赤髪の夢
昨日の三人組は約束の時間に王宮までやって来た。オレは事の子細を親方に説明する。黙って聞いているその表情はあまり乗り気ではないようだ。
「それで……オレにこいつらの面倒を見ろってことかい」
「お願いします、オレたち強くなりたいんです!」
赤髪が土に頭をつけながら頼み込む。するとその姿を見て、残りの二人も同じような格好をとった。
「お前ら、どこぞのごろつきだろう? まさか良からぬことを考えてないだろうな?」
親方は威嚇でもするように胸の前で拳を突き合わせている。
「いいえ、もう悪事からは足を洗います! ですから……」
どうやら彼らなりに真剣な頼みなのだろう。切実な表情から窺い知れる。だが親方の性格からして、ここまで情に訴えられたら断ることは出来ないはずだ。しばらく考える素振りを見せた後、まとまったと言わんばかりに一回手を叩いて言い放つ。
「わかった、今日からお前たちはオレの弟子だ」
「ただし、万が一他人様に迷惑でもかけようモンなら……タダじゃおかねえぞ」
「はい、ありがとうございます! 親方!」
昨日の敵は明日の友、こうして新たな仲間が増えた。
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あれから数日が経った。人間は増えたが、昼は仕事、夜は修行の生活サイクルは変わらなかった。そして今日もいつもと変わらず、馬屋回りの仕事をしていた。何も変わりない平和な昼下がりだった。
「パットン、もっと真面目に掃除しろっ!」
箒を振り回していた緑髪の男を注意する。
「兄貴、薪が切れそうですよ」
薪置き場から戻って来た青髪のモライザがオレに声を掛けてきた。
「後で調達して来なきゃな……」
そう言った途端、ドーンと遠くで砲声が轟く。
(なっ、なんだ……?)
突然のことに全身が固まる。それは絶え間なく辺りに響き渡る。
「国軍の砲術訓練ですかね?」
モライザは轟音の方を向きながら言う。
(なんだよ、訓練か……)
オレはてっきり敵が攻めてきたのかと背筋を冷やしたが、どうも杞憂だったらしい。そしてふと周りを見回すと、赤髪のデッドリーがいないことに気付く。
「そう言えばデッドリーはどうした?」
「水汲みに行ったきり帰ってきませんね……」
そろそろ帰って来てもいい頃なのに姿が見えない。
「ちょっと様子を見てくる」
そう言い残して井戸の方へと向かった。
(まさか事故とか……)
良からぬ事態が頭をよぎり、少し不安になる。見た目はアレだが、心の芯はしっかりした男だ。仕事が面倒になって逃げ出したとは思えない。考えれば考えるほど、自然と駆け足になる。
やがて井戸が見えてくると、その近くで王宮の外を眺めているデッドリーを見つけた。彼はバケツを両手に持ったまま、食い入るようにその方向を見つめていた。
「おい、デッドリー! なにサボってんだ!」
オレの声が聞こえているかどうか定かではない。だが一向にこちらを振り返ろうとはしなかった。
「おい! 聞こえてるのか!」
グッと肩を掴む。それと同時に彼は人差し指を平原の方に向けてつぶやいた。
「兄貴、アレやばいっすね……!」
オレはその方向に目をやる。するとそこで目に飛び込んできたのは、一斉に火を吹く無数の砲門、その眺めは壮観だった。そして彼は飽くことなく、目をキラキラと輝かせながらその光景を見続けていた。
そして一言、
「オレ、砲兵になりたいっす……!」
どうしようもないごろつきにも夢が出来た瞬間だった。




