暗黒生命体討伐戦線9
「なんだ、アレは」
指揮官が呆然と呟いた、私はそんな指揮官を無視して次の指示を出していく、もうこの人には任せていられない、前進の命令も止めれば良かったと後悔している私は暗黒生命体の圧が減った好機を逃さず後退の命令を出した。
『イー、ヤッハァー!!』
『キャプテン!併せるこっちの身にもなってよね!』
『細けえこたぁノワの方が得意だろ、アタシは他人に併せるなんざ無理無理!』
『もうバカ!』
小型の傭兵艦二隻が我々主力艦隊の目の前を通過して行く、左翼から通信が入っていたので一応待ち構えてはいたのだが、まさか本当に敵陣を吶喊する者が居ようとはこの目で確認するまでは半信半疑だった。
よくゲーム等でも言われるヘイトというものがある、目立つ行動を取る事で敵の注意を自身に向けるのだが暗黒生命体も生物の宿命かそういった習性は確認されていた。
左翼で超重力砲の重力波を観測したと同時に暗黒生命体の動きが何かに引っ張られるように中央の此方へと動き出した、同時刻左翼旗艦からの通信で傭兵艦が二隻で吶喊するという訳の分からない内容を知らなければ慌てて撤退を命じていたくらいだ。
数億、いや少なく見ても数千億の肉塊が二隻の傭兵艦に釣られて左翼から中央、そして右翼へと流れていっているのだ、しかも敵陣の中心を突破しながら更に加速していく様はクレイジーのひと言に尽きる。
普通、敵に向かって飛んだら速度は落ちるだろう、何故加速していくのだ、観測手による撃破スコアの数値が傭兵艦二隻だけ桁が跳ね上がって行く。
「これはトリプルスコア、いや・・・」
3番手のスコアでも数百万撃破程度、トップ2は既に単艦2000億を突破している、いくら過去最大規模の暗黒生命体討伐戦線とは言え常軌を逸していた。
『超重力砲!』
『爆縮弾発射!』
3000億も目の前になった、下手な駆逐艦より稼いでいる、小型戦艦艦が叩き出すスコアでは無い。
「白銀の処刑人・・・」
「なんだそれは」
「はっ!いえ、先日サジタリウス方面で行われた宇宙海賊に対する大規模作戦で名を上げた傭兵艦にそっくりだと思いまして」
「処刑人とは、また物騒な二つ名だな、艦名か艦長の名は?」
「はっ、申し訳有りません、酒飲み話で聞いた事なので詳細は・・・、ただ対艦ブレードを搭載した白銀の美しい艦とだけ」
「・・・それは、あんな感じか?」
丁度目の前のメインモニターにはブレードを展開して巨大な肉塊を切り裂くアークが映し出されていた。
「そ、うですね、あんな感じ、かと」
「・・・当該戦闘艦アーク、調べておくように」
「はっ!了解致しました!」
副官は使い物にならない指揮官を拘束して軟禁、仕事が明らかに自分に集まり忙殺され始めていた、いつもなら自分で直接確認する事も全部余裕の有りそうな部下に仕事を投げて、本当の効率というものを学んだ副官であった。
***
それは中央宙域から右翼へ差し掛かった時だった、暗黒生命体特有の赤いレーザーより2回り太く、より紅いレーザーがアークのシールドに着弾した。
「!、ノワさん新手です、これは・・・」
『新型の暗黒生命体だ!火力が高いぞ気を付けな!』
シールドを急速チャージするシールドセルを使用したタイミングだから耐えられたけど、か細い暗黒生命体の赤いレーザーより遥かに威力が高い!
其の姿は異形の肉塊と触手では無く、肉塊を無理矢理成型して造られた赤黒く醜悪な小型戦闘艦だった。
「速い!」
『ノワ!そっちに気を取られて他を疎かにするんじゃないよ、単騎で強い奴より暗黒生命体は数だ!』
「分かってる!」
と言っても火力と機動力を備えた新型暗黒生命体も放っておける程余裕は無い、幸い動き自体はライセンス取り立ての新人みたいな動きなので電磁加速砲を簡単に叩き込めた。
ドパァ!と肉に大穴が空いた事で私は驚愕した、同化艦ベースかと思いきや中身も完全に有機物で構成されていて、航宙艦の無機物が全く確認出来なかったのだ。
『マジモンの新型だ、シェフィ、データを取って帝国軍に送っとけ!』
「はい、既に最優先タグを付けてリアルタイムで送信しております」
一瞬新型に気を取られただけで進路は細く難しい状況に変化していた、やっぱり数が多過ぎる!
(肉)面制圧されそうになりながらも火力と機動力でどうにか針の穴を抜けて、漸く右翼まで辿り着いた。
「後退は!?」
「完了しております、軍から一斉砲撃の予告がこちらです!」
当然中央艦隊が最も火力が高い、私とキャプテンは肉塊を引き連れたまま戦艦の射線上へとスロットル全開で加速する。
「予告まで20.19.18・・・」
射線からの離脱タイミングを計算したシェフィがカウントダウンを開始した、真っ直ぐ戦艦の主砲へ向かって翔ぶ。
後方からは赤いレーザーが数え切れないほど到来して、アークとブラックダイヤのシールドを削るが互いにシールドセルは間に合っていた。
「9.8.7.6.5.ノワ様!キャプテン!」
シェフィの合図で仰角90度の鋭角機動、一気に暗黒生命体の前から離脱する、カウントダウン終了と離脱完了はほぼ同時。
待ち構えていた帝国航宙艦隊の一斉砲撃が数に優る暗黒生命体を消滅させた、流石の火力、レーザーの壁と言っても良い面制圧で、私達に釣られて追いかけ回していた暗黒生命体は跡形もなく蒸発していった。
周囲を3Dレーダーで見る、追い掛ける敵性体が居ないことを確認すると伏角90度で帝国航宙艦隊旗艦とすれ違った。
「ノワさん、旗艦から御礼と中央艦隊との合流依頼が」
「えー・・・」
『ニーナ、アタシらは十分に稼いだよ、甘えんなテメーで何とかしな!って言っとけ』
「ですよね、丁重にお断りしておきます」
流石にね、濃密な十数分だったので私としてもかなり疲れたよ、これから更に従軍する場合ちょーっと集中力が持たない。
肉体的にはまだ大丈夫だけど、背中と手にじっとり脂汗をかいて「ふー」ってなっちゃったから、戦闘続行は遠慮したいかな。
キャプテンの言葉は悪いけど、私も概ね賛成なのでこちらを見ているニーナさんにコクリと頷いて後方の補給修理艦へと帰投する事にした、メカニックさんには多めにお金を渡して「じっくり」補給とメンテナンスをお願いしようと思う。
場合によっては修理に時間が掛かって再出撃も無理かもしれない、シールドは破れてないし被弾なんてしてないけどね!
傭兵ギルド所属小型戦艦艦が一機や二機居ない程度なんて、5000兆の暗黒生命体の戦場での影響は大した事ないよね、居てもいなくても大勢には関係無い筈だ。
えっ、たった今大勢をひっくり返したって?
そんな状況に陥ったのは誰のせいなんですかねぇ、・・・その責任を取って「頑張って」って話だよ、帝国航宙艦隊がまさか傭兵に頼りきりなんて面子が許さないでしょ!
傭兵ギルドの担当は作戦開始時点で2万の同化艦、それも殆ど片付けた後で最前線まで出張ってここまでお膳立てしたんだよ、ね、頑張って♡
強引に通信を繋いで来た帝国軍の相手に私はニッコリと笑顔でお断りをした、勿論ちゃあんとオブラートに包んで丁重にね、キャプテンの方へ通信した人は怒鳴られていたけど、傭兵に対する強制命令権は余程の事態じゃないと了承されないし、私達はし過ぎと言える程に仕事をしたので何方も黙って引き下がっていった、はい、お疲れ様でした!!




