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70話 オムライスと勘違い



ナターシャとシンディーによる競り合いは、翌朝になっても続いていた。


三人で囲む朝食の席には、そこはかとなく緊張感が漂う。


「あまり見たことがない料理ね、この崩れた黄色のものが卵を使っていること以外分からないわ」

「む、オムライスですよ! まあ確かに形は崩れてますけど、別にあなたのために作ってません。ディル様のために作った朝ごはんですし、食べなくてもいいんですよ」


ナターシャは昨夜、うちの屋敷に泊まった。


一応空き家もあるにはあったのだが、彼女は高貴な身分である公爵令嬢だ。


ナターシャ自身が俺の家に泊まることを希望したのもあり、空き家は従者の方に使ってもらい、彼女には来客用の部屋を貸した。


大切な客人だ。

アリスがいない以上、朝ごはんは俺が用意しようと思っていたのだけれど、朝起きてみれば、シンディーがすでに用意してくれていた。


まぁ少し、形は崩れていたけれど。


「食べないとは言ってない」


ナターシャはそれだけ言うと、スプーンを手に取る。


卵とトマトライスを器用に少しだけ掬うと、それを口に運んだ。


目を瞑って、黙々と噛み進める。暫くして、ボソリと彼女は呟いた。


「驚いた。美味しい。うちの料理人より」

「え、ほんとですか!?」

「えぇ、これまで食べたもので一番美味しい卵料理」


見た目へのコメントからして厳しい感想が述べられると思っていたから、意外すぎる超高評価であった。


「えへへ、そこまで言うなら食べてもいいですよ。

 まぁアリスちゃんに教えてもらったこともありますし、久々でしたけどこれくらいは、余裕のよいです!」


これにはシンディーもにへにへと頬を緩ませて、まんざらでもない反応を見せる。


あらゆる美味しいものを食べてきただろうナターシャの評価だ。

もしかしたら、かなり美味しく仕上がっているのかもしれない。


俺が期待しつつ一口に運べば…………かなり甘かった。


俺の見立ても、それからオムライスの味も。


たぶん、砂糖と塩を入れ間違えたうえ、分量も誤ったのだろう。

まるでシロップに漬けられたパンケーキみたいな味が、口の中には広がる。


ちなみにトマトライスとの相性は、お世辞にもいいとは言えない。


そこで、過去の記憶がぼんやり蘇ってきた。

ナターシャの食事の好みはかなり変わっており、とにかく甘いものが好きなのだ。


そんな彼女には、たしかにハマる味なのかもしれない。


「どーですか、ディル様!」


シンディーの期待に揺れる目が痛かった。

甘さの暴力に堪えながら「美味しいよ」と答えると、彼女は目を輝かせる。


「よかったです! じゃあわたくしも、いただきまーす♪」


もはや、止める間もなかった。

シンディーは目いっぱい掬ったスプーンを口に入れる。


そこからしばらく、固まってしまった。笑顔がだんだん真顔になる。


かと思えば、顔色が悪くなり、スプーンを加えたままがたがたと震え始めた。


なんとか飲み込み終わると、水を流し込んだ後で俺に頭を下げる。


「ディル様……わたくし、とんでもないものを作ってしまったのかもしれません。申し訳ありません、気を遣わせてしまって!」

「えっと、まぁ失敗は誰にでもあることだし気にするなよ」


誰も最初からはうまくいかない。

特に俺たちは、アリスに日々の料理を任せていたから、ほとんどなにもしていなかった。


いきなりやるのはそもそも無茶なのだ。


「ナターシャさんも、すいません。こんなものにお褒めをもらって……。意外と気が遣えるのですね」

「……? 気なんて遣ってない。本音」

「あーん、悔しいくらいどこまでもいい人だ……!」


シンディーはこれまでとは一転して、ナターシャの人柄を称賛する。


まぁ実際のナターシャは、ただただ本音を言っているだけなのだけで、大いなる勘違いなのだけれど。


とはいえ、たとえ偽りでも、ずっといがみ合ってるよりは平和がいい。


そのためなら甘いオムライスくらい軽いものだ。

俺も気合を入れて、残りのオムライスを平らげにかかる。


「うん、いけるな、意外と」

「ディル様まで〜……! わたくしも食べて、次に活かします!!」


そんな風にして、騒がしい朝食の時間は、過ぎていったのであった。



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