体育祭・朝(後編)
抜けるような青空と、照りつける日差しの下。生徒会長の3年生が、全校生徒の前で開会宣言を読み上げる。
(なんともまあ、回りくどいことだ)
玲央は薄く笑っている。並んで立っている生徒たちに隠されて、宿敵の姿は見えない。
(それも当然か。ここでは奴も我も、他の人間と同じなのだから)
この世界に転生した、その瞬間から。彼には記憶が残っていた。かつての宿敵は、この国でも権力と金が集まる場所にいる有名人だ。対して彼は普通の人間で、魔法を使うこともできない。それでも。
『腐ってる暇があるんなら、やりたいことをやってやれ。勝ちたい相手がいるんだろ。アタシの弟なら、戦わずに諦めるようなマネはすんな!』
同じくらい非力な人間に蹴り飛ばされて、そう言われた瞬間に。彼は気持ちを切り替えた。
(貴様が、我の手が届くところにいるのなら)
ラジオ体操の音楽が止む。最初の競技は彼が出場する、100メートルリレーだ。隊列を崩してスタートラインに向かう彼は、少し離れた場所から自分を見ている樹に気づいて笑みを深める。
(我は貴様と、戦うと決めた。貴様以外に負ける気はない)
白線の前に並ぶ。姿勢を落として、合図を待つ。そして。軽い発砲音を聞いた瞬間に、玲央は全速力で駆け出した。彼はすぐに、ゴールテープを切って止まる
「うわ、ヤバ……」
「あれ何秒? 日本記録とか超えてない?」
周囲から、そんな声が聞こえてくる。けれど彼は意にも介さず、黙って周囲を見回した。
(……やはりな)
当然のような顔をしている樹と、不満そうにしている夏穂。そして彼から目を離し、隣にいる友人と笑顔で話をしている陽葵。他の人間とは違う感情を抱いて彼を見ている、その3人を見つけて。彼は笑みを深める。
(この程度で騒がれていては面白くない。貴様らには)
前世で彼を殺した男が、彼が去ったグラウンドに立つ。次は障害物競争だ。
(相変わらず、面白みのない男だな)
砂に足を取られることもなく、ハードルに引っかかることもない。涼しい顔で障害物を乗り越えて、樹はゴールのテープを切る。
(だがまあ、そのくらいでないと面白くない)
勝った彼は、陽葵の方を見てウインクした。その方向にいる他の女生徒たちの悲鳴と歓声に囲まれて、彼女は居心地が悪そうにしている。そんな2人を遠くから見つめながら、玲央は目を細めた。
(貴様がどれほど愛しても、その思いの半分も返さぬ女。その女を貴様から奪えば、我は貴様に勝てるのだから)




