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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第四章 二節 憎悪の災いの先
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4.歓喜、狂嬉、そして叫び

《ウォーク》

「私が、王女と結婚!?」

 エンレイ国王自ら僕を王室まで呼び、一体何事があったかと内心不安になっていたが、夢にまで思っていなかったことが国王の口から言い放たれた。

思いがけない朗報。吉報。だが、嬉しさよりも疑問が沸き立つ。


「ど、どうして使用人の私が……3国の求婚者はどうしたのです?」

 国王は僕の質問に答えず、訊きかえした。

「何故、災龍の居場所が分かった。そして何故、我が四英雄や国軍を呼び、捕獲させた」

 ドクン、と妙な汗が背中を滲ませる。考え込まず、だが恐れながら口を開く。

「丁度私が庭にいたとき、災龍が王宮に入っていくところを目撃しました。その侵入した場所が王女室だと確信し、危険だと感じたのですぐに近くにいた人に応援を頼みました。それが理由です」

「災龍を捕獲しサクラを救出した者9人が、お前の近くにいた者か」

「はい」

「たまたま空を見上げていたのか」

「はい」

「……」

「……」


 沈黙が流れる。この王は僕を疑っている。本当のことを隠していると言わんばかりの眼で重苦しく僕の眼の奥を見続ける。


「……わかった。とりあえず、ご苦労であった」

「ありがとうございます」

 だが、疑いは晴れたようだ。


「しかし、私はただ災龍を目撃してサハド殿ら9人を案内しただけです。私のような者より寧ろ彼等9人の中から選べばよかったのではないかと思うのですが」


 国王は低い声で高笑いする。


「はっはっは、やはり謙虚だな。こんな機会、もう二度とないかもしれないというのに遠慮をしおって。ウォーク、御前は優秀だ。皆にはない才能や人間性を持っている。そして、一番サクラと関わっており、仲が一番いいのは他でもない、おまえだウォーク」

「ですが……私はただの召使でありまして――」

「身分も何も関係ない。私としては是非、サクラとの結婚を奨めたい」

「しかし、先程も申し上げましたが、求婚者の方々はどうなさったのですか?」

「ああ、3国の王は宛にならん。自我や欲求に溺れている。これではサクラの将来が駄目になる。だが……おまえなら安心してこの国を継いでいけると確信している。どうだウォーク。サクラと結婚してくれないか?」


 国王がここまで言ってくれるなんて驚きだ。それほど評価が高い。そういう意味にも繋がる。

 念願ともいえる王女との結婚。ずっと思い続けてきた人と結ばれる、最高の至福。

 僕は明るい表情で願いを込めたような声で応える。


「これ以上なき国王のお褒めの言葉に感謝します。しかし、私はまだ王女とは結婚できません」

 国王は僕の意外な発言に少しばかりか意を突かれたようだ。


「何故だ」

「まだ、王女の想いを訊いておりません。王女が私と結婚しても構わない、といえば私は快く、有難く結婚を受け入れます。ですので、申し訳ありませんが私は今、この言葉に答えることはできません」


 僕は深々と頭を下げる。だが国王は怒りも憐れみも何の感情をみせず、ただ苦笑と言ってもいい笑い声がこの部屋に低く響く。


「ははは、そうだな。まずはサクラの想いを訊かねばな。では、もう良い。下がれ」

「はい。失礼します」

 僕は国王の言葉に応え、王室を後にした。



「よっっっっしゃぁああああああああああ!!!」

 と心の中で叫ぶ。

 内心、僕は感激、感動、感服に浸っている。

 嬉しい、嬉しすぎる。

 僕が、あのサクラ王女と結婚できるなんて、これ以上ないくらいの幸福だ。

 神様仏様王様、真に感謝します。

 もう一度、「よっしゃああああああ」と叫んだ。


「……」

 だが、王女はどう思うのか。

 このことを快く僕との婚姻を引き受けれてくれるのか。


 王女が好きであるリオラと引き剥がしたのは紛れでもない、僕だ。

 何故、僕は二人の空間を壊したのか。リオラは決して王女に危害を加えない。そのまま、ふたりきりの至福の時を味わってもらえればよかったのに、なぜ僕はそれを、彼女の恋を打ち砕くんだ。

「なんて馬鹿なんだ、僕は……」

 国王に言った理由。そんな偶然、あるわけないじゃないか。ただ仲良くなっていた災龍リオラの気持ちを知っていた。それだけだ。あいつのことだからきっとサクラ王女の所へ行くのではないかと思っただけだ。


 そう知っておきながら、何で僕はリオラを、王女を裏切ったのか。

 そんなこと、わかっている。王女とリオラが結ばれてほしくないからだ。そうなってしまったら、僕はもう二度と王女と結ばれない。そんな自己中心的な僕の恋。ただの我儘。


 好きな人と結ばれたいから他に対する彼女の恋路を防ぎ、壊す。

 ずっと、思っていた。王女がリオラと話す度、嫉妬が膨らみ上がっていた。


 なんでそんなに笑顔なの? なんでそんなに楽しそうなの?


 このままずっと、こんな時間が続き、ふたりは幸せになっていくの? そして僕は片想いのまま萎み、枯れて、終わっていくの?


 そんなのは嫌だ! どこぞの知らん野生人に気高い高嶺の華を獲られたくはない……!

 だから奪った! 結びかけた糸を引き千切り! 壊した! これで華は僕のモノになる! それでハッピーエンド! 僕の思い通り! 計画通り! 計略通り! 彼女は僕と結ばれる!


「あはははははははっははははっはははははははっははははっははははははははっははは」


 心の中で狂うように笑う、嗤う、哂う。

 これで彼女は僕のモノだ!


 ……でも。

 彼女の想いを考えてみると、僕のしたことが如何に愚かで、極悪で、卑怯なのか。そう頭を掠める。

 考え直してみれば彼女が幸せであればそれでいいじゃないか!

 自分の都合だけ考えて結局は彼女の事を何も考えちゃいない。


 実に最低な男じゃないか僕は!


 何が優秀。何が親切。そんな他人の評価なんて宛てにならない。

 僕は自分の為だけしか考えていない劣悪な人間だ!

 人の為に、彼女の為に何かをしてやるんじゃなかったのかよ。

 彼女が幸せであるためなら僕はなんだってする。そう決めたじゃないか、彼女に恋をしたときから。

 だから、彼女がリオラに裏切られて泣き崩れていたとき、僕はあの紙切れを置いていったんじゃないか!


 結局、僕は何がしたいんだ……!

 結ばせたいのか、結ばれたいのか。

 だけど、結果として僕は。


「ふたりを……裏切った」


     *


《エンレイ》

 王室の間。ここにいるのは私ただ一人。今さっきウォークが退室し、その遠ざかる足音を耳にしながら、きつく目を閉じて、小さく呟いた。


「キク……もうすぐでお前の仇がとれるぞ……」

 その名を呼べば姿が脳裏に蘇る、比類しようがない美しい女性ひとだった。王室や寝室に掛けられた肖像画。そこで微笑むのは今は亡き王妃の姿。私を愛し、この国を愛し、そしてこの自然の世界を愛した佳人。己の命よりも助かる命を救う、そんな心優しき、勇敢な人物だった。彼女が居たから、この国は笑顔で栄えていた。


 だが、妻の命を、この国の笑顔を災龍は奪った。

 それは決して許すまじきことなり。

 故、我は復讐を決意する。

 災龍は捕まり、準備は整った。

 明日、遂に念願の――懇願の復讐が果たせる。

 仇がとれる。

 憎いあのバケモノを殺せる。

 嗚呼、この11年間、憎悪が膨れに膨れ、気が狂いそうだった。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 この手で捻り潰し、跡形もなくしたくなるほど奴が憎い!

 私の妻を、王妃を、国の希望を殺し! 奪った!

 挙句の果てに神までも殺した! 我が国の唯一神アマツメを殺した!

 だが、そんな重罪を明日! 断罪できる!

 あいつは国の為に死ぬ! 名誉なことだな!

 11年、私を苦しめた憎悪から今解放される!


 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ


「ザマァミロ、バケモノガ」

 これで、すべて終わる。


     *


《サクラ》

 王女室はリオラ捕獲のために重火器を使用したため、黒炭と化していた。

 その為、今しばらく別室で過ごすこととなった。

 この部屋はむかし、おかあさんが愛用していた書斎。おかあさんが仮眠用に使っていた物だろうか、なぜかベッドがあった。

 私はそのベッドに寝っころがり、頬から何かを伝わせていた。


「ウォーク……なんで……」


 なんで、あそこにウォークがいたの? レインもいたの?

 レインはまだリオラについて何も知っちゃいない。まだ話せばわかってくれたはず。

 だけどウォークは……ウォークはリオラの事知っているんだよ!? 仲良くなっていたんだよ!? なのに、なんで……!?


「裏切ったの……?」


 国王の命令だからとかの理由で言われても、ウォークは敢えてそんなことしない人だと思っていた。忠実そうで、場合によって逆の立ち位置に変わる、予測つかずの性格も私は知っているはずだった。

 じゃあ、今回も逆の立ち位置に変わったってこと? よりによってこんな時に?


「ふざけないでよ!」


 私は叫ぶ。当然、返事はこない。

 ウォークの真意が知りたい。あの人は何をしたいの?

 絶頂からどん底へ。上げては下げる。そんな曖昧でどっちつかず。

 彼は私やリオラの敵なのか味方なのか。

 憎いけど憎めない。

 だって、ウォークも好きだから。リオラも大好きだけど、ウォークも好きと思えるぐらい、大切な人――だったのに。


 リオラはどうしているの? あんなにひどい怪我を負ったからたぶん……ううん、そんなことは絶対ない。リオラは何があっても死なない。あの王龍を倒したんだもん、絶対生きている。でも、今はどこに?


「はぁ……」

 私は途方に暮れた。ため息ひとつついて。


 そのとき、コンコン、とドアからノックが聞こえた。入ってきたのはひとりの国軍兵だった。


「国王様からの伝言です」

「お父さんから……?」

 国兵は淡々と告げる。


「明日の逢魔が時、メルス広場にて災龍の公開処刑が行うとのことです。あと――」


「ぇ」

 一瞬何か恐ろしいことが耳に入ったような。

 あれ、おかしいな。私、耳が悪くなったのかな?

 それとも、この人が言い間違えたの? うん、そうだよね、絶対言い間違いか聞き間違いだもんね。

 そんな、まさか……ねぇ。

 そんなはずないもの。うん、もう一度ゆっくりと記憶を辿って、確認しよう。絶対そんなことないものうん絶対ない、ないないないないない、有り得ない、そんな、そんな……。

 さいりゅうをしょけいするなんてぜったいいってるはずないもの。


 ねぇ、嘘だよね、夢だよね、冗談だよね、ねぇお願いだよ嘘って言って夢なら覚めて冗談なら笑ってこんな事実否定したい否定して否定させて肯定なんてしたくない頭から拒絶してそんな言葉を事実を拒否して削除して消去して取り消してそんな報告受け止めたくないから逃げたいから聞きたくないから明日がきてほしくないから別れたくないから離れたくないからずっとそばにいたいからこんなにもすきなのにすきなのにすきなのにかれのことをこんなにもこんなにもこんなにも――。

「いやああああああああああああああああああああああああああああ」


     *


《リオラ》

 ごめんなさい。


『どうしてこんな、将来性の無い子が生まれたんだろうね』

『こんなんでは、後継ぎなどできないだろう。何もできないどころか、迷惑をかけてばかりだ』

『いいか、おまえは弱い。誰よりも何よりも一番力の無い、蠅すら殺せぬ弱肉だ。生まれつきの、負け犬なんだよ』

『心も体も弱い奴に自由はない。いつまでも親の懐で甘えられると思うな。ま、すぐに亡くなるだろうから、別に構わんがな』

『なぁ……どうしておまえが生まれてきたんだ。どうしてそんなにのうのうと生きていられるんだ』


 ごめんなさい、生まれてきて。


『こんなんじゃ駄目だ……頼らずに、一人で生きていけるぐらいの強さがなければ、何もできない』

『腹減った……さびしい……母さん……げぼっ、ごぼっ! 畜生……畜生……!』

『……痛い……痛ぇよ畜生……! こんなとこで死にたくねぇよ……! いやだ、死にたくない……もういやだよ……!』

『おなかすいた……あぁぁ……生きないと……いきないと……食べ物、たべたい……ぅごふっ、げほっ……つよく……つよくならないと……いきていけない……』


 ごめんなさい、好きになって。


『なんだこれ……! どうなってんだおい……! 頼む、治まってくれ……頼むから……!』

『違う、オレは何も……なにもやってないんだ! ただ、話しかけようとしただけなんだよ……!』

『なんで、どうして……どうしてわかってくれないんだ! クソ……クソ……っ!』

『……オレは本当に、生きていていいのか……。命奪って、貪るだけしかできないのか……』


 あなたのこと、知りたいけど。


『良いか、いくらおまえの親父とのよしみであれ、おまえと盃を交わしたとはいえ、情けをかけるつもりは毛頭ない。それは己自身で何とかせんかい。現にあのときよりだいぶ強うなっとるのは事実じゃ。言うてしまえば、あのとき失っとうたはずの命を――死という運命を打ち破った』

『……つよく、なった……? これが……こんなのが、オレが求めていたものだったのか……?』

『じゃがのぅ、ただ宛もなく放浪とするのもつまらんけぇ、儂からひとつ、己に頼み事を申す』

『頼み……?』

『これを機に己と向き合い、道を見つけるんじゃ。今まで生きてきたお前なら越えられるけぇ、あとは自分を信じちょれ』


 そんな自分が、きらいなんだ。


『……ここが、あの社か。……静かだ』

『近くに国があるのか……いや、駄目だ。オレは人とはもう……関われない』


 ごめんなさい、壁をつくって。


『こんにちは! 災龍さん!』

『へぇ~いい名前だね! じゃあよろしくねっ、リオラ!』

『――私と"ともだち"になりませんか?』


 ごめんなさい、臆病で。


『だめだめ、そんな無愛想だったら他のみんなと仲良くなれないよ! ほら、笑顔笑顔!』

『大丈夫だって! ほら、私がいるじゃない! それに、私以外にもぜーったい、リオラと仲良くなりたい人が現れるから。もう、ほら元気出してっ、ね?』

『よくみたら、リオラってかっこいいよね。なんだろうな、上手く言えないけど、素敵だなって思うの。あっはは、ウソウソ、じょーだん! お、リオラ君、顔真っ赤だよ? ――ってちょっと顔燃えてる燃えてる! 照れながら怒らないでごめんって!』


 あなたのこと、好きだけれど。


『あ、だいぶできるようになったね! すごいすごい! そうだ、リオラはさ、その体質が治ったら何がしたい? 私たちと同じようになれたら、まず何をする?』

『みんな誰かに憧れるもんなんだよ? 私もね、リオラみたいにたくさんの世界を見ていきたいなって思うもん。人それぞれ、いろんなつらいこともあるけど、その人にしかもってない、綺麗な景色を見てきているの』

『でも、少なくても私はリオラのこと必要、というか……ずっといてほしいって思ってるよ。えへへ、ちょっと恥ずかしいこと言っちゃった』


 この心の扉は、開けない。


「……サクラ……」


 いつものように小っちゃい喧嘩をしたり、だけどその何倍も仲良くしたり、照れたり、笑ったりしたっけ。

 夢を語り合ったりして、時を過ごすこともあったっけ。


「……会いてぇ……」


 いつか、こんな日々が崩れてしまって終わってしまったら、寂しくなるかな。

 また、独りになっちゃうのかな。


「会いてぇよ……」


 いつのまにか、カラダが離れ、それでも繋がっているココロも離れていって。繋ぎとめたいのに、離れたくないのに、離されてしまって。


「サクラ……」


 例えそれが間違いであっても。許されることじゃなくても。

 それでもいいから、あなたとこのままずっと、いっしょにいれたらいいのに。


 いつも見てきた彼女の笑顔。

 それが、生きる糧だった。


「……――」


 生きれば呪い、死ねば祝い。


 それが、僕の運命。

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