綻び
緩やかな山の斜面を下ると、平野部に出た。そしてしばらくの間、両側に耕作地帯を見ながら西へと進む。オレたちは三人共に素性を知られないよう、口元を隠し、行商のふりをしていた。特に親方はトレードマークの髭を綺麗に剃り落とすほど念には念を入れていた。
「畑ばっかりですね~」
デッドリーが欠伸をしながら独り言ちる。
「南部には豊かな土地が多い。この先もずっと景色は変わらないだろうな」
オレは両脇に広がる黄金色の大地を飽きることなく眺めていた。都会に生まれ育ったオレにとってこの光景はまるで夢のように思えたからだ。麦の穂を撫でるそよ風、それらの奏でる涼しげな音色は敵地にいることを忘れさせる。そうしてまたしばらく進むと、その風景は一変し、謎の建物がいくつも見受けられるようになった。
「なんだあれは……」
よくよく目を凝らすと、その建物の周囲には軍人の姿がある。似たような建物は道沿いに点在しており、物の出入りも激しい。
「どいたどいた!」
突然背後から声が掛かる。その男は大急ぎで馬を走らせる。そしてその後ろには大砲が曳かれていた。
「大砲……ここらの地域は造兵廠になったのか」
「前は違ったんですか?」
「ああ、昔はこの辺りも耕作地だった」
親方は静かにその様子を確かめる。一方、砲術に興味を持ち、度々訓練にも参加していたデッドリーは目を輝かせていた。
「さっきの大砲、かっこよかったですよね! いいな~、ぶっ放してみて~」
「あっ、そうだ! あの工場を乗っ取ればシガーラに大砲を打ち込めるんじゃないすか!?」
彼はあたかも名案を思いついたように言う。だが次の瞬間には親方によって完全に論破された。
「ここからシガーラまで届くはずないさ、お前の言うように乗っ取られた時にこの場所から打ち込まれでもしたらたまらんからな」
「それに王女様の居場所を特定せずに攻撃するのは危険だ」
それでもなお食い下がる。
「でも見て下さい。あの警備の薄さ、あの様子ならオレたちでもすぐに奪えますよ!」
確かにそう言われて見ると、警備の軍人はいるが、数は少ない。あくまでも希望的観測の域を出ないが、わずかな手勢でも夜襲をかけたら奪えるかもしれない。現在も続いている南北戦争で優位に立っている南側からすると、国土の奥地の造兵廠に防備のための人員を割くことはしないだろう。
「ふむ……なるほどな……」
親方は何か納得したような素振りを見せた後、
「先を急ぐぞ」
そう言って馬に気合をつけた。オレたちもその後を追う。空を見上げると日は高く登っていた。シガーラまでもう少し、期待と不安の入り混じる不思議な心持ちで、かの地を目指す。




