表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/28

プロローグ:銀の欠片、紅の雨

「俺」は死に、「彼女」も死んだ。――そして、あたしが生まれた。


事故で失ったはずの命。

目覚めた先で待っていたのは、かつて愛した少女の肉体と、書き換えられた運命。

「俺」としての矜持と、「あたし」としての本能が激突する、残酷で美しい物語が幕を開けます。

挿絵(By みてみん)

【境界線の衝突】


 その瞬間、世界から音が消えた。




 視界を埋め尽くしたのは、暴力的なまでに眩いトラックのヘッドライト。鼓膜を突き破るようなタイヤの悲鳴。そして――。


(……あ)


 隣に座っていた「彼女」が、驚愕に目を見開いた顔。

 風に舞う銀色の長い髪が、スローモーションのように視界を横切る。


 鈍い衝撃。

 金属がひしゃげ、ガラスが宝石のように砕け散る。

 あたしの意識は、熱い鉄の匂いと冷たい夜風の隙間に吸い込まれていった。


「……くら……、さ……くら……っ!」


 自分の喉が震えているのか、それとも心が叫んでいるのかさえ分からない。

 伸ばした指先が、彼女の頬に触れる直前で止まる。


 アスファルトに広がる、紅い雨(あかいあめ)

 俺たちの時間は、そこで一度、完全に断絶(デリート)された。


---


【白磁のゆりかご】


 闇。

 深い、深い、水の底のような暗闇。


 どれくらいの時間が経ったのだろうか。数秒か、それとも数百年か。

『……適合率、上昇。精神構造の再構築デフラグを開始します』

 遠くで無機質な女の声が聞こえる。

 あたしの意識はバラバラに砕けたジグソーパズルのように、誰かの手によって強引に繋ぎ合わせられていく。


(あたしは……誰? 何を、していたの……?)


[ Loading... ]


 思い出そうとするたびに、脳裏に鋭い痛みが走る。

 部活の汗の匂い。バカ話をした友人たちの笑い声。

 それらが、磨りガラスの向こう側へと遠ざかっていく。


 代わりに流れ込んでくるのは、見知らぬ少女の記憶。

 ピアノの音色。冷たい屋敷の廊下。

 そして――誰かを一途に想う、胸が締め付けられるような熱い鼓動。


『白雪さくら――プロジェクト・リバース、最終フェーズへ移行』


 その名前を呼ばれた瞬間、あたしの魂は「俺」であることを放棄させられた。


---


【誕生、あるいは呪い】


「……おはよう、さくら。新しい気分はどうだい?」


 ゆっくりと目を開ける。























 目に飛び込んできたのは、白一色の天井と、見下ろす眼鏡の男――如月博士の歪んだ笑顔だった。


 あたし……いや、俺は重い身体を動かそうとして、その違和感に息を呑んだ。

 視界に入る腕は驚くほど細く、白磁のように滑らかだ。

 シーツからこぼれ落ちた髪は、月光を透かしたような、鮮やかな銀色。


「な……に、これ……。声があたしの……っ」


 喉から漏れたのは、鈴を転がすような可憐な少女の震え声。

 股間の喪失感。胸を圧迫する未知の膨らみ。

 鏡を突きつけられた瞬間、あたしはそこに映る「絶世の美少女」を見て言葉を失った。


 それは、あの日死んだはずの「彼女(さくら)」の顔。

 そして今、この身体を動かしているのは、死んだはずの「(わたし)」の精神。


「君は死に、彼女も死んだ。そして今、君たちは一つになったんだ」


 博士の言葉が、呪いのように部屋に響く。


---


【運命の歯車】


 窓の外では、あの日と変わらない無慈悲な雨が降っている。

 あたしは震える手で、自分の胸を抱きしめた。


 心臓がドクンと跳ねる。

 これは俺の鼓動か。それとも彼女の残響か。


 物語はここから始まる。

 性別を奪われ、運命を書き換えられ、巨大な陰謀の渦に放り込まれた一人の少年の――いいえ。


 愛する人を守るために、化け物として生まれ変わった「白雪さくら」の、残酷で美しい旅路が。


「……あたしが、あたしを……捕まえてみせる」


 銀髪の少女は鏡の中の自分を睨みつけ、最初の一歩を踏み出した。

 それが、破滅への序曲(バグ)だとも知らずに。


---

第1話「目覚めたらピンクの楽園」へ続く

ご一読いただきありがとうございます。


最愛の人の体で目覚めるという、残酷な再誕から物語は始まります。

「俺」としての意識と、美少女としての「肉体」。その狭間で揺れ動く彼女(彼)を待ち受けるのは、救いか、それとも破滅か。


謎の転校生・久遠との出会いが、さくらの運命をさらに狂わせていきます。

ぜひ、第1話もお付き合いいただければ幸いです。


イメージソングはこちら:https://suno.com/s/IIhCHbQ92e8avY02

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ