大正義
とあるデパートの屋上にある、小さな遊園地のメリゴーランドをトレンチコートを着た男が占拠していた。
その時はまだお客さんが居る時間で、不審者を一目見ようとそこに群がる野次馬が多くいた。
デパートの従業員らしき人が男に叫んだ。
「そんな馬鹿な事はやめて、早く降りてください!」
男はトレンチコートに手を掛けて怒鳴る。
「ふざけんな!誰が降りるか!」
多感な時期の子どもを思わせる身勝手な男は、身を剥ぐようにしてトレンチコートを広げた。
そこには黒く四角い、いくつもの複雑な回線をした箱をガムテープで巻いていた。
「こいつが火を噴くぞ!近づくんじゃねぇぞ!」
リモコンを手にして野次馬や従業員を威嚇する。
しかし、男の意思に反してその意図には誰も気づけず、一切、怖がる素振りを見せない。
その様を、その空気を感じた男は泣きながら饒舌にその半生を語り始めた。
「お、俺は………許さねえぞ!お前も!お前も!お前も!………皆みんな、俺をバカにしやがって!仕事を何回もやり直させたり、歩くだけバカにしやがって!黄色い救急車を呼んだりするようなお前らにはうんざりだ!ピンクの像ならそんなことはしない。電話の吐息に耳を澄まして、名刺を片手に自由を掲げよ!カンボジアの冷凍マグロの方がまだましだ!」
その言葉はまるで、機械が発しているのではないかと勘違いしてしまうほど破綻しており、おそらく、その場にいた誰もが隣人と顔を合わせただろう。
男は最後にこう言った。
「神よ、私は間違っていない!」




