体育祭・朝(前編)
悩んでいても迷っていても、時は同じように過ぎていく。4月が過ぎて5月になり、その5月も終わる寸前。5月31日に、様々な思惑を孕んだ体育祭の幕が開けた。
「ねぇ見た? 隣のクラス、凄いよ! 今朝から学年の2大イケメンが火花を散らし合っててさあ……」
「えー何、同じクラスでしょ? なんで張り合ってるの?」
「知らないけど、なんか彼女がどうとか言ってたよ。御門くんの方は」
「嘘ぉ! 御門くん、彼女いるの? じゃあ、彼女に良いところ見せたくて頑張ってるってこと?」
「かもね〜。気になるなら、ほら。借り物競争。彼、出るらしいよ〜? その手の借り物は毎年ノリで入るから、もしかしたらもしかするかもね」
「えー、やだ! 王生さんくらい綺麗じゃないと、受け入れられないかも……」
「このバカ。あんたがどう思うと、選ぶのは御門くんでしょ。だいたいフリーでも、あんたなんか相手にもされないわよ」
「うー……そりゃそうだけどさぁ……」
近くの席からきこえてくる噂話に、夏穂は何か言いたげな顔をして陽葵の方に視線を向ける。陽葵は無言で目を逸らしたが、夏穂は逃げを許さなかった。
「ちょっと、ねえ。どうすんのよ、これでその手の借り物を引いたら」
「ひ、引かなければ良いんじゃないかなあ、なんて」
「楽観的すぎるわよ、アンタ。……ったく、アイツもアイツよね。なんで借り物競争なんて選んだんだか……」
「……やっぱり、樹くんが選んだのかな」
「そうじゃない? こっちのクラスでも、出場競技は1人最低2競技って定められた、早い者勝ちの選択制だったでしょ。……ま、あの魔王が他人に協力してもらわないと勝てないような競技を、好んで選択するとは思えないし? こうなることも予想しておくべきだったと言われれば、文句は言えないけど。一応覚悟はしておきなさいね」
「…………はい」
弱りきった表情で頷く彼女を見ながら、夏穂は別のことを考えていた。
(王生姫依、ねえ……)
陽葵は自分のことで手一杯で気づけていないが、彼女はその顔を覚えていた。自分に対する自信に満ち溢れた、美しい少女。
(間違いなく、あの王女様だよな)
彼女は隣のクラスにいる。当然、樹も出会った瞬間に気づいたはずだ。自分たちと同じように、彼女も転生してきたのだと。
(なんで何も言わねえのかは分からねえ。けど、間違いなく。アイツも陽葵を見つけてる)
陽葵は目立つタイプではない。それでも。アルトゥールを追いかけて、故郷にいる幼馴染のことまで突き止めた女ならば。あり得ないことではないだろうと、夏穂は思った。




