第14話:冥府の誕生と、国境を超える影
カァン――!!!
一打。その瞬間、王都『ルミナス』の全域で異変が起きた。
真昼の太陽が、まるで煤けた硝子を透したかのように急速に光を失い、不気味な薄墨色の影が街の隅々にまで伸びていく。人々は足を止め、天を仰いで怯えた。それは魔法の予兆ではない。一本の『刃』が生まれるために、世界の光が吸い尽くされているのだ。
「し、師匠……! 影が、影が勝手に動き回っていますっ!」
フィオナが腰を抜かし、工房の壁にへたり込む。
彼女の足元から伸びる影は、意志を持つかのように火床の奥へと引きずり込まれていた。
カナタは一言も発さず、『神鋳の金槌』を漆黒の結晶へと叩きつけ続けた。『冥府の心臓』が融解し、百本の怨嗟の残鉄と混ざり合う。法衣を纏ったカナタの全身から、濃密な死の概念が波動となって放射されていた。
「形を成せ。俺の行く手を阻む、すべての『理』を断ち切るために」
カァン――!!!
最後の重い一撃が響き渡ると同時に、光が世界に戻った。火床の底に鎮座していたのは、光を反射することすら拒絶する、圧倒的な漆黒の大剣だった。
【超絶神話級:『冥王の断頭剣』の錬成に成功しました】
【神器の封印解除率:12.50% ⇒ 15.00%】
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【製品名:冥王の断頭剣】
・種別:大剣(概念断絶武装)
・品質:神話級
・特性:『霊魂切断』『因果剥離』『不滅の黒刃』
【詳細説明】
『冥府の心臓』の本質を完全に具現化した一振。
この刃は物理的な肉体を傷つけることなく、
対象に課せられた「契約」「法縛」「呪縛」などの不条理な因果のみを
文字通り『断頭』し、無に帰す。
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カナタがその黒い柄を握ると、大剣はまるで体の一部のように冷たく、そして静かに彼の手に収まった。
――その頃、王宮の最高執務室。
総理大臣ラインハルト公爵は、狂ったように書類を机に叩きつけていた。
「バカな……! 我が近衛魔導兵が、指一本触れられずに制圧されただと!? しかも陛下がそのゴミ虫を直接保護したというのか!」
彼の目の前で、冷や汗を流す部下が震えながら頷く。
ラインハルトの派閥は、王都の法律と軍事力を握ることで権力を維持してきた。だが、その法律すら通じず、国家の魔術すら無効化する怪物が現れたのだ。先ほど王都を襲ったあの『日食の恐怖』。あれが少年の工房から発せられたものだと知り、ラインハルトの背中に冷たい戦慄が走った。
「あの小僧は……ただの職人ではない。国を根底から転覆させられる刃だ。何としても、我が手で処理しなければ……!」
権力者の焦燥が、王都の闇をさらに深くしていく。
しかし、その夜。工房『神鋳』の扉を叩いたのは、王宮の追手ではなかった。
現れたのは、吹雪の模様が刺繍された分厚い外套を身にまとい、顔を深いフードで隠した大柄な人物だった。
「……ここが、冥王竜の炎を凍らせた槍の生まれた場所か」
その声は低く、どこか他国の響きを持っていた。男がフードを外すと、そこには人間のものではない、鋭い獣の耳と銀色の髪があった。北方の軍事超国家『ガルディニア帝国』の隠密使節だった。
男は机の上に、見たこともない漆黒の硬貨――『帝国の魔晶金貨』が詰まった袋を無造作に置いた。
「我が国は、東方の戦いでの君の『氷晶の槍』の噂を聞き、海を越えてやってきた。この国の貴族どもは君の価値を知らぬようだが……我が帝国は違う。金貨五百枚、そして我が国の特産たる『万年氷晶』を差し出そう。帝国のために、その冷気の技術を売ってはくれないか?」
国境の壁すら、カナタの鉄の響きを遮ることはできなかった。
王都の腐った権力闘争を余所に、神の鍛冶師の価値は、今や世界を揺るがす巨大な波へと変わり始めていた。




