勇者様はじめての魔王退治②
そろそろ、この主人公がおかしいと気づきはじめているのではなでしょうか?小生も負けていませんが、流石に彼のように人生を謳歌できません。たのもしい限りです。ではでは第二話、ご賞味あれ~!
‐第二話‐
『王様がドーン』
そよ風を嗜みながら緩い傾斜を下っていく。村を出発してからかれこれ3時間は歩き通しな勇者。歩き慣れているのか彼の額からは汗一つ覗えない。太く長い樹木が幾重にもそびえ立っている森を抜けると、そこは見晴らしのいい絶景の崖。犯人を追い詰める時には絶好の穴場かもしれない。
その頃、勇者の到着を待ちわびている王様と王妃は勇者を向かい入れる歓迎セレモニーの練習で大忙し。それは王宮に集う多くの甲冑を着込んだ歩兵隊や国民達も例外では無い。国を挙げての奇想天外な踊りや理解しがたいギャグ。この日のために王都を守る歩兵隊も健気に頑張り皆、一芸を磨いてきたのだ。見所は歩兵隊によるアグレッシブな人間ピラミッドや兵隊あるあるネタを惜しげもなく全力で提供することにある。そのため日夜、周辺警護そっちのけで訓練に明け暮れていたのだから。
王「俺のプリン食べたやろー!」
王妃「食べてへんわ!しばくぞホンマ!」
―――そう、勇者が来るその時のために王と王妃は荒ぶるようにネタに不備がないか入念に繰り返し稽古をしていた。そんなことが王都で繰り広げられているとは微塵も知らず、渋い顔で崖からの絶景に酔いしれていた勇者様。空が曇っていなければ更に高揚していたはずでしょう。残念です。
勇者「・・・道、間違えた」
あれから1時間は崖から眺めていた景色を背に勇者が呟いた渾身の一言。
勇者は来た道を戻り村まで戻って朝方、出発した出入り口とは逆の東街道と書いてある出入り口から再出発したのであった。この時点で既に昼を回っていたのは偏に勇者の類まれな方向感覚の無さがなせる技と言える。その際、出くわす村人達がこぞって勇者の幻影を見たと相次いで報告されたことから、村ではツチノコと雪男レベルに扱われ、一部の学者達の間ではUMA論で揉めていた程、この村の程度が垣間見えるのであった。
そんな勇者は果てしなく長く険しい道のりをホップとステップとスキップとジャンプしながら無表情のまま王都へと無事辿り着き、その間に倒したモンスターはスライム5体にケンタウロス10体にゴブリン30体を素手でちぎっては投げていましたが尺の関係上、割愛となりました。ダイジェストにお送りするのは大変心苦しいのだが、初球から内角低めのボールを投げてきた勇者のせいである。ご了承頂きたい。
勇者「王都に着いた。予定より遅れたが構わないだろう。とりあえず腹も減ったし飯を食してから王に会いに行くか」
余裕しゃくしゃくの勇者が王都に辿り着いたのは夕刻。空は相変わらず暗いが王都の塀から覗く時計塔が16時を指していた。
花の都、聖域、東の楽園とまで異名を持つ東の王国ゲハイゴスカンナ城。東の大陸をゲハイゴスカンナ国王3世が統治を握っている。比較的恵まれた大地には手つかずの自然が多く存在しているのも魅力の一つである。この世界は大きく5つに分類され東西南北それに中央で国境が引かれている、とてもシンプルで分かりやすい領土分けをしていた。因みに今、主人公が住んでいる東領土の隣りは中央領土から暗黒の煙が立ち込めているのです。
予定より大幅に遅れて王の御前に姿を現した勇者はやけに汗ばんだ空間に疑問を抱きながら王様の前で片膝をついて深くお辞儀の体勢になった。
前髪がビチョビチョの王様は勇者を見据えると威厳のある顔へと変えていった。
勇者「遅れあそばせながら勇者、馳せ参じました」
いかにも時代劇を彷彿、意識したであろう立ち振る舞いに王と王妃は自然に「構わんぜよ」が出てしまった。
勇者「嗚呼、如何にして遅れ申したかと思ふも同然、それがし龍なるもののけと戦ばかりして無情にも赴くこと叶わぬ所存で以下、候う」
もう、やけくその武家が喋りそうな古文を無表情に嘘も交えて伝えた。それに対し王は怒りもせず勇者の拙すぎる・・・いや、わざとらしい侍口調を冷静に聞き遺憾無きことを表情に出していた。心の広い王様は勇者の嘘をまるまる信じ、大変だったんだなーと勇者に同情するも頭の中はプリンネタをどのタイミングで放り投げるかで拮抗していた。
勇者「王様!何故、私が勇者に選ばれたのでしょう?できれば納得のいく理由をお聞かせ願いますか?」
王様を前に毅然とした物言いに周囲はどよめいた。しかし、そんなことはお構いなしに勇者は話を続ける。
勇者「もし万が一、内容が犬も食わないような低俗な理由であるならば、私は明後日の方角へ消えてゆくでしょう」
勇者の失礼とも言える言葉使いに対し王様は言葉のクッションでも抱えているのか、平然とした顔で勇者の言葉に耳を傾けて答えを返したのだ。
王様「勇者オーディションは実に応募が殺到していた。約3000通の中から適当に選び、300人ぐらいに絞り、円卓会議による大臣達の昼食の合間に適当に絞り10人となり、最後はババ抜き感覚で1人に選ばれたので、恐らく勇者であろうという最終的な決議決定が下されたのである」
勇者「確率的にはどのぐらいなんですか?」
王様「農民のガキが鼻糞ほじりながら射抜いた矢が偶然、ドラゴンの心臓にクリーンヒットするぐらいスゴイ」
王様のドヤ顔にファンファーレを鳴らす兵士。彼の抜けがけによる美味しい役に周囲の目は冷たかった。だが、これで自分の株が上がれば給与明細の数字も飛び跳ね懐は温かくなる筈である。それはともかく―――。
王様のドヤ顔と共に繰り出された確率論を聞いた勇者は無表情のまま「なるほど、それは勇者にふさわしい確率・・・素敵です」とほくそ笑む。何に納得したのか甚だ不明だが、ツッコムとキリがないので蓋をすることにした。
二人の際どいやりとりに王宮内部は冷え切っていた。季節的には夏真っ盛りで汗が弾ける感じなのに肌寒さを感じて冷や汗が吹き出ているのであった。
勇者「今日は時間も時間なんで明日にでも出発しようかと思うのですが、あいにく懐事情が芳しくありません。ジリ貧なのです。これでは無線飲食してしまい勇者のイメージがダウンすること請け合いなので、よければお慈悲というか軍資金を少しばかり・・・そうですね理想は3000万バルが好ましいです。あ、できれば装備と仲間と馬と船と飛行船もつけてくれると助かります」
「なんて爽やかなぐらい欲の塊なんだろう・・・最後、なんか通販みたいになってるよ」と心の中で思う役員含め兵士達。
あまりに度が過ぎる頼み事というか躊躇のないストイックな物乞いにむしろ脱帽すら感じる。そんな爽快感を振りまいている主人公に王様も感服。意気揚々と即決してしまう。関西人が隣にいたら「なんでやねん!」って王様にツッコミを入れるに違いない。しかしいない・・・悔しいばかりです。
ここまで勇者の思い通りに事が運び内心、嬉しい。もともとポーカーフェイスというか、感情を表に出さない主人公。だがきっと、嬉しいので見た目では分かりづらいが主人公の骨格が上がっているようないないような。表情筋が猫より発達していない勇者の感情表現のうち特に喜が非常に分かりづらい。難儀な体質ですね。
王様と夕食を終えると客間に案内された。通された部屋は西洋風が全面に出されている。壁紙も天井もロココ調のよう。一際目立つベッドもキングサイズで天蓋で猫脚ときたもんだ。
勇者「装備を貰って金も貰って仲間も仲介してもらいタダで雇えるし馬も船も飛行船も貰って魔王退治か・・・笑いが止まらん」
至れり尽せりな勇者だが、この先はきっと辛い冒険が待っているハズだ。そんな呑気で陽気でいいのか?先が思いやられそうな予感に苛まれている作者。さて次回は勇者が旅立つ回です。お楽しみに~!
王様「ドーン!」
第三話に続く。




