王国の真実
「門番が二人、見張り台に三人、槍やボウガンの武装、出来れば人殺しはしたくないが難しいか……」
「正面から行くの?」
「そう思っているが、何か他の案があるのか?」
夜の王国、私たちはその壁にある門の前の草むらに身を隠していた。
「実は川から地下の水路に入れるのよ、中に閉じ込められている亜人たちともそこを通して交流してたの」
なるほど、そこからなら王国の地下に入れるわけだ、だがそれではミーちゃんを探すことができない、ミーちゃんは私のように体が変化しているわけでは無いからただの人間として国に入った筈だ、王様や兵士に聞いていくしかないか。
「私は正面から行くとしよう、そして王様に直接会ってくる。亜人の解放を要求してみるがもしも出来なかったらその時は城の屋根をぶち抜く、見逃すなよ」
「は?どういうこと?」
首を傾げるミルをしり目に私は草むらから飛び出した。
◇
王国の戦力、正直言えば拍子抜けであった、槍や剣、ボウガンで武装した兵士の数こそ多かったがその武器の材質が鉄なのだ、合金でも劣化ウランでもなくただの鉄、よく訓練してそれを使いこなせるようにはなっているがその重量は振り回すには遅く、私の防具を貫くには柔すぎた。
「くそ化け物め!!」
兵士が槍で突いてくる、それを腕で弾き反対の腕で柄を掴んで引っ張る、強化された私の腕力を相手に人間が勝てるはずもなく兵士は槍を手放した、槍を扱う訓練は受けてはいないが要は長い棒だ、剣で切りかかってくる兵士を接近される前に殴り倒す、金属の兜を被っている彼ら相手に衝撃は凄まじいものだろう、一撃で兵士たちは気絶してゆく。
ボウガンは中距離から飛んでくるが動いていれば早々当たるものではない、防具の無い頭は危険だが動いている人間の頭部に当てるなど神業に等しい、私は街道を一気に駆け抜け屋根に飛び移り城に向かって一気に駆けていった。
城の中は驚くほど静かだった、使用人どころか兵士一人すらも居ない。
「罠か?」
結局誰にも出会わずに王の間まで来てしまった。
玉座には王様が座っているが何か様子がおかしい、うなだれて動かない。
「王さま?……これは……」
王様の肩を掴んで顔を上に向ける、そこにあったのはあのふくよかで髭の生やしていた王の顔では無かった、白い骨、皮膚も肉も存在しないただの装飾の施された骸骨であった。
「随分と早いお帰りですね」
背後から女性の声が聞こえた、振り向くとそこに居たのは先日王を守っていた騎士が居た。
「どういうことだ……そう聞けば答えてくれるか?」
「答えられる範囲なら」
「お前は誰だ?」
「王国軍親衛隊一番隊長エリーヌ・ウェリンダ」
「違う、お前じゃない、お前を操っている奴だ」
「ほう?よく気付いたな、どうやって気付いた?」
「端末に表示されていた生命反応が突然消えて、この国に居る人間の生体反応が目の前の騎士とこの国から逃げようとしている反応だけになったからだ」
「なるほど、まるでSFみたいだな、あの武器を見た時から思っていたが俺の知っている科学技術を大きく上回っている。放っておけば精霊に殺されるかと思ったが、魔物に命を救われるとはな」
「ミーちゃんはどうした?お前は知っているか?」
「さあな、どっかで死んでんじゃないか?まあ安心しろ、お前もすぐに向こうに送ってやるさ」
騎士が剣を構える、どうやらこれを操っている奴は逃げる時間を稼ぎたいらしい。
騎士が一気に加速してこちらへ剣を振り下ろした、凄まじい速さだ、どれほどの訓練を積んだのだろう。
「っ!!」
両腕を組んで剣を受け止め弾きその兜に右ストレートを叩き込む、威力は抑えたが兜が変形するほどの衝撃を受けながら騎士は少しよろめき再び剣を構えた、なんて耐久力だ、こいつタダ者ではない。
「強いな、お前が死体なら一撃で終わるというのに」
そう言って私は背負っていた電磁投射装置を天井に向けて引き金を引いた、雷撃を纏った弾丸はその凄まじい威力で城の屋根を破壊し漆黒の夜空に一筋の光を生み出した。
これでミルが亜人の救出に向かうだろう、後は目の前の騎士を倒せば後はミーちゃんを探しに行くだけだ。
騎士が再び凄まじい速度で私の首めがけて剣を振り下ろしてくる、とても正確だ、だがその正確さが私の勝機でもある。
キィン!という音が鳴り響き固く尖った物体が地面に落ちた。
「捕まえた」
騎士の懐に潜り込みタックルした、欠けた角から響いてくる衝撃で頭痛が酷いがこれで刀は封じた、押し倒し剣を持っていた手を掴むと右手を振り下ろす、何度か殴ると抵抗していた騎士はその動きを止めた。
「死んでない、よね?」
兜を外す、そして何故彼女がこれほど強かったのか理解した、前は長い髪に隠れて見えなかったが尖がった長い耳が生えていたのだ、これは亜人の中でも稀少性の高いエルフと呼ばれる種族の特徴だった。
森に住み高い知能を持ち達人のごとき弓の使い手の狩人である。
「ミルは?」
この国にミーちゃんの反応は無い、逃げていた奴ももう見えなくなっていた。
私はこのエルフ、おそらくエリーヌを背負って城を下りて行った。
◇
「あ、ヒカリ!ありがとう!おかげで全員助けられたよ!」
国の外、そこには多種多様な亜人たちが居た、人間に動物の耳が生えただけのような者から完全に人とは違う姿をした人型の生き物までである。
「その人は……エリーヌさん!?」
「結構強く殴った、しばらくは目を覚まさないだろう」
私の言葉に亜人の中にどよめきが起こる。
「ちょ!あんまり皆を怖がらせること言わないで、みんなボロボロなんだから」
ミルが周りに聞こえないように耳元でそう言った。
「ごめん、それよりもこの人たちどうするの?」
「皆しばらく休憩したら元の住処に戻るって。貴方ははどうするの?」
「私はミーちゃんを探しに行く」
「そっか、ごめんねこんなことに巻き込んで……でも、ありがとう」
日が昇ってきた、そして暗闇に隠れていた国の様子が見えてきた、廃墟、大きな攻撃を受けたのだろう、壁は壊され町は廃墟になり城はボロボロで傾いていた。
亜人たちはその様子に特に驚いてはいなかった、ミルは私の隣に座りこの国の真実を話し始めた。
元々この国は亜人と人間が共に仲良く住まう国だった、だがある日現れた人間、そいつのせいですべてが変わった、大天使の導きによりこの世界に来たのだというその者は自らを勇者と名乗り妙な術で次々と人間を洗脳し亜人たちを追いやっていった、そんな時一人の亜人が立ち上がり勇者へと立ち向かったのだ、それがエリーヌ、亜人たちのリーダーとなり勇者を倒すために戦いを挑んだ、だが彼女は敗北し行方不明となってしまったのだ、そしてリーダーを失い勢いを無くした亜人たちは地下に幽閉された。
そして何十年という長い間勇者はこの国の王として君臨していた、見せかけの幻覚で国を包み住民たちはただの操り人形として動く屍となっていった、その間もこの国には何度か勇者と同じように大天使に導かれてこの世界に来たという人間が何人か現れた、それは勇者にとってはとても邪魔な存在であったので「お前は選ばれた勇者だ、人々を苦しめる魔物を討伐してくれ」そんな事を言い決して勝てるはずもない魔物の居る場所へ送り込まれていった。彼らがどうなったのかは分からない、生きているのか死んでいるのか……そして国に戻った者たちがどうなったのか、それは誰も知らなかった。