最終作戦
頭の中で思い描いては立ち消えに消える最終作戦、オレは夕暮れ時になってもその取っ掛かりさえ掴めていなかった。昨日の今日で時間がなかったことや軍事に関する心得のなさ、言い訳をしようと思えばいくらでも出来る。しかしそれでは本意を遂げることが出来ない。それではいけないと奮起し、目下なすべきことに対して乾布を絞るような思案を続けるも、これと言った作戦は思い浮かばない。そして手元の紙に何も記せないまま、刻一刻と約束の時間が迫っていた。
(なんとか……なんとかしなければ……)
オレは閃きを待っていた。かつてハンニバルやアレクサンドル、ナポレオンが経験したであろう、稲光に似たそれを渇望していた。しかし先行きに立ち込める暗雲から雷鳴は轟かない。当然オレの頭の中でもそうだ。それはなぜか、その答えは単純明快だった。何事に対してもオレは凡才、人並み以下である。それに加え、戦争の作戦という特殊な事情を加味すると尚更難しい。
(こんな時に親方がいたら……)
無理なことは分かっている。無駄なことも分かっている。でも現状の八方ふさがりから今は亡き親方に頼りたくなってしまう。オレには出来ない、半ば諦めるように目を閉じると、暗黒の脳内にこれまでの軌跡が思い出された。
五日に渡る必死の南下、バーンスタイン到着、シガーラへの旅路、城内潜入……様々な情景が走馬灯のように流れては消える。そしてそこにはいつも仲間の姿があった。それが過ぎるや否や、オレはハッと気付かされた。この作戦は個人的な閃きによって立てられるものではない、これまでの経験、仲間の協力、相互の信頼、これらを混ぜ合わせて初めて生まれるものである。いま起こっていることは紛れもない現実で、オレを主人公とした英雄ゲームではない。それ故、自分を中心に考える必要はないのだ。自分を含めた味方全体を効果的に動かして目的を達成する、作戦の骨子はそこだ。そう考えるに至ると、今まで動いていなかった筆先がさらさらと文字を書き出す。警備の時間まで猶予はない。オレは駆けるように筆を走らせ、考え得る全てのことを紙に書き詰めた。
「ロイ!」
夜の警備に向かおうとするロイを呼び止めた。
「今日もオレが行くよ。あと一回分、借りがあるからな」
「そんなこと気にするなって、夜は危険だから一緒に行くよ」
「いやいや、それでもこっちの気が……」
何度かの押し問答を経て、やっとこさロイを説得することに成功した。そしてオレはいつものように松明を持ち、足早に城外へと向かう。
(デッドリー、いてくれよ……)
東門に至る道すがら、ここまで来てすれ違いになるのはマズいと多少の心配をしつつ歩いていたところ、
「兄貴! 兄貴!」
突然、茂みの方から声が聞こえた。オレは辺りを窺いながら、そちらへと歩を進める。
「よく来たな、これが作戦だ」
そう言って例の紙を渡す。
「確かに受け取りました」
赤髪はそう言うとすぐにその場を去ろうとした。オレはすかさず声を掛ける。
「デッドリー!」
「その作戦には全員の団結が不可欠、だから……」
「お前が皆を上手くまとめるんだ、頼むぞ!」
分かってますよ、と言わんばかりに黙って親指を立てて見せた赤髪に作戦の命運を託した。オレがここにいて出来ることは王女を城外に誘導することだけ、そのきっかけを作るのは城外にいるバーンスタインの連中だ。この作戦の成否は六日後の早朝に判明する。オレはその時まで、彼らを信じて待つだけだ。
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