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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第四章 二節 憎悪の災いの先
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3.不条理の判決

 災龍を捕獲して数日が経つ。アミューダ地方の主要人物らがサルト国の鏡の間に召集され、災龍の後処理についての会合が行われた。


 大きな円卓に座るのはサルト国の王エンレイをはじめ、シーラス、エアリオン、ランドスの各国国王に、サルト国の国王側近の大臣プリウス。

 王全員が威厳よく座る中、エンレイが話し出す。


「皆の者よ。災龍の捕獲、ご苦労であった。真に感謝している」

 3人の王は清々しい顔でエンレイに会釈をする。


「では、災龍のことについてだが、その前にサクラの婚姻だ。君ら3人、それが目的で災龍を討伐したのだろう。討伐には至らず捕獲で終わってしまったが、それでも収穫は大きい。上出来だ。……で、その捕獲した兵はどこの国に所属している?」

 そう聞かれたプリウスが淡々と答えた。


「サルト国です」


 全員が固まる。3国の国王は目の色を変え、驚愕の意を表した。だが、その結果に当然かのようにエンレイはなにひとつ表情を表さなかった。

「……ほぉ、我が国軍が災龍を仕留めたのか?」

 プリウスが報告を続ける。


「兵器と装備と武器はすべてプラトネル仕様のもので、全山脈を制圧し、災龍の逃亡を止めたのはグリス国軍兵、災龍をサルト国まで追い詰めたのはプラトネル国とアーク国軍兵です。サルト国軍は国の防衛でずっと国内で警戒態勢をとっていました」


 閑静な円卓と化していたが、3人の国王は先程の表情とは大きく変わり、不満そうな顔をしていた。


「災龍を捕獲した時にいた者は10人。その内の五人は一番部隊の一部の一般兵でして、残りの5人の内3人は一番部隊一般兵と共に武器を使い攻撃と捕獲を成し、ひとりは王女の救出。そしてもう一人は災龍の居場所を見つけ出し、その9人に伝え、迅速に案内しました」


 シーラス等は奥歯を噛み締めている。今にも何か言いたげな顔をしていた。


「その一般兵以外の5人の名は?」

 一般兵には興味を示さなかった国王は淡々と訊く。


「一般兵を除き、災龍を捕獲した3人は四英雄の『神撃』ライタリス・ジェックス殿、国軍第2階級大佐ケプト・シェルマート、国軍第3階級兵レイン・ハミルス・サノライドです。サクラ王女を救出した者は四英雄の『剣聖』サハド・ウィズマン殿、そして彼等を災龍の居場所へ案内した者は、王女専属の召使ウォーク・ショナーです」


 エンレイが強張った表情をほんの少し緩めた。


「今回もウォークか……あいつは本当に役に立つ人財だ。一体どうやってそんな情報を入手しているのかわからんが、重要な役割を果たしたことには変わりない。サノライドの息子もあれから随分と成長したな」

「しかし国王様、どうなさいますか?」

 プリウスが困惑する。査定基準があてにならない以上、改訂するか、なかったことにするかのどちらかだった。

 しかし、国王は。


「そんなの決まっている。その5人の中から選ぶ」


 バン! と円卓の机を叩く音が鏡の間に響く。

「待ってくださいエンレイ国王! 求婚者は私ら3人です! なぜ求婚してない人間を、それもサルト国の下級身分者が選ばれるのです!」


 怒鳴るシーラスに対し、エンレイは残酷なほどまでに表情を変えなかった。重く、低い声で小さく、しかし響かせる。


「何を申すか、アーク国の王よ。あのとき言ったはずだ。『災龍を討伐した者と結婚させる』とな」

「……ですが……それは私ら3国の中での話であって……!」


 席から立ち上がっているシーラスは歯を噛み締め卓上の拳を握る。


「まぁ結局複数に至り、それも我が国の者が捕獲したのだから一番功績を残した者と結婚させようかと思う」


 エアリオンが丁寧に挙手し、座ったまま話す。

「納得がいきませんが……仮にその考えから導いていけば、その捕獲をした3人の中の誰かが結婚できると?」

「いや、召使のウォークだ」

 即答。いかにも、当たり前かのように言い放った。

 それにランドスもとうとう痺れを切らし、席から立ち、大声を立てる。


「エンレイ国王! 納得できません!」

 エンレイはゆっくりと冷たい目線でランドスを睨む。

 ランドスはその目に怖気づき、背筋に悪寒が走るが、それでも意見を言い続ける。


「討伐した者を王女と結婚させるという条件の末、討伐した者はサルト国の兵でしたが、アークの王の仰る通り、3国の間での話です! サルト国の兵は対象外でしょう! そして、なぜ災龍を捕獲すらしていない、案内しただけのその召使が結婚すると決まるのです! 国兵もそうですが、身分が違うでしょう! 何故私たちを除くのですか!」

「……そうか……」


 エンレイは息をひとつ吐き、ランドスの心の奥底でも睨みつけるかのようにその眼を合わせる。

 そして、口を開く。


「他に言いたいことはあるか、小僧」

「――っ!」


 ズン、と空気が重くなる。エンレイの声はその場の沸騰しかけた空気を氷点下にまで圧する。


「身分がどうとかではない。さっきも言っただろう。一番貢献した者、功績を残した者を結婚させると」


 歯を噛み締め、ランドスが言い返す。

「だからなぜそれがあの召使なのです! 無茶苦茶すぎます!」


「彼はこれまでに様々な実績を残している。我が国の四英雄ほどにな。その上我々の知らない情報を彼は知っている。黒龍群襲撃の報告も、『神殺し』の犯人を暴いたのも、サルト国を襲い、『黒蟻』こと『ハル・ダ・ラミノーム』から誘拐されたサクラを救出し、その犯罪組織を滅ぼしたのも、貴様らの軍に災龍の情報を提供したのも、誰も知る由もない災龍の居場所を知らせ、案内したのもすべて彼だ」


「確かに、あの情報のおかげで災龍を追い詰めることはできましたが……!」

「それにあいつは最年少の元S級ハンターで、召使としての仕事も優秀、人間性も優れている。しかし威張ることも自慢することもなく、素直で謙虚だ。……結婚したいがために災龍を狩るような、過信と欲まみれの貴様らよりはな」

「くっ……だが! それでも流石に」

「『流石に』、なんだ……?」


 ドグン、と心臓が恐怖で驚くかのように鳴り、血の気が引く。この男はどこまで冷酷なんだ。そう3人は思った。


「そもそも考えてもみろ、他国の王がこの国の王女と結婚でもすればこの国の王はその国の王が即位することになる。そして、この国はその国に吸収されてしまう。合併ではない。その国の領土として扱われるだけだ。私にとってそんな不平等条約、了承するわけがなかろう」

 それは口実の一つに過ぎない。見え見えの言い訳に、さすがの3人も、側近のプリウス大臣も察した。

「……最初から王女と結婚させる気はなかったということですか」

「無論、その通りだ」

 案の定。こんな簡単なことにさえ気がつかず、騙されたのかと、シーラスは悔やみ、責めた。


「じゃあ私たちは何のために! ……っ、そういうことか」

 シーラスは苦虫を噛み潰したかのような表情を示す。

「災龍を討伐するために私たちは利用されたってことか」


 灰髪の王は何も語らず、肯定も、否定もしなかった。


 話を切り出す王に3人の若き王は最早言い返す言葉も見つからない。否、口に出す気がなくなったのだ。

 ただ、怒りが募るばかり。


「では、判決を下そう。サルト国王女『サクラ・ホルネス・サルト』と婚約するのは王女直属召使『ウォーク・ショナー』だ。あとは彼の意思次第で結婚が決まるか否か。まぁ、彼からの結婚拒否の答えが出ればいいだろうな、貴様らの考えからしたら」


「……」

「くそっ……なんなんだよ」

「無茶苦茶だ、この男は……!」


 3人揃って悔し紛れの声を呟く。だがその声はエンレイの耳には聞き留まらなかったようだ。


「さて、本題に戻ろう。災龍についての処遇だが……」

 そのとき最初に言ったのはシーラスだった。腕を組んだまま、エンレイの目を見ずに、口を開く。


「それについてはもう話し合う必要はない。……ですよね、エンレイ狂王こくおう

 エンレイはその言葉を待っていたかのように頷いた。全員に異論はなかった。否、そんなことはどうでもよかったのだ。

 目の前の理不尽、もはや言葉さえ通じないような狂人に憎しみを抱くことしかできなかったのだ。


「……では」

 そんな彼らの気を知ってか否か、エンレイは一呼吸置いて、そして宣言した。

「明日の逢魔が時、メリス広場で行う。――公開処刑だ」


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