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アンチ転生論  作者: 金王丸
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涙のワケ


 「王女様がご結婚なさるぞ」


 親方からそう伝え聞いたのは起床して間もなくのことだった。寝耳に水とはこういう類のことを言うのだろう。話によると、嫁ぎ先はこの王国から見て南西に隣接しているサンダルム王国の王家だそうで、三日後の出立らしい。


 この時代、この世界において、彼女は数少ない理解者、心の拠り所であった。そんな存在がいまオレの目の前から姿を消そうとしている。青天の霹靂とも言うべきこの事態にオレはひどく狼狽した。しかしオレに何が出来ようか、いやどうにもできない。それどころか、出立に伴う準備に駆り出されるのだから皮肉なものだ。


 そのため王宮内は朝から戦争のような忙しさだった。彼女の持ち物をまとめたり、引き出物を搬出したり……ひたすら行ったり来たりの繰り返し、オレは息をつく間もなく働いた。だが時折、心に取り憑いた憂鬱は顔を覗かせ、やるせなさを残していく。どうにかして彼女の近くにいられる方法を考えるも、全く思いつかない。


 一日、二日、朝、昼、晩……ただ時間だけが過ぎていく。そしてついに出立の朝を迎えた。


 その日は生憎の雨模様で、オレの心情を反映しているかのような天候だった。本殿から正門まで続く道の両側に王宮の使用人がずらりと並び、王女の見送りをすることになっていて、オレもその中にいた。本殿の前には王女専用の特別な馬車が乗り付けられており、その周りを親衛隊が取り囲んでいる。後は王女のを待つだけといった態勢だ。


 すると突然、本殿の扉が開く。王女マドレーの登場だ。彼女にはありとあらゆる装飾が施され、雨空で薄暗い世界にあって、一人だけ輝きを放っていた。しかしその表情に晴れやかさはない。本来なら本殿を出ると、すぐさま馬車に乗り込む段取りになった。だがどうしたことか、彼女はうつむいたまま一向に動かない。その姿にしびれを切らした王子ディアドラ=グランテが乗車を促すも、彼女は取り合わない。

そして辺りに響き渡る声で精一杯叫んだ。


 「私はこの国の王女、ディアドラ=マドレーである!」


 「これまで仕えてくれたこと、感謝する!」


 「私は今日をもってこの国を去り、サンダルム王国の妃となる」


 「だが忘れるな、私は常に皆と共にある!」


 「そして……本国の安寧と諸君の安泰を心から願っている!」


 「ではさらばだ、達者でな……」


 そう別れを告げると彼女は馬車に乗り込んだ。そして王宮内は拍手喝采でどよめいた。皆一様に顔を上げ、馬車から見える彼女を見送る。しかしオレは下を向いたまま、それを直視できないでいた。今生の別れになるかもしれない現実を認めたくなかったのである。


 雨のせいかな、顔がぐちゃぐちゃだ。思わず袖で拭う。今日の雨はやけに塩辛い。


 その間にカラカラと目の前を馬車が通過する。一歩、二歩と近づき、一歩、二歩と遠ざかる。


 「ユウト……」


 寂しげな横顔を伝うモノ、最後に教えてくれよマドレ―、そのワケを一体誰に聞けばいい――。



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