邂逅
「貴様らっ! こんなマネをしてタダで済むと思うなよ……?」
拘束された憲兵の一人が毒突く。彼らはいま手首と足首を縛られて、身動きが取れない状態にある。
「うるせえな! オレらのことよりも先に自分の身を案じな」
村人の一人がその憲兵を叩く。しかし一発では飽き足らない様子で、もう二、三発とエスカレートしていく。当の憲兵はそれを止める手立てもなく、ただ無防備にその攻撃を受け続けた。するとそれを見かねた親方は、
「十分だろう……もうよさないか」
そう言って彼らとの間に割って止めにかかる。そして二者を引き離し、互いを見やる。村人を眼差す目には同情を、憲兵のそれには憐憫の念を込めているように感じた。
「でもこいつら、オレたちに今まで散々……」
涙を浮かべたその目はやり切れなさを訴える。しかし親方はその場を頑なに動こうとはしない。
「オレはしばらくこの村を離れていた」
「お前たちが受けた苦難を知らないでこんなことを言うのもなんだが……」
「彼らにいま報復して何になる?」
「彼らは支配の末端だ。当たり散らしたところで何も変わらない」
「報復は次の報復を呼ぶ。ここはグッと堪えるんだ……」
「ううっ……」
村人は遂に泣き崩れた。両手を地べたにつけながら、人目も憚らずにわんわんと泣く。それを見かねた親方はそっと肩に手を回し、慰めるような格好を取った。その一部始終を見ていたオレは二つのことに衝撃を受けた。
一つは大の大人が泣きわめくほどの辛い目に遭わされた事実、そしてもう一つは親方の懐の深さだ。村人はすこぶる激しい憎悪をもって彼らに対峙していた。その背景にある苦難は想像を絶する。しかし親方はそれも含めて報復を止めさせた。たとえ何度生き直したとしても、オレには村人を止めることは出来ないだろう。
「彼らをぞんざいに扱うな。憎き憲兵としてではなく、一人の人間として扱うのだ。いいな?」
オレたちを含めた周りの人間全員に念を押した。その口調は驚くほどに静かで、かえって凄みを感じさせるトーンだった。しばらくの間、その場に淀んだ沈黙が流れる。そしてそれと並行するように様々な思いの入り混じった鈍色の空気が辺りを支配していった。
「しかし……ずっとこのままというわけにもいきませんよ!」
村人の一人がその空気を切り裂くように口を開く。
「……どういうことだ?」
「月に一回の定期連絡があるんです。あと二週間もすれば憲兵の交換要員が派遣されて来ます」
「そこで事態が露見する……と?」
「異常を察すればシガーラの憲兵本部に報告が上がります。そうなると……」
「マズいことになるってわけか……」
オレたちを突如として縛り始めた時間という制約――この二週間で王女の救出と村人の安全確保、二つの無理難題を解決しなければならない。そしてそれらを同時に成し遂げるためには緻密で高度な作戦とある程度の準備期間が不可欠だ。親方はどう決断するのか、情けないことにオレはその顔色を窺うことしか出来ない。こうしている間にもタイムリミットは刻一刻と近づいていた。




