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アンチ転生論  作者: 金王丸
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鹵獲


 オレたち第二次隊はアルバート騎士団と別れた後、漆黒の夜陰に紛れ、何度となく往復したシガーラへの道を突き進んだ。しかし直接にかの地を目指すのではない。最初の目的はその途中にあった。


 「デッドリーさんよ、目的地はまだか?」

 「もう少しだ、もう少しで着く」


 辺り一面を埋め尽くす殺風景な耕作地、この先に最初の目的地がある。すると不意に初めて親方や兄貴と通った時のことを思い出した。敵地にありながらどこか牧歌的なその記憶に郷愁の念を隠し切れない。あの時は良かった、柄にもなく戻れない過去に思いを馳せた。しかし今となっては昔の話、思い出の玉手箱にそれをしまい込むと、オレは皆の望む明日を手繰り寄せるべく、前をのみ見つめた。そしてしばらく歩いた後、視界の奥に目的の造兵廠を捉えた。


 「……見えたぞ……!」


 小さくそう言って、隊の行軍を止め、松明の明かりを消す。そしてその建物の傍に小さな焚火を見つけた。周りにいるのは恐らく建物を警護している敵兵であろう。


 「これから突撃ですかい……?」

 「いや、相手の人数が分からないんじゃ危険だ。今から敵情を探って来る」

 「でもどうやって……もし近づき過ぎれば見つかってしまうし……」

 「ああ、それなら心配いらねえ! これがあればなんとかなるさ」


 心配する村人を宥めるべく、オレはおもむろに懐から酒瓶を取り出すとこれ見よがしにと見せつけた。そして近くにいた二人を指し示し、


 「よしっ、今から行って来る。お前ら二人はついて来い」

 「他の皆は次の行動の合図でこちらへ向かって来てくれ」

 「その合図は……」


 そう言い残すや否や、即座に行動を開始した。作戦はまだ始まったばかり、ここで味方に損害を出すわけにはいかない、この敵情偵察に隊の命運が懸かっている――思うところは様々にあれど、オレはそれを跳ね退けるよう、気持ちを強く持って敵陣に迫る。一歩、また一歩と近づき、そして遂に、


 「お前ら、何者だ?」


 こちらに気付いた敵兵は咄嗟に銃を構えた。しかしその手つきは緩慢で、焚火の明かりに照らされた彼らの顔は真っ赤に酒焼けしている。彼らはもはや軍人ではない、目の前にいるのはただの酔っ払いだった。


 「怪しい者ではありません。この辺りに住むしがない貧農共です」

 「今日は皆様にお酒を献上しに参りました」


 慣れない敬語をたどたどしく使いながら、手に持った酒瓶を彼らに差し出す。


 「おお、気が利くじゃねえか! ありがとうよ!」


 嬉々としてそれを受け取る彼ら、その姿を見るにつけ、さっきまでそこにあった警戒心はいつの間にか影を潜めていた。


 「お前らも一緒にどうだ?」


 上機嫌に勧められた杯を受け取り、飲み交わす。こうして彼らの懐に入ることが出来た。ここまでは思惑通り、問題はここからだ。しばしの雑談を挟んだ後、そっと本題に切り込む。


 「今日は人が少ないですねえ」


 周囲を見渡す素振りをすると、オレは内情を聞き出すべくそう独り言ちた。


 「ああ、明日シガーラで婚礼の儀が執り行われるからな。皆そっちに行ってしまったんだ」

 「どうも噂ではかなりのご馳走にありつけるとか……」

 「今日が夜勤当番だなんて、オレたちは本当にツイてないよな……」

 「そうだな……野郎三人で虚しく物置き場の見張りだぜ……飲んでなきゃやってらんねえよ!」

 「我が軍は連戦連勝、内地の造兵廠なんて敵も攻めて来ないだろうに……」


 一度きっかけを作ると彼らは止まらなかった。次から次へと湧いて来る愚痴に若干の同情を感じつつも、出てくる言葉の数々に本作戦の成功を確信する。油断、慢心、怠惰――これら堕落の芽は初め個人に芽生え、果ては蔦となって、組織をも覆い尽くし腐らせていく――彼らと接するに当たり、それを痛感した。すると馴れ合いはここでお終い、と言わんばかりに焚火が消えそうになる。


 「そろそろ火が消えそうだ」


 その言葉が終わるのを待つことなく、やおら立ち上がる。


 「おお、薪を持って来てくれるのか! 気が利くねえ!」


 次の瞬間、彼らの手元にある酒瓶を掻っ攫うと、弱った焚火にその中身をぶちまけた。火元はたちまちにその勢いを失い、辺りは真っ暗になる。


 「なっ、何しやがるっ!」


 時すでに遅し、彼らは武器を取り抵抗の構えを見せるも、オレら三人の手によっていとも容易く制圧された。そして焚火の消火を合図にこちらへ向かって来た仲間と合流し、敵兵を縛り付けた後、造兵廠から大砲を運び出した。その数は十五門にも上り、これらを鹵獲することに成功した。


 「お前ら……何者だ……?」

 「さっきも言っただろう? しがない貧農さ」


 そう答えて彼らの前を去った。日の出までにどれだけシガーラへと近付けるか、後は時間との勝負だった。オレは自らでも大砲を押しつつ、時たま仲間を励ましながら、急ぎかの地へと車輪を転がした。



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