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事情説明(後編)

「……アルト」


陽葵(ひまり)は何とも言い(がた)い顔をして、目の前にいる少年を見つめた。アイルーズとしての最期の記憶は、血溜まりに倒れたところで終わっている。その後のことを、彼女は知らない。


「大丈夫だよ。こっちの世界は平和だし、そんなに心配しなくても……」


「……違うんだ、アイ。僕は君を殺したあの王女に、衝動のままに手を出してしまった。魔王グラントリーがこの世界に転生してきているのなら、王女も同じように転生している可能性が高い。……あの女は魔王以上に、何をするか分からない。そう思ったから、僕は……」


陽葵の言葉に、(いつき)が顔を上げて彼女を見返す。その瞳には、悲しみと恐怖が(あらわ)れていた。彼は早口で言葉を紡ぎながら、彼女の前まで歩いてくる。


「僕はもう、君を失いたくないんだ。ねえアイ。お願いだよ。僕の側にいて。ずっと守ってあげるから」


そう言って、彼は陽葵に向かって右手を差し出した。陽葵は近づいてきた彼を見上げる。彼の気持ちに嘘はない。それは理解できている。けれど。


「……ごめんなさい。私は佐藤陽葵であって、アイルーズじゃないから。あなたの想いには、答えられない」


村娘だったアイルーズは、もうこの世には居ない人間だ。そう考えて、彼女は彼を拒絶した。彼の瞳が揺れる。夏穂(かほ)はベッドに横たわったまま、無言で事の成り行きを見守っていた。しばらくして、彼は差し出した手を引っ込めて笑う。


「……そうか。それならこれからは、陽葵としての君を口説き落とさないといけないな」


その言葉に。陽葵は驚きで固まって、夏穂はやっぱりなと言いたげな表情になった。元勇者だった少年は、穏やかな笑顔で話を続ける。


「君のことだから、どうせ今まで自覚して無かったんだろう? 僕は旅をしている最中も、君のことが頭から離れなかったっていうのに……不公平だと思わない? 今もそうだ。君は僕の覚悟を、甘く見てる。僕は生まれた瞬間に、この世で君を探すと決めた。君が何に変わっていても構わない。今度こそ、僕の物にすると。そう思って、探し続けたんだよ。だから君も覚悟してね。僕はこれからも、君がその気になってくれるまで、僕の気持ちを伝え続けるから」


そっと陽葵の頬に触れて、彼は爽やかな笑みを浮かべた。その表情は、陽葵が知っている彼と何も変わらない。なのにどこか異質な感じがして、陽葵はその場から動けなかった。横たわる夏穂が冷めた目をする。


「……あのさ。一応言っとくけど、アタシは陽葵の味方だからね? アンタには悪いけど、助けを期待してるならお門違(かどちが)いよ」

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