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体育祭・夕(中編)

(いつき)が無言で玲央(れお)(にら)む。夏穂(かほ)は半目になった。


「……ペアって別に男の子限定じゃないし、陽葵(ひまり)と組むならアタシで良いでしょ。アンタたちの手は借りないわよ。ね、陽葵?」


「……う、うん」


陽葵は戸惑いながらも(うなず)いて、夏穂と共にその場を離れた。校庭には体育系の部活に所属している生徒が集まって、応援合戦を始めている。テンポの良い音楽に合わせて踊る生徒たちを見ながら、陽葵は小さな声で呟いた。


「ねえ、夏穂……王女様は、今でも樹くんのことが好きなのかな」


夏穂が渋い顔をする。


「だとしても、アンタが気を使う必要は無いでしょ」


「……そう、だよね」


陽葵は少し暗い顔で頷く。そんな2人の気持ちを余所(よそ)に、体育祭のプログラムは進んでいった。応援合戦の後、更に複数の競技が終了していって、問題の借り物競争がやってくる。スタートラインに立った樹は、それまでと同じように先頭で駆け抜けて、借り物が書いてある紙を取った。紙の表面を見た彼が、目を見開いて薄く笑う。彼は迷わず2人の(もと)に駆け寄ってきて、陽葵に向かって笑いかけた。


「……陽葵! 一緒に来て。何だったら、僕がお姫様みたいに抱えてあげてもいいよ?」


彼が手に持った紙を見せてくる。そこには『好きな人』というお題が書かれていた。


「……アンタってホント……」


夏穂が深いため息をつく。陽葵は困り顔で、差し出された手を見つめていた。


「……あの、でも……」


「君は忘れているかもしれないけど」


樹はにこやかな笑顔で、彼女の言葉を(さえぎ)る。


「僕は玲央と勝負しているんだ。君が協力してくれないと勝てない。……それとも君は、僕が負けてもいいの?」


後から来た生徒たちが、紙を持って周囲に散らばっていく。その様子を背にして、樹は陽葵を見つめ続けた。


「……う、うん。分かった」


しばらくして、陽葵は彼の手を取って立ち上がった。


「でも、抱えるのはやめて。私も一緒に走るから」


その言葉に、樹は嬉しそうな表情になって頷く。


「分かった。だけど疲れたら、いつでも言ってね」


彼が彼女の手を引いて走り出す。先程までと比べれば、明らかに遅い速度。けれど樹の方が先行していたこともあって、陽葵は何とか最後まで、彼の手を借りずに進むことができた。ゴールにいた確認役の生徒が、樹から渡された紙に目を通す。


「ええと、これは……『好きな人』ですね。ではお聞きします、御門さん。あなたの隣にいる人は、本当に好きな人ですか?」


マイクを持った係の生徒は、樹に向かってそんな質問をする。樹はニッコリと微笑んで、息を上げている陽葵の肩を抱き寄せた。


「はい。僕は誰に何と言われようと、彼女のことを愛していますし、彼女以外の人は必要としていません」


満面の笑みで彼が告げる。その答えに、グラウンドにいた生徒たちがざわめいた。敵意と好奇の混ざった視線が陽葵に向けられる。樹はその視線から陽葵を庇うように立って、彼女が息を整えるのを待った。

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