事情説明(前編)
保健室に運ばれた夏穂は、しばらくしてから目を覚ました。彼女が最初に見たものは白い天井と、上から心配そうに覗き込んでいる幼馴染の顔だった。
「……陽葵」
「夏穂! 良かった、気がついたんだね」
陽葵がパッと顔を輝かせる。それを見て、夏穂は苦笑を浮かべた。
「……ホント、なんで戻ってきちゃったかな。結果的には助かったけど、これで陽葵まで目をつけられたじゃん」
「でも、夏穂を放っておけなかったし……それにね、先生が言ってたけど、あの人たちって見た目ほど悪い人たちじゃないらしいよ。ね、そうですよね、栗川先生」
陽葵はそう言って、近くにいる体育教師の方を見た。彼は難しい顔をして頷く。
「まあな。来間は学業面に関しては優秀だし、噂では前の学校でイジメを辞めさせたこともあるそうだ。それに私はあいつの姉を担当したこともある。あいつと同じで、他校の不良としょっちゅう喧嘩をするような生徒だったが、お前たちのような普通の生徒に危害を加えたことは、私が知る限り1度もない。だからこそ、どう対応したものかと思っているんだが……」
「それなら今回のことは、どうか咎めないでやってください」
少し離れた場所から、樹が教師の言葉を遮るように声を上げる。教師は眉間にシワを寄せた。
「……しかしな、御門くん。君は……」
「大丈夫ですよ、先生。特別扱いされたければ、僕は祖父が理事長をしている私立校に入学しています。そうせずに公立校に来たのは、御門グループの跡取りとしてではなく、ただの1生徒として他者と共に学びたいから。それに今回の件は、僕にも責任がありますし。父には僕の方から説明するので、先生が気になさることはありません」
ニッコリと微笑んで告げた彼は、物腰こそ柔らかかったものの、その根底に決して引かない頑固さを秘めていた。それを察して、体育教師が深いため息をつく。
「……分かった。君がそこまで言うのなら、今日のところは不問にする。それと東雲くん。手当はしたが、君はもう少し休んでおくべきだ。親御さんには私の方から連絡しておくから、決して無理はしないように」
その言葉に、夏穂が無言で頷いたのを確認して。教師は保健室から出ていった。残された3人は、なんとも言えない雰囲気の中で、互いに顔を見合わせる。
「……なあアルト。お前どこまで記憶があるんだ?」
しばらくして、夏穂が話の口火を切る。樹はそっと目を伏せて、絞り出すような声で答えた。
「全部だよ、メル。僕はこの世に生を受けた時から、過去の全てを覚えていた。あの村を旅立って、君たちと出会って、魔王を倒して。……そして国に帰り、英雄になり、大切な人を失った。喜びも悲しみも、昨日のことのように思い出せる。だからこそ、僕は今度こそ間違えない。……今度こそ、アイをこの手で幸せにするって。そう、生まれた時に誓ったんだ」




