68話 吹っかけられた勝負
「……えぇっと?」
「ディルックが頷けば、それで済む。私の旦那になって」
「おいおい、待てって。前提が抜け落ちてるだろ!」
「……? 私はディルックが好き。それだけじゃだめ?」
「な、好き……?」
「うん、好き。もちろん恋愛感情」
「だからって、それだけじゃ……! だいたい、家を出てきたんなら親の承認も――」
「それなら、もう下りた。ディルックが旦那なら、いいって。はい、これ」
一枚の手紙が渡される。
うん、たしかに、ウォーランド家の印だ。
手紙を開いてみれば……
『勝手な娘だが、言い出したら聞かない。すまないが、しばらくテンマにて預かってくれないだろうか。君なら、心配ないと思っているよ。側近を追われて以降の君の武勇は、ゲーテ王からもよく聞いている。
もちろんそのまま引き取ってくれてもいい。君は、今一番勢いがある地方領主と言っても過言ないからねぇ。王都の貴族界隈でも、君を狙う令嬢が実は増えているそうだよ。まぁ、うちの娘に勝る相手はいないだろうがね。
いろいろな意味で期待しているよ、ディルックくん』
フランクな文体で、色々と無茶なことが書いてあった。
ここまで親に把握されているのだから、家出というより旅行だな、うん。
そういえば、使用人を連れていたり、ウォーランド家の家紋が入った馬車を使ったりしていたわけだし、考えてみれば家出した人間のできることじゃない。
俺は手紙を閉じて、どうしたものかと考える。
公爵様からこんなふうに言いつけられた以上、帰すわけにもいかないし……もちろん、婚姻なんてすぐに決められるわけもない。
「そもそもなんで俺……?」
「それは、ここでは伝えられないくらい色々ある。でも、本気」
「分かった、分かったから、あんまり見ないでくれ……」
真正面からそんなふうに言われるなんて、思っても見なかった。
俺は赤くなる頬を隠せない。
「それで、するの? しないの?」
「……気持ちは嬉しいけど、すぐには決められない。それに今は忙しいことをあるから、結婚は――」
「……じゃあ、待てばいい?」
そこへ再び決断を迫られる。
こうなったら、半ば回答は強制されていると言っていい。
正直、彼女の実家がウォーランド家であることを考えたら、本気で迫られたら断りようがないのだ。
だがそんな気持ちで結婚するのはいかがなものか。それで彼女が幸せになるとも思えない。
俺が答えに詰まって、窮地においやられていると、そこへ乗りこんできたのはシンディーだった。
「ディル様に結婚を迫るなんて、不埒です!!! だいたい急に現れて、ぬけぬけとそんなことが許されると思ってるんですか!?」
勢いよく、口撃をしかける。
キャロットに連れ去られて以降も、ずっと耳をそばだてていたらしい。
「だいたいディル様は今お忙しいんですーだ! わたくしとの愛の時間をはぐくむのに!」
いや、それは違うけどね? 開拓で忙しいのである。
が、口を挟むこともできないくらい、シンディーは次々まくしたてる。
その様が嵐なら、ナターシャは凪だ。まったく反応を見せていなかったがしかし、ついに口を開く。
「あなたは、ディルックの召喚した英霊……という存在なのでしょう? そもそも相手にならない」
「相手にならないのはこっちですよーだ。英霊かどうかなんて壁は簡単に超えられます。わたくしはたくさん苦楽をともにしてきましたし!」
「……時間で言えば、私の方が上」
「所詮、昔の女なんですよーだ! 時間の濃密さで言えば、わたくしのほうが優勢です」
ねぇ、本当になにこれ。
少なくとも俺の前でやらないでほしいんだけど! というか、なんか煽られた結果、もう普通に話せるようになってる!?
俺はそれに驚きつつも、できるだけ二人のやり取りを聞かないよう、意識的に努める。
そうしていたら、やっと終わったらしい。
「明日から、私がいかにディルックを貰うにふさわしいか示す」
「受けて立ちますよ。まぁでも? 残念ながら、余裕のよい! で、わたくしの勝ちですから。わたくしとディル様の愛の強さに打ちのめされて、あなたは王都にとんぼ返りです!」
「……見てなさい、喧噪女。すぐに撤回させてあげる」
あずかり知らぬところで、よもやの結論が出ていた。
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