昼休み
ホームルームが終わって、1時間目から4時間目までは何事もなく進んだ。そして昼休みになり、陽葵は夏穂と共に弁当を持って教室を抜け出す。2人はそのまま屋上に向かって、そこで並んで弁当箱を開けた。
「やー……屋上の鍵、開いてて良かったね」
「……うん。ごめんね、夏穂。私のせいで……」
「何言ってんの。朝も話したでしょ。悪いのは陽葵じゃなくてあのバカ。アンタは被害者なんだから、堂々としてればいいの」
暗い顔で俯いた陽葵の背を撫でながら、夏穂は彼女に笑いかける。その言葉に反応したのか、給水タンクの影にいた人物が苦笑を浮かべて姿を見せた。
「バカは酷いなあ。……でも確かに、これは僕が悪い。結果として、君に迷惑をかけちゃったし」
その声と姿に。陽葵は驚いて飛び上がりかけた。夏穂が冷ややかな目で彼を見る。
「樹? お前、こんな所で何してんの」
「何って……僕も陽葵と一緒にお弁当を食べようと思って君たちの教室に行ったら、2人が居なかったから追いかけてきたんだよ」
「てことはオレたちのクラス、知ってたんだ。まさかこうなることを予想して、朝に騒ぎを起こしたわけじゃないよな?」
訝しげな彼女の視線を真っ向から受けて、樹は少し困ったような顔で笑った。
「まさか。……周囲を少し牽制するつもりでやったのは認めるけど、ここまで大事になるとは思わなかったよ」
「お前、自分が有名人だっていう自覚がないわけ? もうちょい考えて動けよ。昔っから、その手の危機感は欠けてるよな、アルトは」
「……返す言葉もないな。僕は、元は村人だったから……その感覚が抜けてなくてね。感情に振り回されがちな側面があるのは認めるよ。まあ、こうなった以上は仕方ない。陽葵に何も起こらないように、僕が君を守ろう。だから安心して」
その言葉に。夏穂は眉間のシワを深めて、陽葵は頬を赤らめて下を向いた。対照的な2人の反応に笑みを深めながら、樹は購買で買ってきたパンを持って陽葵の隣に座る。夏穂はそんな彼の姿を見て、深いため息をついた。
「……ほんっと、何を言っても響かねえのな、お前。自由すぎんだろ」
「ふふ。ありがとう。メルに褒められるのも久しぶりだな」
「褒めてねえよ。ったく……まあいいか。お前に絡んでたら、休み時間が終わっちまう」
不満そうな顔のまま、夏穂が弁当を食べ始める。陽葵も戸惑いながら箸を動かした。樹はニコニコ笑顔で、パンを頬張る。抜けるような青空の下、吹き抜ける風に髪を揺らして。3人は昼休みが終わるまで、ずっと屋上で過ごしていた。