解放
日が暮れて二、三時間が経った。静まり返った村の端とは対照的に、集会所の方からは騒ぎ声が聞こえる。宴会でもしているであろうか、その声が止む気配はない。
「そろそろ酔いが回った頃だな……」
親方は小さくそう呟く。
「野郎ども! これから集会所に向かい、憲兵を捕縛する」
「相手は十名程度、事前に酒をしこたま飲ませているため、捕縛は容易だと推察されるが……」
「念のためにオレが中に入って確認する。それまで入り口で待機していてくれ」
「合言葉は……」
親方は憲兵たちに酒を振る舞うように進言していたのだ。思ったより普通の作戦で拍子抜けする。少なくとも耳打ちするほどの隠密性を必要とするモノではなかった。
「……そういう訳だ。では行動開始!」
オレたちは歩き出す。出来るだけ静かに、なおかつ迅速に。村の狭い道をするする抜けると、集会所に辿り着いた。
「よし、そこで待機だ」
親方は左手の手のひらをこちらに向け、待ての合図を送った。そして扉を軽く三回叩く。緊迫の一瞬、すると中から件の老人が出てきた。
「どうですか?」
「良い感じじゃよ。ベロベロに酔っておるわい」
互いにニヤリと笑みを交わすと、
「ではさっき言ったようにお願いします」
「任せておけ」
そう言うと親方は建物の中に入って行った。
オレは長老に導かれ、集会所の中に入った。相変わらず口元は布で覆い隠したまま、旅人の体で憲兵に謁見するという段取りになっている。するとやかましく騒ぎ散らしている部屋の前まで来た。先に長老が中に入り、接待していた村人全員を部屋の外に出す。後ろからは仲間がぞろぞろとついて来ている。
「旅の者がお目にかかりたいと……」
「こんな時にいきなりなんだ!」
「是非献上したき品があるとのことで……」
「うっせーな、早く呼んで来い!」
部屋の中から器の割れる音が鳴る。そしておもむろに扉が開く。
「ささっ、中に入られよ」
そう呟いた長老の額には血が滴っていた。恐らくは器を投げつけられたのだろう。許せない。オレの中で怒りのボルテージが高まっていく。しかしグッと堪えて旅人を演じなければならない。忍耐、忍耐……と何度も心の中で唱えながらその部屋に入る。
「お初にかかります。旅人のアポジと申します」
「ああ、そんなことはどうでもいい。それより品を寄越せ!」
憲兵隊長と思しき男の無礼極まりない振る舞いにこの場で切り捨てたくなる。しかし私情に駆られた殺しはいけない。何とかして自分を落ち着かせる。
「これなのですが……」
そう言って懐から煙草の箱を取り出す。
「なんだそれは! 早くこちらに寄越せ!」
「いやいや、取りに来て頂かなくては――」
挑発するように言ってのける。するとその場にいる全員がオレに怒りを向けた。
「お前、なめやがって!」
彼らは怒りに任せて立ち上がった。そして動き出す。その一歩目、千鳥足だ。
「酔ってなさるな~気をつけられよ!」
その瞬間、勢いよく部屋の扉が開く。程なくして多くの仲間が雪崩れ込んできた。
「なっ、なんだ! お前たちは!」
「大人しくしろっ!」
戸惑う憲兵たちを組み伏せる。作戦は成功に終わった。
「ユウト、紐だ! 紐で縛り付けておけ!」
オレはそう言い残し、部屋を去る。長老の怪我は大丈夫だろうか、今はそれが気になるばかりだ。




