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やがて英雄になる  作者: 久我尚
第二章 魔術学院 後編
22/42

22 会議

 円卓。7つある席のうち、埋まっているのは4つ。ノレア、ミハイル、ドクター、そして椅子の上で膝を抱えて座る髪が床につくほど長い少女の席だ。


 「彼女がいないから今日は静かね」

 「……それでいい。余計な音は……いらない。静寂が、いい」

 「そうね、静かなのもいいわ。その考えは否定はしないけれど、静寂ばかりというのも退屈よ。アリス、たまには街にでも行ってみれば? 夜なら外に出れるでしょ?」


 指の上で金色のコインを器用に転がしながら、幹部の1人──アリスにノレアはそんな提案をする。アリスは陰気で超がつくほどの引きこもりだ。もちろんそんな提案を受け入れるわけがなかった。


 「夜でも、外は……嫌だ」

 「でしょうね。それで、シンたちから報告があったって聞いたけど」


 わかりきっていたように淡白に言葉を返すと、まるで今のやりとりがなかったかのようにノレアは話を変えた。実際わかりきっていたし、アリスが外に出ようが出まいがノレアからしてみればどうでもいい話だった。今のは一応のコミュニケーション。世間話だ。


 「……うん。天の目が感知した……歪な魔力は、悪魔が原因だったって」

 「へぇ、悪魔。ふふっ、思っていたよりもおかしなことが起こってるみたいね?」


 ノレアが視線を向けた先には瞼を閉じて何かを思考するミハイルがいた。


 「第二次天魔大戦で悪魔はその種族ごと魔大陸に封じた。あれは世界を介しての魔法だ。力技でどうにかできるものじゃない。悪魔が外にいるなんてことが起きるはずがない」

 「でも、シンは……嘘を言わないよ。魔法に、穴があった……?」

 「その可能性は否定できない。だが、あの魔法に欠落があるとも思えない。その悪魔が純正の悪魔ではないというのが可能性としては最も高いが……翼はあったのか?」

 「三翼、だったみたい……」


 純血でなければ天使と悪魔は翼が生えない。ティアとフィアに翼がないのはそれが理由だ。逆に翼があるのならそれは多種族の血が混ざっていない純正の存在であるという証明になる。枚数が奇数なのは気がかりではあったが、純正かそうでないかの話ならそこまで関係ない。


 「ねぇ、ミハイル。意図的に言わなかったみたいだけれど、その封印の魔法を開発したのは叡智の超越でしょ?」

 「…………」

 「そしてその悪魔がいたのは叡智の超越のいる場所。おかしな偶然ね?」


 ミハイルは、何も言わなかった。


 「まあそれはいいわ。話を戻しましょう。その悪魔は殺したの?」

 「殺した、みたい。ただ……話は、聞き出せなかったって」

 「そう。他には?」

 「あと、2つ。色々あって……深淵の力を、亜空間に封じたから……回収に来て欲しいっていうのと、黒い異形のことの……情報を聞きたいから、もう1ヶ月学院にいるって」


 アリスの報告が終わると、すぐにドクターが席を立った。


 「もう出て行くの? シンの近況が気になってきたんでしょう? せっかくなんだから深淵の力の回収一緒に行かない?」

 「──1人で行け」

 「ふっ、あれが今日初めての言葉かしら」


 ドグターはノレアの言葉を無視して部屋を出た。誰も止める者はいない。そもそも彼はこの円卓の間に最も顔を出さない幹部だ。今日いたこと自体が奇跡のようなものなのだから彼に何かを望む者はいない。


 「シンが、向こうに残るのは……いいの?」

 「構わない。元々シンを向こうに送ったのは黒の異形について調べさせてやるためだ」

 「力の回収については私が行って問題ないわよね? 触れられるのは私しかいないんだし他に選択肢なんてなないけれど」

 「なら何故聞く?」

 「私に行って欲しくないんでしょう? 一緒に来る?」

 「超越者が2人も動くわけにはいかない。貴様が適任だ」

 「まあそうね。残念だけど。でも私からフォルトゥナに何かするつもりはないから安心していいわよ」

 「…………」


 ノレア・エルドフォール。ミハイルはシンと同じように彼女に自分の姓を与えた女性。けれど、絶対的な信頼を置いているわけではない。出会ってからもう何年も経つが、未だに腹の底が知れない。基本的にアンゲルスのために動いているけれど、最終的に何を目指しているのかがわからない。ミハイルが彼女をアンゲルスに入れたのは監視下に置くためというのが大きい。見えないところで何かされるよりはまだいいと考えたからだ。しかし、ここ最近……シンが現れてからノレアの様子がおかしい。以前より不可解な行動をとることが多くなった。もうミハイルもノレアの行動を完全に把握できていない。だから不安があった。超越者、その中でも叡智の超越の場所に行かせるのには。


 「アリス。シンに連絡しておいて。私が回収しに行くって」

 「すぐに、行くの……?」

 「流石に私が黙ってナルダッドに行くとなると問題が起きるでしょうから、手続きの後になるでしょうね。どれくらいかかるかミハイルわかる?」

 「ナルダッドなら他国にも知らせる必要がある。早くて1週間といったところだ」

 「そう。アリス、そのこともシンに伝えて」

 「わかった……」


 転がしていたコインを弾き手の中に収めると、ノレアは席を立った。


 「今日は他に私に用事はないわよね?」

 「ない。もう行って構わん」

 「ええ、そうさせてもらうわ」


 ノレアは退室する。少しして、残ったアリスがぽつりと呟いた。


 「なんか、上機嫌だった……?」


 なんとなくそう見えた。その程度の言葉だ。だが、ミハイルにも今さっきのノレアの姿はそのように映っていた。


 「アリス。ノレアがナルダッドに向かうまでに影を入れておけ」

 「……バレる、よ?」

 「構わん」

 「そっか。わかった……」


 会議はそれで終わった。

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