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69話 前哨戦!

勝手に始まった、シンディーとナターシャによる『どちらが俺を貰うか』という謎の張り合い。

二人は明日からだと言っていたが、まだ続いていた歓迎会の終盤で、それはすでにヒートアップしていた。


「あのイベント、私もやる」

「ナターシャさんが出るなら、わたくしもやります!!」


二人が口々に参加表明したのは、誰かが企画したわけでもなく酒の勢いで自然と始まった、一芸大会だ。


今はクマベア族が力自慢をするため、大岩を持ち上げるというパフォーマンスをして、歓声を浴びている。

たしかにとんでもない怪力だ。これだけの力持ちが味方にいてくれるのは、かなり心強い。

起こった拍手に乗って、俺も手を叩いていたら、


「りょーしゅさま~!!!! これが、我らの力です!! うお~~!!」


……それがより一層力を与えたらしい。

岩の上に三人が乗り、それを持ち上げるという大技まで披露してくれた。



その次に出てきたのは、キャロットだった。

彼女はクマベア族たちと仕事をすることもある。そこで、彼らに推されて、なかば仕方なく出てきたようだ。

大きなハンマーをくるくると回しながら、目線を上にやり、なにやら考えを巡らせる。


「うーん……、うちのできることって地味なんだよねぇ。まぁ、これとか?」


その末に彼女は、なにやら唱えつつ地面にハンマーをたたきつける。

一見するとなにも変わっていない。しかし、そこへ小さめの石を落とすと、そこにはぽっかりと穴が開いた。

【罠生成】の力で、落とし穴を作ったらしい。


「こんなんでも芸になる?」


と、キャロットは自信なさげに苦笑いしているが、十分すぎる。


大半の人があんぐりと口を開けていた。

テンマ城の建設に携わっていない人からすれば、たしかに初めて見る人からすれば、この能力は驚きだろう。

しかしその反応をどう受け取ったのか、


「あぁ、もちろん塞ぎなおすのもすぐにできるから安心して」


彼女はこう言って、すぐに穴をふさぐ。

これまたびっくりの光景に再びしんとするから、


「やっぱ向いてないわね、うちには」


キャロットは頭をかきながら檀上を降りる。俺の横に取っていた席に戻るやワインを一息に煽って、気持ちよさげに息を吐いた。


「それで、どっちが先に行くの?」


それから、シンディーとナターシャにこう投げかけた。


どうやら二人の中で、もう順番は決まっていたらしい。

とくに返事をするでもなく、ナターシャが先に立ちあがる。


そこへ、彼女とともにテンマ村へと来た従者が手渡したのは、横長の布袋だ。彼女がその紐をほどくと中からは、一本の笛が出てきた。


学生の頃見たものと同じ、なぜかクマの子供が描かれた横笛である。

どうやらかなりのお気に入りらしい。



彼女は檀上までしずしずとした足取りで上がる。

またしても無言のまま、ぺこりと頭を下げ、指をセットしたら、そっと笛を吹き始めた。


これまた、かつて俺が聞いたものと同じ曲、『冬の湖面』だ。


その音色は一瞬で、歓迎会の雰囲気を変える。

それまで和やかに会話を交わしていた者たちはみな口をつぐみ、森から聞こえていた鳥の鳴き声すらやむ。

それどころか、風音すらも耳には届かなくなっていた。


やっぱり圧倒的だ。昔から彼女の笛は、王都でも高く評価されており、音楽界では彼女の名を知らぬ者はいない。

聞こうと思ったら、多額のお金を払わなくてはならないくらいの名手がナターシャである。


そのメロディラインの特徴は、穏やかでありながら力強い。そして、人の心を捉える音だ。


『無の令嬢』だなんて呼ばれ、顔や言葉ではとにかく分かりにくい彼女だが、笛を手にすればむしろ雄弁でさえある。

その音は彼女の心を表すように、ところどころで調子を変えながら曲は進行し、最後は綺麗な和音で余韻を残しながら締められた。


あまりの演奏に、やや間があってから拍手がまばらに起きる。

それくらい、ほとんどの人が演奏に圧倒されていたのだ、きっと。


それでも、こんな反応には慣れているのだろう。ナターシャは、なにごともなかったかのように、ゆっくりとこちらに戻ってきた。


「どう、だった?」

「……凄すぎて言葉が出ないよ」

「出てるけどね」


ナターシャはふっと片唇の端だけを上げ、ふうと一つ息をつく。

余裕が漂うその振る舞いに対し、一方のシンディーはといえば、ぷるぷると肩を震わせていた。


「たしかにすごいですけど、超えてみせますよ、わたくし……!!」


気合十分の顔つき、目をしかめながら彼女は、壇上へとかつかつと向かっていく。


あまりにも完成度の高い演奏の後だ。まだ静まり返っている村人たちの前で、彼女は一つ大きな深呼吸をした。


なにをするのだろうか、やっぱり錬金術? と俺は考えを巡らせるのだけれど……


「歌劇やります!!」


予想は、大ハズレだった。


まったく構えていないところに始まったのは、唐突な歌唱と、謎の踊り。みんながついていけずに、目を見合わせているのにも構わず、シンディーは実に生き生きと全登場人物を一人で演じる。


「……助けてあげようかしら」


と、ナターシャが呟くほどのすべりっぷりであったが、途中からは見かねたのだろう村人たちも参加して、一応の盛り上がりは見せる。


そうして、謎の勝負・前哨戦は、うやむやのうちに終わったのであった。




♢



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