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永遠に、ぼくの心を  作者: 春乃光
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序 章・恋 慕 ◇2

 親愛なる 立花健祐 様


 開け放たれた窓から、頬を打つ清らかな風と優しい日差しが晩秋を告げています。

 私は病室のベッドの上でこれをしたためているのです。ここに来て、もうひと月余りが過ぎようとしています。

 退屈?

 残念でした!

 意外にも私はここの生活を楽しんでいるの。

 大好きな読書、詩作に耽ったり、窓外の自然に親しんだり。今、野鳥のさえずりが聞こえたような気がします。

 それに、ここからは幼い子供の元気な声が聞こえるの。幼稚園か児童公園が近くにあるんだわ。子供の無邪気な笑い声っていいものよ。こちらも元気をもらえるような気がする。毎日子供たちと戯れている気分よ。

 ねえ、結構忙しいでしょう。

 でもね、そうこうしているうちにもうじき退院なの。またテストなんかに追い立てられるのはホントにしゃくに障るわ。ここの生活が恋しくなるわね、きっと。

 まあ、こんなこと言っちゃいけないわね。また健ちゃんに叱られちゃう。健康第一だもんね。ゴメンなさい。


 さて、先日頂戴したお手紙、拝読致しました。

 有意義な高校生活を送っていらっしゃるとのこと。

 来年はもう大学受験ですね。私も陰ながら応援しております。健祐さんには、私の分まで、学問を続けて頂きたいと勝手ながら願っています。

 幼い頃から、いつも勉強や自然のことを教えてくれましたね。病弱であまり外で遊べなかった私に、色々なものを持って来てくれました。野山で摘んだ草花。海辺で拾った貝殻。私が行けなかった場所の絵を描いて持って来てくれましたね。そして丁寧に説明してくれました。私は心躍らせながら健祐さんのお話を聞いたものです。まるで昨日のような気がします。

 みんな例の宝箱に大切に保管してあります。

 時折、取り出してみては、幼い私と健ちゃんを思い出しているのよ。

 あら、いけないわ! 感傷に浸ってばかりじゃ。

 私も自分の夢に向かって前進しなくては。健ちゃんに笑われないようにね。

 叶うといいなあ! 無理かもしれないけど。

 ゴメンなさい。こんな取り留めのない手紙になっちゃって。


 それでは、健祐さんの健康と、未来が光輝くものでありますようにお祈りしてペンを置くことにします。

 次回のお便り、楽しみに待っております。

 私の方も新品の私になって、お便り致しますので。



 追伸 

 私はもう大丈夫。子供の頃より体も随分丈夫になったわ。

 今回の入院も念のためだったの。

 以前の私とは、比べものにならないくらい元気よ。

 だから心配しないでね。

 健ちゃん自身のことを一番にね。これが私の望みなの。

 

 それから、とても残念なお話があるの。

 私たち、あの街を離れなければならないの。

 想い出がいっぱい詰まった懐かしの「あの故郷」をよ。

 悲しいんだけど仕方ないもんね。

 家庭の事情ってやつよ。いやね、もう!

 もう既にアパートも見つけてあるの。

 そのアパートからは大学の高い建物が見えて、アパートの駐車場の片隅からヤツデが手を振って見送ってくれるのよ。健ちゃんがいたアパートと同じなの。

 裏の森から聞こえる小鳥の声で目覚めるのね、きっと。

 また、引越し先に落ち着いたら連絡しますので、それまでのご無沙汰です。

 それでは、いつかまた会える日を楽しみにしてるね。

 未来の健ちゃんの姿、見てみたいものです。

                                          


  十一月二十五日 十七才の晩秋  田代章乃


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