プロローグ:銀の欠片、紅の雨
「俺」は死に、「彼女」も死んだ。――そして、あたしが生まれた。
事故で失ったはずの命。
目覚めた先で待っていたのは、かつて愛した少女の肉体と、書き換えられた運命。
「俺」としての矜持と、「あたし」としての本能が激突する、残酷で美しい物語が幕を開けます。
【境界線の衝突】
その瞬間、世界から音が消えた。
視界を埋め尽くしたのは、暴力的なまでに眩いトラックのヘッドライト。鼓膜を突き破るようなタイヤの悲鳴。そして――。
(……あ)
隣に座っていた「彼女」が、驚愕に目を見開いた顔。
風に舞う銀色の長い髪が、スローモーションのように視界を横切る。
鈍い衝撃。
金属がひしゃげ、ガラスが宝石のように砕け散る。
あたしの意識は、熱い鉄の匂いと冷たい夜風の隙間に吸い込まれていった。
「……くら……、さ……くら……っ!」
自分の喉が震えているのか、それとも心が叫んでいるのかさえ分からない。
伸ばした指先が、彼女の頬に触れる直前で止まる。
アスファルトに広がる、紅い雨。
俺たちの時間は、そこで一度、完全に断絶された。
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【白磁のゆりかご】
闇。
深い、深い、水の底のような暗闇。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。数秒か、それとも数百年か。
『……適合率、上昇。精神構造の再構築を開始します』
遠くで無機質な女の声が聞こえる。
あたしの意識はバラバラに砕けたジグソーパズルのように、誰かの手によって強引に繋ぎ合わせられていく。
(あたしは……誰? 何を、していたの……?)
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思い出そうとするたびに、脳裏に鋭い痛みが走る。
部活の汗の匂い。バカ話をした友人たちの笑い声。
それらが、磨りガラスの向こう側へと遠ざかっていく。
代わりに流れ込んでくるのは、見知らぬ少女の記憶。
ピアノの音色。冷たい屋敷の廊下。
そして――誰かを一途に想う、胸が締め付けられるような熱い鼓動。
『白雪さくら――プロジェクト・リバース、最終フェーズへ移行』
その名前を呼ばれた瞬間、あたしの魂は「俺」であることを放棄させられた。
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【誕生、あるいは呪い】
「……おはよう、さくら。新しい気分はどうだい?」
ゆっくりと目を開ける。
目に飛び込んできたのは、白一色の天井と、見下ろす眼鏡の男――如月博士の歪んだ笑顔だった。
あたし……いや、俺は重い身体を動かそうとして、その違和感に息を呑んだ。
視界に入る腕は驚くほど細く、白磁のように滑らかだ。
シーツからこぼれ落ちた髪は、月光を透かしたような、鮮やかな銀色。
「な……に、これ……。声があたしの……っ」
喉から漏れたのは、鈴を転がすような可憐な少女の震え声。
股間の喪失感。胸を圧迫する未知の膨らみ。
鏡を突きつけられた瞬間、あたしはそこに映る「絶世の美少女」を見て言葉を失った。
それは、あの日死んだはずの「彼女」の顔。
そして今、この身体を動かしているのは、死んだはずの「俺」の精神。
「君は死に、彼女も死んだ。そして今、君たちは一つになったんだ」
博士の言葉が、呪いのように部屋に響く。
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【運命の歯車】
窓の外では、あの日と変わらない無慈悲な雨が降っている。
あたしは震える手で、自分の胸を抱きしめた。
心臓がドクンと跳ねる。
これは俺の鼓動か。それとも彼女の残響か。
物語はここから始まる。
性別を奪われ、運命を書き換えられ、巨大な陰謀の渦に放り込まれた一人の少年の――いいえ。
愛する人を守るために、化け物として生まれ変わった「白雪さくら」の、残酷で美しい旅路が。
「……あたしが、あたしを……捕まえてみせる」
銀髪の少女は鏡の中の自分を睨みつけ、最初の一歩を踏み出した。
それが、破滅への序曲だとも知らずに。
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第1話「目覚めたらピンクの楽園」へ続く
ご一読いただきありがとうございます。
最愛の人の体で目覚めるという、残酷な再誕から物語は始まります。
「俺」としての意識と、美少女としての「肉体」。その狭間で揺れ動く彼女(彼)を待ち受けるのは、救いか、それとも破滅か。
謎の転校生・久遠との出会いが、さくらの運命をさらに狂わせていきます。
ぜひ、第1話もお付き合いいただければ幸いです。
イメージソングはこちら:https://suno.com/s/IIhCHbQ92e8avY02




