放課後
休みが終わった後は午後の授業。それと掃除だ。相変わらず陽葵は女子から敵意の視線を向けられていたが、それは一部の相手だけで、まだグループにもなっていないため何とか乗り切れた。掃除の後のホームルームが終わって、陽葵は机にうつ伏せになる。
「はー……疲れた……」
「お疲れ、陽葵。大変だったね」
夏穂が苦笑を浮かべながら席を立って、陽葵の側まで歩いてくる。陽葵はゆっくりと体を起こして、彼女を見上げた。
「ありがとう。……ねえ、夏穂はやっぱり前と同じで、バスケ部に入るの?」
「そのつもりだったんだけど、陽葵のことも心配だし止めとくよ。てか、アイツを勧誘してた先輩の中にバスケ部の人もいたし。男子の方だけど、それでもちょっとね。……本当は逆方向でも、陽葵の家まで一緒に帰ってあげたいくらいなんだけど」
「ううん! そこまでしてもらうわけにはいかないよ。私なら大丈夫だから!」
陽葵が慌てて、首を横に振る。そんな彼女を見て、夏穂は悩ましげな、けれどどこか納得したような笑みを見せた。
「陽葵なら、きっとそう言うと思ったけど。それなら前と同じように、駐輪場まで一緒に行こうか」
彼女の言葉に、陽葵は頷いて席を立つ。そして教室を出た2人は、外で壁に寄りかかって待っていた樹に見つかった。彼は柔らかな笑みを浮かべて、陽葵に向かって声をかける。
「ねえ、良かったら僕が送ろうか? 実際に運転してくれるのは、父さんの秘書だけど。自転車も車に乗せて運ぶよ」
その、とんでもない発言に。先に反応したのは夏穂だった。彼は心底嫌そうな顔で、樹に詰め寄る。
「はあ? そんなことしたら、ますます目立つって分からねえ? 大体それ、お前じゃなくてお前の家の力だろ。誇らしそうにしてんなよ」
「でも、どうせ目立ってるのならこれから何をしても変わらないだろう? それに僕は跡取り息子だから、家も会社も将来は僕の物になる。これは1種の前借りだよ」
樹は、彼の胸ぐらを掴もうとして伸ばされた夏穂の手首を、逆に掴んで笑みを深めた。一触即発の雰囲気に、陽葵がオロオロとした様子で口を挟む。
「ま、待って。……あの、樹くんの気づかいは嬉しいけど、それはいいよ。お母さんが驚いちゃうし。私なら1人で帰れるから。……何かあったら、絶対に樹くんに電話する。約束するから、車で送るのはやめて」
その覚悟の込められた言葉と、少し遠慮がちな態度に。夏穂は安堵と信頼の眼差しを向けて、樹は少し落ち込みながらも嬉しそうに笑った。
「……分かったよ。ちょっと、残念だけど……でも、僕は君のそういうところも好きだから。下までは一緒に行って、そこから先は別れようか。……それと。約束、忘れないでね」




