葛藤
夜が明けた。窓から見た景色にいつもと違う朝を見つけた。兵士の出入りで城内外が慌ただしい。親方たちを迎撃するべく、カムフィー大佐の一派が準備をしているだろう。彼らは関所の方に陣を張っているようで、迫り来る敵を市街地に一歩も入れない構えであることが窺えた。そしてその人数は優に百を超えている。本当に大丈夫なのか、いま現在も当所を目指してやって来ているはずの仲間を心配すると同時に、セリヌンティウスのような立場に置かれた自分の身を案じる。どっちを取っても味方に誰かが傷付く現実を前に、何とも言えない複雑な心境に陥る。
しかし目の前に彼らはいない。時間が経てば経つほどオレは疑心暗鬼になる。命を賭けられている故に仕方のないことだと言ってしまえばそれまでだが、親方への信頼が綻び始めた。これはいけないと焦って結び直そうとするものの、事態は好転しない。どうしようもなくなったオレは思わず目を瞑る。真っ暗な世界、そして回想する。この世界に来て、親方と出会った時のこと。一緒に仕事をしたり、飯を食べたり、剣術の稽古をつけてもらったり……様々に面倒を見てくれたこと。そしていつもオレを導いてくれたこと。歩いていても馬に乗っていてもオレの前を行くその背中、その光景が頭の中にありありと浮かぶ。すると親方は突然駆け出した。どこへ行くのだろう、
(待ってください!)
咄嗟にオレは心の中で叫んだ。しかし遠ざかるその姿をただ見つめることしか出来ない。再びオレは一人になった。不安、疑倶、猜疑と言った負の感情が耳を塞ぎたくなるような音で心を軋ませる。やめてくれ、呟くように繰り返すも不快なそれは止まることを知らない。気持ちが持たない、そう悲鳴を上げそうになったその時、
――ドタ、ドタ、ドタ――
心の奥底から蹄音が聞こえた。しかも単騎ではない、複数だ。それは大変心地の良いもので、思わず耳を澄ます。そして時を追うごとに勢いを増し、やがて心の雑音をかき消してしまった。憂いは抑え込んだ。次は勇気を持って、現実を直視する時だ。
おもむろに目を開け、窓の外を見る。すると朝焼けの地平線に黒い塊を視認した。それは唸り声を上げてこちらに迫って来る。
(親方だ! 親方がやって来た!)
オレは瞬きも忘れて、その方を食い入るように眺めていた。夢ではない、現実だ。関所を守る大佐の手勢もそれに気付いて、にわかに色めき立つ。いまこの時、決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた――。
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