう、だ指揮官リーダー。まだ、エ、ディは戦闘、中」

 

 《ああんもう! になっちゃうよー。じゃぁ、バルクホルンはエディに加勢しに行ってー。現在の憑き神はエディと軍勢を不倶戴天の敵と見てるから、それを止めさせて》

 

指揮官リーダー、はど、うする?」

 

 《私かい? 私は遠くで君たちの活躍を見てるよー》

 

「わか、った」

 

 プツンと通話を切り、携帯をポケットに仕舞う。と同時に、黒衣仮面の男のすぐ側に片翼の竜の巨体が落ちた。

 続いて凄まじいほどの轟音と地震。

 大地を埋め尽くしていた死体が衝撃によって宙を舞い、死体の雨を降らす。

 

「グォオオオオ―――――――――――」

 

 ドゴン! と竜の顔が地面にめり込んだ。

 

「エ、ディ?」

 

「―――――――あれ? ゲルハルトじゃんか、何してんの?」

 

 ブンと鎚を振り、それを肩に担いだジャージ姿の少女は沈黙した竜を警戒しながら、猫の似た瞳を男に向けた。

 

指揮官リーダー、が、エディ、を手、伝え、と、言って、いた」

 

「えー、指揮官リーダーが~? ここは俺一人でいいからゲルハルトはクラウの方手伝ってよ」

 

「だが…………」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 気絶していたはずの竜が吼え、再び身体を起こす。興奮で赤く充血した青い一対の瞳が二人を睨んだ。

 

「あー、……………………はぁ」

 

 鎚を担いだまま少女は小さく嘆息を漏らし、振り返ろうとした。

 

 その瞬間、

 

「グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「なっ!?」

 

「エ、ディ!!」

 

 ボコボコボコボコッ! とくぐもった音と共に、翼のもげた傷口が泡立ち、新たに粘液に塗れた翼が生える。

 

 あたかもそこから生まれたような翼に、少女は驚愕で目を見開き、竜はその隙を見逃さず少女の頭上に前脚を振り下ろした。轟音と共に地面が激しく揺れ、土埃が舞う。

 

「グルルルル………」

 

 竜が太く鋭く湾曲した鉤爪を、首を傾げて不思議そうに眺める。

 

 その人間臭い動作に、黒衣仮面の男と男に抱き抱えられた少女は目を見張った。

 

「なんか………、前よりでかくない?」

 

「む………、そう、だ、な。前、より、凶、悪、になった、な」

 

 二人は大きくなった身体を揺する竜を見、そして顔を見合わせた。

 

「ゲルハルト、指揮官リーダーに連絡して」

 

「ああ、分かっ、た」

 

 黒衣仮面の男がポケットから携帯を取り出し、

 

指揮官リーダー

 

 《イエーイ、了解だよー》

 

 

 その言葉と同時に、全ては終わった。


ハナシガ……………。

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