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邂逅(後編)

「久方ぶりだな、勇者よ。あの時は貴様に遅れを取ったが、聖剣の無い今の貴様となら互角の勝負ができる。今度こそ、勝たせてもらうぞ」


「……うん。僕にも負けられない理由はある。だから同じだ。もっとも、それは君が部下たちを動かさないという保証があってこそのものだけど」


夏穂(かほ)に駆け寄る陽葵(ひまり)の横で、勇者の記憶を持つ少年は魔王の記憶がある少年と向かい合った。魔王だった彼が、薄い笑みを浮かべる。


「貴様に対して、部下の力など使うものか。御門(みかど)グループの御曹司、御門(いつき)。転生しても特別な地位でいられるのは、神の与えた恩恵(おんけい)かもしれないが……それ故に、貴様は1人では何も出来ぬはずだ」


「それはどうかな。君は僕のことを誤解している。僕には生まれた時から記憶があった。……だからこそ、今度は守りきろうと思ったんだ。どんな人間が相手でも。そのための努力は、1日たりとも欠かさなかった」


柔らかな笑みを浮かべた次の瞬間に、元勇者は瞬時に元魔王の懐に飛び込む。彼は姿勢を低くしたまま、その勢いを利用して相手の腹を殴り飛ばす。元魔王は咄嗟(とっさ)に受け身を取って、そのまま後ろに転がった。そこに。


「おい! お前たち、何をしている!」


怒鳴り声と共に、体育教師が駆けつけてくる。転がったままの元魔王は、舌打ちをして立ち上がった。


「邪魔が入ったな。……ひとまず逃げる、お前たちも来い!」


彼はそう宣言して、取り巻きを連れてその場から離れる。少し遅れてその場に()いた教師は、苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。


来間(くるま)のやつ、最近大人しくしてると思ったらまたこれか。親御さんにも、きちんと言っておかないとな。……君たちは大丈夫か?」


最後の言葉は、陽葵たちのいる方に向けられていた。樹と呼ばれた少年が無言で頷く。陽葵は地面に倒れたままの夏穂を見ながら、不安そうな声を出した。


「私は平気です。でも、彼女が……」


「来間は手のつけられない不良だが、人殺しまではしない。その子は気を失っているだけだろう。私が保健室まで運ぶから、君たちも来なさい。御門くんには、相談したいこともある」


体育教師はそう言って、陽葵と向かい合う位置で(かが)み、夏穂の体を抱え上げた。そしてそのまま、彼は保健室に向かって歩く。樹はそっと陽葵の肩に片手を置いて、立ち上がるように(うなが)した。そんな彼を見上げて、陽葵は瞳を揺らす。


「……久しぶりの再会なのに、なんだか大事(おおごと)になっちゃったね。ねえ、アルトは……」


何かを聞こうとして、結局言葉が出てこなくて。彼女は諦めて、友人を抱えた教師に着いていった。樹はそんな彼女に後悔と思慕の混ざった視線を向けながら、その側を離れず、彼女を守るようにして歩いた。

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