死して生く
続々と集まって来る大勢の野郎衆を前に、オレは否が応にも緊張を強いられた。話の内容はまとまっていたが、皆の心に響くような内容であるか、いささか不安もあった。場内をざっと見回しただけで、前回よりも明らかに人の入りが多いことは分かった。
(上手くやらなければ……)
今は亡き親方と敵城で孤軍奮闘している兄貴――その二人から渡されたバトンをここで落とすわけにはいかない。何としてでも彼らを説得し、五日後の出征を実現させる。オレは逸る気持ちを鎮め、静かにその時を待った。
「兄貴、大方集まりました!」
モライザの言葉でふと現実に引き戻される。場内は妙な熱気と緊張感に包まれており、皆の視線が一様にオレの口元を捉えていた。その様はまるで草食動物を狙う肉食動物のようで、そういう風に見られる側としてはある種の居心地の悪さを感じてしまうが、それらに気圧されてはいけない。気持ちを強く持ち直して、オレは口を開いた。
「一昨日の明朝、オレたちはシガーラに向け、戦略的突撃を仕掛けた」
「その目的は敵城に『トロイの木馬』を送り込むこと……」
「しかしその作戦内容には賛否両論もあった」
「作戦の特性上、避けられない犠牲の存在……」
「現に一連の攻撃で三十名以上の同志を失ってしまった」
「そして……ゴスホークさんもそうだ」
ここで場内にざわめきが起きた。親方の死はこの発言に至るまで公表していなかったので無理もない。
「親方は一昨日、ヴァフォードの配下になることを拒み、誇りある死を選ばれたそうだ」
「それにあたり皆への遺言を預かっている故、この場で読ませてもらう」
そう言ってオレは手元の書簡に目を落とす。
『故郷と王女、その両方を解放せんと立ち上がったが……志半ばでオレは逝く』
『しかし憂うことはない。皆の忍耐や苦悩、そして尽力が報われる時はすぐそこまで来ている』
『屍を越えて行け! その先に皆の望む景色がある』
『後は託した。愛する人たちよ、今までありがとう、さらばだ』
悔しそうに床を叩く者、目元を覆ってすすり泣く者、はたまた神妙な面持ちをしている者――感情表現は人それぞれだったが、その場に居合わせた者全員が親方の死によるショックを隠し切れないでいた。冷静を装っていたオレも例外ではない。今更ながらに悔しさが込み上げてきた。やはり身を呈してでも止めておくべきだったと臍を噛む思いがする。そして迫り来る感情を無理矢理にでも抑えつけ、続けた。
「親方は今や南王国の人間でもなければ、王女を守る親衛隊長でもなかった」
「現実から目を背け、北王国で生きる道も選べたはずだ」
「にも関わらずこうして命を投げ出したのは何故だと思う?」
「それは……苦境に置かれた隣人を見捨てることが出来なかったからだ」
野郎衆の視線が再び集まるのを感じる。オレはすかさず畳みかけた。
「かつての故郷に難あれば、敵と遭遇する危険を顧みずに駆けつけ、かつて仕えていた王女を助けるためとあらば、軍勢を引き連れ山をも越えようとした」
「最期だってそうだ……」
「自分の命と引き換えにオレたちを生かした」
「オレたちはいつも親方を頼り、そして親方はオレたちを思ってくれた」
「しかしその思いやりは結果として何を招いたか?」
「オレは一個人の死として留めたくない」
「親方が望んでいたもの、その屍の先にある景色ってやつをあの方に見せたい……皆で見てみたい」
「だから……次の作戦に……協力して下さい」
そう言い切った後、オレは地に額を付けた。すると前回の作戦に批判的だった村人が立ち上がり、
「お願いだ、協力させてくれ!」
場内に大声を響き渡らせながら、深々と頭を下げた。
「オレもだ!」
「オレも協力させてくれ!」
それに呼応するかのように周りの者も続々と志願し、最終的にはその場にいる全員が協力してくれることになった。
「ありがとう……ありがとう……」
野郎衆の大黒柱であった親方の喪失は手痛いものだ。しかしその死によってオレたちの結束が更に強くなったことも事実であり、死してなお影響力を持ち続ける親方に対し、畏怖の念すら覚えた。オレたちはこれから皆の本願を叶えるために行動する。親方の犠牲を無駄にしないためにも失敗は許されない。
「よしっ、今から役割を分担する!」
作戦決行まであと五日、今夜は眠れない夜になりそうだ――。
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