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銀縁小隊  作者: 黒六
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タイトルを変えました。少々ネタバレ気味だったもので。

「歯応えがないな……期待外れだったか」

「仕方ありませんよ、彼らは純粋な帰還者ではありませんから」


 狼獣人が大剣の一振りで破落戸の一人を容易く上下に分断すれば、魔族の男の放った魔法が別の破落戸を骨すら残さず焼き尽くす。侵攻してきた賊たちの中でも突出した戦闘力の高さを誇る二人は、立ち向かってくる破落戸どもを次々と撃破していった。


「逃げる奴まで相手にするんじゃねぇよ」

「おや、お優しいことですね」


 戦意を失い、這いずるようにして逃走する破落戸に向けて魔法を放とうとする魔族の男を狼獣人が剣で制した。魔族の男の口調は穏やかだが、そこには静かな怒りがにじみ出ていた。


「虐殺するつもりは無い」

「ずいぶんと甘い考えですね。戦後のぬるま湯な生活に毒されましたか?」

「あんな風になりたくないだけだ」

「ああ……同感です」


 二人の視線の先には、石化ガスで石造と化した住人たちの中から見目麗しい少女たちを運び出している警備局員の制服を着た男たち。中には住居から金品を持ち出している者までいる。


「確かに戦地での略奪、凌辱はよくあることですが、それはあくまでも末端の兵士くずれがすること。実際に目の当たりにして気分のいいものではありませんね」

「あんなのでも今は一応仲間だからな。もし部下だったら即座に首を刎ねてやるところだ」


 戦争時に制圧した街などでの略奪行為が行われることは少なくない。本来はご法度であるのだが、事実上黙認されていた。というのも、そういった行為に及ぶ者たちのほとんどがはした金で雇われた傭兵であり、明日を生きる糧を自らの命を量り売りすることで食いつなぐ底辺の兵士である。いや、厳密にいえば彼らは正規の兵士として登録されておらず、兵士くずれとして認識されていた。


 彼らにとっては略奪行為で得られる戦利品はそのまま収入につながり、そのまま戦意の上昇にもつながる。泥沼のような戦いで正規兵を失いたくない軍部はこういった末端の戦力に頼っていた部分も大きかったため、事実上黙認していたのだ。


「あさましいですね、所詮は欲に溺れた者ということですか」

「だがそれは俺たちも同じだろう? こうして死に場所を探して無駄に命を奪いながら彷徨っているんだからな」

「違いありません」


 彼らとて自分たちの行為が誇れるべきものではないことなど重々承知している。だがそれでも僅かな望みに縋るためにここにいるのだ。その望みを叶えるために命を奪い、吐き気すら催しそうな略奪行為に加担している。


「おい、貴様ら。俺たちは目標地点に向かうからここで足止めしろ」


 不意に二人がかけられた声の方を向くと、警備隊の制服姿の男、マクダネル家の三男が住民のなけなしの財産であろう金品をポケットからあふれさせながら立っていた。


「目標地点……ああ、あの娼館ですね」

「わかった、ここは任せて早く行け」

「頼むぞ、無事に終わればお前らにも褒美として少しだけ分け前をやろう」


 二人から見ても明らかにまともに鍛錬などしていない身体の若い男は、先ほどまで傷を負って動きの鈍った破落戸を痛めつけていた。その証拠とばかりに醜く歪んだ笑みを浮かべるその顔には返り血が付着していた。二人の沈黙を無言の了承と受け取った男は仲間たちを連れて目的の場所へと移動しはじめた。


「……あんな奴でもいっぱしの兵士以上に動くとは、魔導補助術式というものは恐ろしいな」

「ですがそれに振り回されているようにも思います。やはり我々にとってはあの戦争で対峙したアレのほうが恐ろしいのでは?」

「まあな」


 離れてゆく男たちの背中を、嫌悪感を露骨に顔に浮かべて見送る二人。あの戦争時ではあんな未熟な者たちの配下になるなど想像することなど出来なかった。アンリール・プルーナル両国の軍は完全実力主義であり、そこに貴族のしがらみや権力、財力など入り込む余地は無かった。無かったはずだった。


「俺もお前もあの戦争では途中離脱してしまったが、それまでに対峙した時はすべて潰走させられている。今思い出しても寒気がする」

「ええ、同感ですね」


 だが寒気がすると言っている二人の顔にはうっすらと笑みが見える。何故なら彼らがこの街に攻め入ることを決めたのは、ほんの一握りの希望に賭けたからだ。そしてそれを実現させるためにはこの侵攻は必要不可欠なもの、この街を護るモノが彼らの想定通りであれば、敵対こそが最短の道。最短ルートを進んでいるという実感があるからこその笑みだろう。


「先行した連中が殺られてますね。これは……魔導筒でしょうか? あんなガラクタを使いこなすとは……噂の真実味が増しますね」

「ああ、しかも確実に一人一発で仕留めてやがる。無力化なんて温い考えを見せないとは大した奴だな、甘ちゃんの警備局員にしとくにゃ勿体ない」

「であれば彼らの目的地にも何らかの手段を講じられていると考えるべきでしょうね。まぁそれを私が報せてやる義理はありませんが」

「ああ、攻め込む相手が何も策を講じないなんてありえないだろ。そんなことも思い浮かばない連中がどうなろうと知ったことじゃないからな」


 彼らはマクダネル家から直接雇われている訳ではない。マクダネル家を後押しする貴族からの依頼で来ただけであり、そもそもマクダネル家には何の思い入れもない。それどころか彼らはその依頼の裏の意味もきちんと理解していた。


 この特別市街地域は正式に王国の領地ではなく、かつてのプルーナルとアンリールの領地だったもの、併合されているとはいえ一介の伯爵家にすぎないマクダネル家が侵攻するなど、元アンリール・元プルーナルの国民にとっては受け入れがたいことだろう。それに王国の上層部にはかつての両国の上層部もおり、その権力は決して小さくない。そういった者たちとの軋轢を確実に生み出す今回の侵攻は、大勢がほんのわずかに劣勢に傾いた時点で決断しなければならない。


「もう既に十人以上倒されています。本来ならば一度立て直すべきなのでしょうが……」

「無理だな、あいつら破落戸どもを嬲って自分の実力があると勘違いしてる上に欲が思考を完全に乱してやがる。俺たちがいくら言っても聞かないだろうよ」

「ではさっさと見限ってしまいましょう」

「だな」


 抵抗を受けることは想定の範囲内、だが被害は最小限に抑えらえると計算しての作戦だった。いや、ただの略奪行為に作戦などと大層な題目を与えること自体が滑稽か。略奪行為を正当な治安維持としての作戦と認めさせるには、マクダネル家がこの街をほぼ無傷で制圧し、彼我の実力差をはっきりと見せつけなければならなかった。自分たちならばここまで完全に掌握できると皆に知らしめなければ、その非道な行為が受け入れられることは無い。


 だが現実は既に住人以上被害が出ている。それも本部の警備局員に、だ。彼らはまがりなりにも貴族の子息、勝手に王国外の領地に侵攻して命を落としたとなれば大事に至るのは必至である。なので彼らは自分たちの雇い主に被害が及ばないように動くことを求められていた。


「さて、マクダネル家とやらがどうなるかなど我々の関与するところではありませんが……どう出ますか?」

「来るだろうな、噂通りなら。魔導筒なんてものを使うヤツもいることだしな」


 彼らが待ち望むのは好敵手。かつての戦争において失った己の誇りを取り戻させてくれる力量を持った者たち。それが強大であればあるほど彼らの望みが叶えられる可能性も高くなる。

 

 魔導筒という武器を使う者がいる、それは彼らの期待をさらに高める要因にもなった。もはや今の時代にそんなガラクタを使う者などいない。いるとすればかつての戦争においてそれを使いこなしていた者だけだ。


「……どうやらお見えになられたようですね」

「……らしいな」


 二人は先ほど仲間たちが歩いて行った方向から近づいてくる人影を発見した。その姿は警備局員の制服を乱雑に着こなした女性、新雪の如き白髪をなびかせて歩くその姿は一見すると隙だらけにも見えるが、纏った空気はマクダネル家の関係者たちのそれとは雲泥のごとき違いがある。


 自然体のように見えるが、その実纏う気配は切れ味鋭い剃刀、いや、あらゆるものを両断する魔剣の類と表現したほうが正しいかもしれない。今にも爆発しそうな怒りを必死に抑え込んでいる、そんな印象を強く与える女性だった。


「……あんたらもあいつらの仲間か?」

「そうだと言えばそうでもありますし、そうでないと言えば違いますね」

「何だそれ」

「つまりどうでもいいってことだ」

「ああ、そうか」


 まるで禅問答のような会話、だがそれでお互いに理解できてしまっている。その事実が彼らを歓喜させる。


「貴女も帰還者で?」

「ああ、今は一応ここの警備局員の隊長だがな」

「なるほど、つまりお前が大将ということか。だが隊長というからには部下を放っておいていいのか?」

「うちの隊員は強いからな、少なくともあんな雑魚に後れを取るようなことはないさ」

「魔導補助術式を使っていてもですか?」

「雑魚がどれほど強化されても雑魚は雑魚、雑魚はどう足掻いても鮫にはなれない」

「違いありませんね」

「お前は違うのか?」


 狼獣人が大剣の切先を向けてキャラミアに問う。警備局員であれば魔導補助術式を使うことが前提となっている。であれば目の前の人族の女性もその類に洩れないだろうと推測しての問いではあったが、キャラミアは小さくため息をつく。


「あんなものに自分の命を預けるほど平和ボケしちゃいないさ。最後の最後で信じられるのは自分で手に入れたものだけだ。違うか?」


 そう言いながらジト目で二人を見遣るキャラミア。まるで馬鹿にしたかのような態度ではあるが、二人は突然破顔する。キャラミアの言葉が気に入ったようだ。


「素晴らしい! それでこそあの戦争を生き抜いた者の証!」

「さあどうする! 俺たちはお前の護る地に攻め込んできた外敵だ! そうだ、これは戦争だ! さあ! さあ!」


 興奮を隠すことができずに声を荒げ始める二人。目の前の女性であれば自分たちの望みを叶えてくれるのではないかという疑問が次第に現実になりつつあることを理解したからこそ、その心の滾りを抑えることができなくなっていた。だがそれとは真逆に戦争という言葉を聞いた瞬間、キャラミアの目が冷たい光を帯びた。


「そうか、お前らもまだあの場所にいるんだな……いいだろう、きっちり戦死させてやる」


 そう言い放つと腰の警棒を右手で抜いて構える。身体を半身にし、左手を前に出して小さな魔法陣を展開する。先ほどの警備局員たちとは全く異なるその構えだが、二人はそれを見てさらに歓喜の表情を浮かべる。


「その構えは!」

「やはりお前は!」

「御託はいいからさっさと来い」


 キャラミアの短い言葉を引き金に、二人が地を蹴る。これまで破落戸共を相手にしていた時とは全くの別人と呼んでも差し支えないような機敏で連携の取れた動きは苛烈を極めたあの戦争の経験者であることを容易に想像させた。だが対するキャラミアは一切表情を変えずに構えたまま待ち受ける。


 忌まわしいものとして語り継がれるあの戦争の経験者どうしの戦いの幕が切って落とされた。

  

読んでいただいてありがとうございます。

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