宮中工作
今日もまた日が暮れる。夕日に映えるテンエイの街並みは相変わらず美しいが、その内実はここ数週間ですっかり変わってしまった。戦火を恐れた民衆の多くはこの地を捨て、どこかへ逃げてしまった。情勢を悟った行商もほとんど姿を見せない。実際、南王国軍は破竹の勢いで王都・テンエイに迫っていた。それに伴って、我が軍は敗退を続け、北へ北へと後退している。戦地から上がってくる報告はどれも耳を塞ぎたくなるようなものばかりだ。
そのような状況で王国の存亡が危ぶまれる中、私の宮中工作は難航していた。なぜならこの国の実権を握っているグランテ王子は王女救出より国土防衛を優先なされたからだ。個人的な感情を抜きにして考えれば、それは英断という他はない。一人の王族の命よりも国土や国民を尊重するのは為政者として当然のことで、情に流されない毅然とした態度は賞賛に値する。一方の私は臣下の立場、そのように割り切ることが出来ないでいた。未だに助けを待っているであろうマドレー王女や彼女を救い出そうと敵地に向かったゴスホーク一向、私には彼らを支援する義務がある。しかし交渉は遅々として進まず、如何ともし難いもどかしさと共に自分に対する苛立ちばかりを募らせていた。
すると突然、声が掛かる。
「ベルガ隊長! 報告です!」
どうせ良くない知らせだろう、私はそう思い、そちらを振り向かずに聞く。
「バーンスタインより!」
その地名を聞くや否や、咄嗟に振り返ると使者から書簡を奪い取る。そしてその文面を食い入るように読み込んだ。
「シガーラ城への攻撃……だと……? そんなバカな……」
恐れていた事態が現実になる。
「実行日は……明朝!?」
あの方は早まった。きっとこの戦いで死ぬつもりだ。
「ユウトは……シガーラ城に潜入しているのか……」
私がモタモタしている間にとんでもない作戦が決行されようとしていた。
「無謀だ……無謀すぎる……!」
ここからシガーラまでどんなに急いでも四日はかかる。従って彼らを止める術はない。失態を冒した張本人は本国でのうのうと生きていて、直接関係のないはずの彼らが異国にて血を流す。この不条理を説明するには行動しかない。
「皆を集めてくれ」
私は部下に命じた。すると次の瞬間、強い北風が吹きつける。南へと誘うようなその風に、私は迷いを乗せ、覚悟を固めた。そして明日が来ないことを沈み行く夕日に願い、その場を離れた。




