わがまま
《前回までのあらすじ》
親衛隊長であるヘルガとの決闘に敗れた主人公・高橋勇翔は強くなることを誓い、修行に明け暮れる日々を過ごす。そしてある日、久しぶりに現れた王女・マドレ―が告げた言葉とは……。
あれからと言うものの、昼間には力仕事をこなし、夜になると親方から武道の手解きを受けた。
剣術、弓術、騎馬技術……どれも初めての経験で最初は上手くいかなかったが、親方の根気強い指導のおかげで身になってきたように感じる。「それをやってどうなるの」とか、「どうせ出来ないしやるだけ無駄だ」とか、そんな逃げ口上はどこかに捨て去った。今まで生きてきて何かに打ち込んだことのなかった自分にとって、出来ないことが出来るようになる過程の面白さを学ばされたような気がした。とにかく今はあの男、親衛隊長のベルガに一泡吹かせることを目標に掲げ、ひたすら修行に没頭する。
そして三ヶ月が過ぎた頃だった。
「ふんっ!」
いつものように木刀を振るう。相手はもちろん親方だ。
「そうそう、腰を入れて。いいぞ……!」
繰り返し攻撃を続ける。松明で照らし出された影が揺れる。
オレは攻勢を緩めない。すると一瞬親方の脇が甘くなった。そこを狙う。
「えいっ!」
「いてっ!」
鈍い音を立てたと思うと、親方は片膝をついていた。
(……やった!)
オレは親方に初めて太刀を当てた。これまでどんなに打ち込んでも出来なかったこと、それを成し遂げたのだ。
「やるじゃないか……!」
親方は痛みに軽く顔を歪ませていた。無我夢中で振っていたため、加減が出来ていなかったようだ。少し申し訳なく思う。
「だっ、大丈夫ですか……?」
「何のこれしき、大丈夫! さあもう一本、次は当てさせんぞ!」
「はいっ!」
オレの修行は毎晩夜遅くまで続いた。
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「最近は仕事にも武道にも励んでいるようだな、少しは強くなったか?」
ある日の昼下がり、突然馬屋に王女が訪ねてきた。ベルガとの一件以来、久しぶりにその姿を見た。その美貌は変わりなく美しいが、その身にまとっているものは違った。というのは、いつぞやと同じ貧相な格好をしていたのだ。
「ユウト、街に出るぞ。付き合え」
唐突な誘いに慌てたのはオレだけではなかった。
「お、王女様! また怒られますぞ! ささ、お戻りください」
「大丈夫だ、夕刻までには帰る」
平然と言ってのける。貴族というものは行動に制限が多すぎる。彼女の生き辛さに同情の念を禁じ得ない。
「ダメです! 立場上、黙って見過ごすわけにはいきません!」
親方は必死に説得する。そして彼女の前に立ち、通せん坊をしてみせる。
「ゴスホーク!」
背筋が伸びる思いがすると同時に二人は固まった。平素から静かな物言いをする彼女がこのように語気を強めたことはなかったからだ。
「私のわがままを……聞いてはもらえないか?」
なぜだろうか、彼女は随分と寂しげな様子だった。加えてその眼差しには含むところも感じられた。一方の親方も様子が変だと勘付いたらしく、しぶしぶ道を空ける。そして目を瞑って、腕組みをした。
「私は何も見ていませんぞ! だから……早く行きなされ!」
「ゴスホーク、すまない。夕刻までには必ず戻る」
「ユウト、さあ行くぞ」
オレは気もそぞろに彼女の後を追う。
(一体、何の為にここまでして……)
頭の中はクエスチョンマークで一杯だった。しかし考えれば考えるほど分からない。とにかくオレのやるべきことは一つ、夕刻までに彼女を無事ここまで連れて帰ることだった――。




