偵察
「昔と変わらないなぁ~」
感慨深く独り言ちる親方は久しぶりに訪れたこの街を懐かしんでいた。街並みそれ自体はテンエイと似たモノを感じたが、その様子はまるで違う。街の至る所に新兵募集の張り紙がなされ、通りは軍人で溢れていたが、そこに悲壮感はない。むしろ意気揚々とした印象すら受けるほどだ。
オレは認識を改めた。戦争とはその当事者になると互いに苦悶の表情を浮かべ、常に不安や緊張に晒されるものだと思っていた。だがそうではないらしい。攻勢に立っている側と守勢に立たされている側、同じ戦争当事国同士でも置かれた立場によってその雰囲気はかなり違ってくるのだと実感した。
「でもアレは違うな……」
親方は中央にそびえ立つ城郭を見上げて言う。目線の先、風にたなびくその国の旗は見慣れないモノだった。それを見るにつけ、オレは異国にいるのだと再確認させられる。
それからオレたちは日が暮れるまで街中や城郭付近の様子や兵員の配置状況などをつぶさに見て回った。ここで得られた情報は実際に現地を見ることでしか知り得ない貴重なモノばかりで、かなりの収穫があったと言えた。
「そろそろ晩飯にするぞ」
そう言うと、親方はとある酒場の暖簾をくぐった。そこは軍人の行きつけらしく、その客のほとんどは軍服を着ていた。店内はガヤガヤとやかましい一方、その客層から気後れしてしまいそうな雰囲気もあったが、親方は気にも留めず、ずかずかと奥の席まで歩を進める。その後、夕食を済ませるも、親方に席を立とうとする気配はなかった。
(帰りは大丈夫だろうか……)
日は完全に暮れ、外は真っ暗になっていた。帰りのことばかり考えていたオレは一向に動く様子のない親方を見て堪らなくなり、
「親方、そろそろ戻った方が――」
そう切り出した。しかし親方は相変わらず腰を椅子に深く据えたまま、一言、
「まだだ、人を待っている」
その途端、店内は静まり返った。勲章をぶら下げた士官と思われる男たちが来店したのだ。皆の視線がそちらに注がれる。親方はそれを見るや否や、
「お前ら、顔を隠せ」
その言葉を聞き、咄嗟に口元を覆う。その間にも彼らは一直線にこちらへ向かって来て、オレらの前で立ち止まった。
「そこはカムフィー大佐の席だ。今すぐにどいてもらおう」
高圧的な物言いだったが、親方は動じない。目を瞑り、無視を決め込んだ。
「おいっ、聞いているのか! そこをどけと言っている!」
胸倉を掴まれ、一触即発の危機に直面する。互いににらみ合い、一歩も引かない。
(マズいことになったぞ……)
オレたち二人は何もすることが出来ず、ただ固唾を飲んで見守るだけだった。




