暗黒生命体討伐戦線8
各宙域からの増援、戦力の再配分によってどうにか左翼の崩壊は免れていた、しかし左翼で拮抗していた間に今度は中央の主力艦隊と右翼が、左翼と比較して突出してしまっていた。
「バランスが・・・」
『マズイな、主力が食われちまうよ』
敵の数は未だ5000兆を下回ってはいない、このままでは物量に負けて中央主力が肉塊に食いつかれてしまう、戦艦級、重巡洋艦級が多く存在する主力が撃沈では無く、食いつかれて同化艦に陥った場合、全滅は避けられないだろう。
「私からもサジタリウス艦隊副官として提言してみます、恐らくダメだとは思いますが・・・」
「シェフィそもそも今の座標は予定とどれだけ違うの」
「はい、左翼は当初の予定に近い座標ですね、戦力は減退しましたが保つでしょう、中央と右翼に関しては予定より4.52の前進座標です」
「前に4.52!? 出過ぎじゃない!?」
「はい、計算の結果約134分後、中央主力艦隊は暗黒生命体に飲み込まれるでしょう、直ちに所定座標までの後退をすれば修正は可能ですが」
「退いてたらこんなことになってないよねぇ!?」
「はい、いいえ、正にその通りですノワ様」
正面からの撃ち合いではバランスが取れていても、左翼が引き気味なので中央の側面から崩れかねない事態だ、私達が現在居る左翼側には戦線を押し上げろって命令が来ていると思うんだけど、此方の主力である帝国航宙艦隊の中型大型艦は損耗しているので「はい分かりました」とはいかない筈だ。
だって、崩れ掛けた左翼を支えたのは小型戦闘艦で、中央が思っている中型艦以上の大火力を期待されても無理というものだ。
ここで前進したらそれこそ崩壊の道筋なので、左翼指揮官は中央と右翼が下がれと打診しているだろう。
『中央、右翼共に後退を確認しました』
『だよなー』
「良かった・・・」
「待って下さいノワさん、これは」
「え?」
「予想より暗黒生命体の前進が速いですね、相対距離が拡がりません」
「食いつかれて、ますね」
うわぁ、正に後手後手の対応だ、同じ軍人としての立場に共感してしまっているのかニーナさんの顔色はかなり悪い。
「うーん、キャプテン行ける?」
『アタシを誰だと思ってるんだい、行けるに決まってんだろ』
「ノワさん?」
「本来なら止めるべきなんでしょうけどアークの艦長はノワ様です、私は何処までもお供致します」
「まさか、行くと言うのですか、本隊救援へ?」
私がやろうとしている事をいち早く察したのか、キャプテンは頷き、シェフィは呆れ気味に了承してくれた、ニーナさんは信じられないとばかりに驚いた。
「だ、ダメです、ノワさんのお立場を考えたら、そのような選択には頷けません」
「でも本体が此処で撤退する様な事態になったら、逃げ道も狭くなるよね?」
「それは、そうですが・・・」
「まあ1番敵影の薄い所を突っ切ればアークなら逃げ切れるとは思うけど、それは今取ろうとしているだろうリスクと大差ないし」
センターコロニー・グラッドストンでミュウちゃん家族を拾って単艦離脱と味方艦多数の現状で援護しに行くのと、敵陣突破のリスクはあまり大差ないよね。
なんなら味方艦が多い分、今やろうとしている事の方がリスクのコスパ(?)はかなり良いと思う。
「まあニーナさんが止めるならやらないよ、1人で戦っているつもりは無いからね」
「・・・・・・」
ニーナさんは眉を顰め口を閉じた、重苦しい沈黙がアークのコクピットを包み込んだ。
「・・・良いでしょう、ノワさんの言う通りベストでは有りませんが最終的にベターとなる選択肢である事は認めます」
「じゃあ」
「しかし!約束して下さい、無理だと思ったら即座に後退すると」
「うん、それは任せて欲しい、私だって自殺願望はないからね」
***
「か、艦長!傭兵ギルド所属艦から援護の要請が」
「援護? 傭兵ギルドから?」
「い、いえ、傭兵艦から・・・」
「どういう事だ、報告は簡潔正確に、何故傭兵から援護要請なぞ」
「は、はい、その・・・、傭兵ギルド所属艦アークがこれから左翼を中央突破、暗黒生命体を引き連れて中央戦線を左翼から右翼まで横断、敵性体の注意を引いて本隊の後退を支援する、らしいです、吶喊するのでアークに射撃を当てないよう頼む、と」
「???」
「???」
「???」
左翼旗艦、戦艦指令室の艦長、副長、戦術参謀、火器管制統合長が皆、顔に「?」を貼り付けた。
要請を受けたオペレーターが困惑しながらも中央メインモニターにアークから送信された予告軌道が映し出される。
「!?」
指令室にどよめきが満ちた、それはそうだアークから送られて来た予告軌道は、暗黒生命体で真っ赤に染まる3Dホロマップのど真ん中を突破、文字通り左翼から右翼まで駆け抜けて敵を引き付ける軌道なのだから。
「自殺したいのか? 単艦でこのような、決死隊なら兎も角」
「あ、いえ、単艦では有りません」
「そ、そうか」
そうだよな、と続ける艦長の声は口から出る事は無かった。
「2艦です」
「???」
2艦? 二隻? 航宙艦2? 先程崩壊の危機を迎えた時以上の動揺が指令室を駆け巡った、1が2になったからどうだと言うのだ、肉塊で満ちる地獄を小型戦闘艦が二隻で中央突破、イカれてる、誰もがそう考えた。
「あっ」
「今度はなんだ」
「そ、その・・・」
「報告は簡潔正確迅速に!」
「は、はい!傭兵艦アーク、ブラックダイヤ号、共に吶喊を開始しました!」
「???」
「アークから超重力砲予告!」
「???」
吶喊、意味が分からない、超重力砲? 何故傭兵の小型艦に超重力砲なんて超広域破壊兵器が?
「つ、続けてブラックダイヤ号から爆縮弾!」
「ええい! 砲手はアークとブラックダイヤに当てるなよ! 観測手は当該二隻の傭兵艦をしっかり見張っとけ! 他の傭兵艦には真似するなと警告しておけ!」
「りょ、了解!」
「更にアークからも爆縮弾が!」
「何故!傭兵艦なぞが!広域破壊兵器を所有しているのだ!」
「・・・購入したからでは?」
「そういう事を言っているのでは無い!」
血管が切れそうな艦長と目を丸くする副官がとても印象的な指令室は慌ただしく動き出した。
帝国軍はとても優秀で、狙うのも必要の無い暗黒生命体の大群の中の豆粒2つにも気を払って行動を再開させたのだった。
「中央艦隊と右翼にも通信入れておけ!」
「サー、イエッサー!」
どうせ途中で力尽きて爆散するだろうがな、そう言った艦長の予測が当たる事は無かった。
正に言葉を失うのは数分後の事である・・・
***
「キャプテン前に出過ぎ!」
『あぁん? ノワがアークに着いてこれるかなんて舐めた事言うからだろ』
「別に煽った訳じゃないから!」
「ひい、暗黒生命体がッ、多いひっ!」
「ニーナ様大丈夫です、まだ余裕ありますから」
私とキャプテンは暗黒生命体の肉塊の隙間を縫うように吶喊を仕掛けていた、超重力砲で大群を気持ち良く薙ぎ払って開幕の圧を減らし、爆縮弾でポカリと空いた空間に飛び込む。
レーザー砲は最大稼働、電磁加速砲もMAXパワーで撃っている、普段出力を抑えている電磁加速砲がギャォォォと唸りを挙げて放つ質量弾は一直線上の暗黒生命体を全てを破裂させながら消え行く。
キャプテンも四門のレーザー砲が進路を薙ぐようにして切り開き、あまりの敵性体数に火力が足りないとミサイルの一斉射撃で押し通る、そんな状況を繰り返しながら敵陣を突き進んでいた。
機動力においてはアークの方が遥かに高い為、吶喊前に「着いてこれる?」と確認したらキャプテンは煽られたと言って先行し始めた。
違うから、煽ってないから、のんびりしていると全周に渡って存在する肉塊に押し潰されてしまうので、出来るだけ迅速に駆け抜けなければならない、でも速度が速くなればなるほど瞬時の判断時間は短くなるので難しくなる。
死角を補い合う為にアークとブラックダイヤは艦底部を常に向き合いながら加速していく、超重力砲を除けば火力は圧倒的にミサイル搭載艦であるブラックダイヤの方が高いのでキャプテンが進行方向へ艦首を向け、アークは進行方向とは逆に艦首を向けて突き進む。
時には艦首を揃え、時には互いに進行軸と艦首を乱回転して死角を潰し合う。
まるでダンスのステップを踏むように、艦と艦のシールドが干渉しないギリギリの間合いを保ちながら。
そんなことが可能なのも私とキャプテンが互いに動きを知っているという事も有るし、技術の高さもある、しかしそれ以上にシェフィの存在が大きい。
アークにはシェフィ本体、ブラックダイヤには『第3の私思』端末のシェフィ(球)が居るので、相互リンクで詳細な位置情報を補完、サポートしているのだ。
勿論、相互リンクに集中しているシェフィに代わってニーナさんが担う仕事も欠かせない。
暗黒生命体に対してフレアの熱源は十分効果があるし、チャフによるレーザーの減衰も馬鹿にならない。
そんな絶妙なバランスの中、私達は赤黒い肉塊の宇宙を突き進んでいた。
なんか先にSAN値の方が尽きてしまいそうだけど、そこは気をしっかり持って頑張ろう、当分肉は食べたくないけどね・・・
てつお・・・




