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魔塔にて②

翌日も、昨日の続きで、干ばつに関する調査報告書を作成し、採取した植物について王宮図書館で調べる。


本の場所は、昨日あらかた目星をつけていたので、比較的スムーズに作業は進んでいた。


植物に加えて、ユキシロオオタカについても追記しておく。なにせあの卵の主なのだ。この鳥の話なしには今回の話は語れない。



(それにしても…)


ティリーエは手を止めて昨日のことを思い出す。

ヤンのあの真剣な表情は、本気なのだという気持ちが真に伝わるものだった。


(確かに、侯爵家にアイシャさんが来たら、私は侯爵家から出ることになるわ。そしたら自活しないと生活ができない。おじいちゃんの所に行こうかと考えていたけど、おじいちゃんも年だし、いつまでも甘えては、ね。

ヤンが医療院を立ち上げて独立するつもりだったなんて驚きだけど、悪い話ではないかもしれない)



魔塔に務めるのは給料や安全が保証されていて働きやすいが、基本的に国家運営事業なので、遠征は多い。

また、大義を前に少数の犠牲はやむ無しな部分があり、例えば目の前で高熱に苦しむ子供がいたとしても、遠い街の山火事の鎮静化が優先だったりする。


遠征や大人数を相手に働くので、若いときしか務まらないし、ティリーエは目の前で苦しむ人に手を差し伸べる身近な治療院、医療の方が身の丈に合っていると思っていた。

ヤンの言う通り、時期や自身の年齢を見て就職先を変えるのは良い案だと思えてきた。

新しい治療院の立ち上げに誘ってくれたことも、素直に嬉しかった。誰かに必要とされることは、やっぱり嬉しい。



捨てる神あれば拾う神あり。

何となく胸のつかえが軽くなって、それからはペンがよく走り出した。







「ぬぁぁぁぁぁあ!!!」



「どしたの、ヤン」


朝から幾度となく奇声を上げるヤンに、ファラが呆れた声を上げる。



「順番も吹っ飛ばして僕は何を… あぁぁぁあ 時間が戻せるなら…  いやいっそ、消えてしまいたい…」


「だから、どうしたのさ」


こんな調子で、何があったのかは全然分からないのに、急に懺悔を始める部下を不思議そうに見つめる。



「まだ医術師にもなれていないのに… いや、それよりもまず、好意を伝えるべきだった…」


ヤンは頭を抱えて首を振っている。

仕事が手についていないのがとにかく問題だ。


「ちょっとちょっと。だから何があったのかって聞いてるじゃん。話してみてよ。このままじゃ全然分かんないよ」


痺れを切らしたファラが、多少語気を強めてヤンに問う。



「うぁ… す、すみませんファラ様… 」


「うんうん、本当に。君がそんなに考えても分からないなら、もうそんなに無駄に悩まないで、誰かに相談した方が良いよ。僕じゃ嫌なら、室長にでも聞いてみたら」



「エッ!! いえ!  ファラ様が嫌とかあるわけないです!  ハッ!? そういえばファラ様、ティリーエさんと親しかったですよね!?」


「ん? まぁね。 え、何。その奇行、ティリーエ絡みなの」



「はい… 実は」



ヤンは、昨日の夕方の出来事を、ファラに話してみた。

ファラは面白そうにふんふんと聞いた。



「なるほど。話は分かった」


ひとしきり聞いてから、ファラは真顔で頷いた。



「ど、どう思います?」


「そうだな。残念だが…」


「エッ 残念だが…!?」


「ティリーエはきっと君の意図を正確に理解できていない可能性が高い」


「意図?理解ですか?  そのままなんですが…」


「うん、そのままだよね。だけど、多分、君の気持ちの半分も伝わっていないはずだよ」


「そんな… どういうことですか」


「そうだなぁ。ヤンは″僕のそばに一生一緒に居てほしい″とか、″同じ夢を見よう″つまり、″嫁に来い″という意味でティリーエに言ったんでしょ?」


「はっ…その… はい…  またお付き合いもしていないのに、先走りました。は、恥ずかしい限りですが、その通りです」


耳から首まで真っ赤にして、ヤンがうなだれる。



「ウン。だよね… でも多分、ティリーエは、ヤンが治療院を立ち上げる時に一緒に働こうぜって誘われたと思ってる気がする。いわゆる、スカウトだな。ヘッドハンティングてやつだ」


「そんな…!?」


「だって、さっきの話をストレートに聞けば、その通りだろ。恋愛要素なんてひとつも無かったじゃん」



「た、確かに…」


「だから、そんなに慌てなくても大丈夫。ティリーエに会えば分かるけど、彼女はきっと、至って普通だろうから。後日改めて冷静に、きちんと話したらいいよ」



「ありがとうございます…。 ホッとしたような、悲しいような、複雑な気持ちです」



「ウンウン。分かるよ。ドンマイ」



ひょろりとした長身の背を丸めて、ついに持ち場へ戻ろうとしたヤンの背中を、ファラは優しくさすってやった。



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