逐電
(……来たっ!)
一番鶏の鳴き声と時を同じくして、始まりの砲音が鳴り響く。オレは横になっていただけで眠ってはいなかったのだが、その音を聞くや飛び起きて、急ぎ王女の元へと向かった。その際、隣で眠っていたロイの足を踏みつけ、彼を起こしてしまったらしい。宿舎を去り際に、
「バルジュー、どこへ行くんだい?」
そう問いかける彼の声が聞こえた気がした。しかしオレはそれに答えることなく、ひたすらに彼女のいる部屋を目指した。いつもの階段を駆け上がる。その途中、五臓六腑を震わすような砲弾の炸裂音が辺りに轟いた。
(この音は……近いぞ……!)
恐らく城内に着弾したのだろう。オレは絶え間なく続く砲音に身の安全を祈りながら、デッドリーのことを思う。どうしようもないごろつきだった彼はオレに代わって皆をまとめ上げ、作戦を実行した。その成長を思うと、不意に目頭が熱くなる。そしてこの轟音は作戦実行の合図であると同時に、オレに対する激励のようにも受け止められた。
「……任せとけ、王女は必ず救い出す……!」
そう小さく呟くと、件の扉に至る。その脇に王女を警護する二人の兵士を見つけたが、幸いなことにまだ酔っ払っている様子だった。
「おう、バルジューか! もう交代の時間か?」
「ああ、そうだ。だからそのまま寝ていてもいいぞ」
そのまま彼らの横を通り過ぎ、軽くノックをすると室内に入った。そしてベッドの縁に起床してまもない彼女の姿を見つけた。
「マドレー王女様……」
「今日は随分早いのな、バルジューとやら」
訝し気な眼差しをこちらへ向ける。
「いえ、私は――」
「それよりも外が騒がしいのはなぜだ? 一体何が起こっている?」
口調はやや強い感じを受けたが、不安の裏返しなのか、怯えているようにも見えた。これはいけないと思い、オレはその場に跪くと、
「私はユウト、以前あなたにお仕えしていた者です」
「今日はあなたをお救いしに参りました」
それを聞き、少し安堵したように目の角が取れた。そして口元に笑みを浮かべつつ下を向いて、
「やっと思い出したか……自分のことも、私のことも……」
「……申し訳ありません」
そう言ってオレはただ頭を下げる。これまでは素性を隠し、「バルジュー」として「北の王女様」に接してきたが、いまこの時、オレは「ユウト」として再び「マドレー王女」と対面することが叶い、感慨も一入だ。
「……バカ、遅いんだよ……!」
強がりながらも涙ぐむその姿に彼女の孤独を垣間見た。その様子に心が奮い立つ。何としてでも我らの王女を救い出さねばならない、オレは咄嗟に彼女の手を固く握ると、
「さあ、帰りますよ!」
そうしてオレたちは部屋を飛び出し、勢いよく階段を駆け下りる。まだ城内は薄暗く、足元もおぼつかない状況だったが、この一歩は確実に自由への道を踏みしめていた。オレは彼女を導くその手を決して離さないようにしながら、一路東門を目指した。




