エピローグ:銀の髪、桜の空
――シーン1:一年後の朝――
眩しい光が、部屋の隅々にまで満ちている。
かつてあたし――白雪さくらが研究所の影に怯え、自分の名前さえ疑っていたあの暗い朝は、もう遠い過去のものだ。
あたしは鏡の前で、手慣れた手つきで銀髪を編み込んでいく。
指先に宿っていたあの禍々しい電光は、もう現れない。如月研究所は解体され、あたしの中にあった「異能」は、久遠との接続が切れたあの時、役目を終えるように消えていった。
「さくら、準備はできたか? そろそろ行かないと遅れるぞ」
リビングから聞こえる、落ち着いた少年の声。
あたしは最後のチェックをして部屋を飛び出した。
「お待たせ、久遠くん! 髪がなかなか決まらなくて」
「……おまえは、いつもそうだ。別に、そのままでも十分綺麗なのに」
久遠は呆れたように笑いながら、あたしの通学カバンを手に取る。
あたしたちは普通の高校生として、普通の日々を歩んでいた。
――シーン2:再会と、ささやかな絆――
校門の前で聞き慣れた元気な声が響く。
「おーい、さくら! 一ノ瀬! また二人で登校? 相変わらずアツアツだねぇ」
バレー部のジャージを着て、大きく手を振る佐倉ゆきな。
彼女は今、学園のバレー部キャプテンとして、あたしを部活に誘う日々を送っている。
「ゆきな……もう、そんなんじゃないってば。ただの幼馴染なんだから」
「はいはい、そういうことにしておいてあげるよ。……ねえ、さくら」
ゆきなはふと、真面目な顔をしてあたしの銀髪に触れた。
「……あんた、最近、すごく良い顔してる。本当に……あの日、あんたを選んで良かった」
「……ゆきな」
あたしたちは言葉にしなくても分かり合える。
失った記憶の代わりに、あたしたちは「今」という新しい絆を手に入れた。あの日、裏切りを越えて繋がった手が、今もあたしを支えている。
――シーン3:交差点に咲く花――
放課後。あたしは一人、あの運命の交差点のそばにある小さな公園のベンチに座っていた。
春風が吹き抜け、満開の桜の花びらが舞い散る。
(……不思議ね)
あたしの中から「俺」の記憶は消えた。
あの日、隣にいた「さくら」の思い出も、今はもう絵本の挿絵のように遠い。
けれど、この交差点を眺めていると胸の奥が温かくなる。
あたしは、かつてここで命を懸けて誰かを守ろうとした。 shadow、その意志が今のあたしを生かしている。
「待たせたな。はい、これ」
久遠が温かい飲み物を差し出して、隣に腰掛けた。
「久遠くん、あのね……」
「何だ?」
「あたし、昨日の夜、夢を見たの。……銀色の髪をした女の子と、名前も知らない男の子が楽しそうに笑ってる夢」
あたしは空を見上げた。
青い空に桜のピンクと、あたしの銀髪が混ざり合う。
「その二人がね、今のあたしたちを見て笑ってた気がしたの。……よく頑張ったね、って」
久遠はしばらく黙ってあたしの言葉を反芻するように空を見ていたが、やがて、あたしの手をそっと握りしめた。
「……そうか。きっと、あいつらも満足してるんだろう。あんたが、こんなに笑ってるんだから」
――シーン4:白雪さくらという奇跡――
あたしの名前は白雪さくら。
ある少年の死と、ある少女の死。その二つの終わりから生まれた、奇跡のような命。
あたしの過去は真っ白かもしれない。
けれど、これからの未来は久遠と一緒に、ゆきなと一緒に、鮮やかな色で塗りつぶしていける。
「……行こう、久遠くん。夕飯の買い物、手伝ってよ」
「ああ。今日はおまえの好きなオムライスにするか?」
「賛成! あたし、ケチャップで猫の絵描くからね」
笑い合う二人の背中。
舞い散る桜の花びらが、あたしの銀髪に一際輝く星のように降り注ぐ。
あたしはここにいる。
あたしはあたしを愛している。
shadow、この世界をあたしは愛している。
物語のページはここで一度閉じられ、
「白雪さくら」という一人の少女の、
どこにでもある、けれど特別な人生が、今、新しく書き記され始めた。
(完)
『デュアルソウルさくら』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
本作の連載を終えて、皆様にどうしてもお伝えしたいあとがきがございます。
実は、前作『パーフェクトガール』の投稿が遅れに遅れたおかげで、同時期に執筆完了していたこの『デュアルソウルさくら』の投稿も遅くなってしまいました。長らくお待たせする形になってしまい、楽しみにしてくださっていた皆様には大変申し訳ありませんでした。
ですが、こうして無事にさくらと久遠の物語を最後まで皆様にお届けすることができ、作者としても深く安堵しております。二人の魂の融和と決断の物語を、皆様の並走とともに見届けられたことは何よりの喜びです。
また、一気投稿のスケジュールに合わせるために本編中では省略させていただいていた**「挿し絵」につきましては、今後のスケジュールに合わせてこれから順次掲載(更新)していきます!**
一度読み終えたシーンがどんなビジュアルで彩られていくのか、ぜひこれからの更新も楽しみに待っていただけると嬉しいです。
最後に、これまで本作を温かく応援し、付き合ってくださったすべての読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました!
――また次の物語でお会いしましょう!




