実情
行き交う人の数が増えた。オレたちと同様に行商の格好をしている者もいるが、その大半は軍人だ。行き先はこの国の王都・シガーラ、同じ方向に歩みを進めている。
「もうそろそろ着くぞ」
遠くに城郭とその裾野に広がる街を捉えた。敵の牙城というだけで悪そうに見える。あの街に王女はいる、そう思うと胸が高鳴って止まらない。やがて街の入り口に着くと、役人が何かを確認していた。
「通行証がないだと……? ダメだ、ダメだ! ここは通せん!」
「ええ、そんな……今までそんなモノ要らなかったじゃないか」
あくまでも引き下がらない男にその役人は剣を抜いた。
「ええい、やかましい! つべこべ言ってると切り捨てるぞ!」
「とにかく通行証だ! 持っていないヤツは街に入れない! そういう決まりなのだ!」
雷のような大きな声で言い放つ。男は威勢に屈し、泣く泣く街を離れた。他の者もその対応に困惑している。勿論オレたちもそうだ。通行証など持っていない。このままでは街に入ることが出来ない。
(どうする……?)
周りの連中が立ち止まる中、親方はその状況を特段意に介する様子を見せずに進んで行く。オレたち二人も戸惑いながらそれに続く。
「大丈夫なんですかね、兄貴」
「どうなんだろうな……」
きっと親方には何か策があるのだろう、そう信じてなるべく平静を保ちながら進む。
「通行証!」
役人は短く告げる。親方は顔色一つ変えずにリュックの中から紙切れを取り出す。
「ほらよ」
それを見た役人は眉間に皺を寄せる。なぜならばその紙はただの白紙だったからだ。
「お前、ふざけてるのか? なめやがって……」
再び剣に手をかけた時、親方は真面目な顔をして言う。
「しっかり見てくれ」
手元の紙を大きな素振りで指差す。そして役人の注意がそちらに向かったのを見計らうと、そのポケットに何かを忍ばせた。すかさず役人はそれを確認すると、表情を一変させて何事もなかったかのように言う。
「これは……たしかに通行証だ。通ってよし!」
傍で見ていたオレたちは唖然としていた。ただの白紙がものの数秒で通行証に変わったのだ。一体どんな手を使ったのか、全く分からなかった。
「親方!」
街に入るとすぐにデッドリーが切り出す。
「どうやって通行証を……?」
親方はしたり顔を見せながら、右手の親指と人差し指で輪っかを作る。
「これだよ、これ!」
キョトンとするオレたちを尻目に笑っている。
(輪っか……つまり……お金!?)
なんと、親方は役人に賄賂を渡していたのだ。賄賂はとても悪いことだ。少なくとも元にいた世界では糾弾されるべき事柄であった。
「いつの時代も便宜を図ってもらうにはこれだな」
そう言ってひとしきり笑った後、ボソッと呟く。
「でもここまですんなりとは……」
「末端から腐っているな、この国は」
何はともあれオレたちはシガーラに潜入することが出来た。ふと顔を上げるとそこに存在する、街の中心にそびえ立つ城郭、その無機質な敵の根城はオレたちをその高みから見下ろしていた。




