11.伝説の終止符
《サクラ》
「……」
目が覚める。体がだるい。目が痛い。
私はうっかり昼寝をしていたようだ。
寝起きで虚ろになった目をこすると、透明な液体が手の甲にこびりつく。
泣いてたんだ、私。
そういえば、なんだか悲しい夢を見たな。それかな、きっと。
その夢は、懐かしい感じがした。もうずいぶん昔のような、何年も前であったような出来事。
だけど……もう、終わったんだ。
鼻をすすり、私は這いずるようにベッドから起き上がってはふらふらと机に向かった。
「……?」
なんだろう、これ。
殴り書きされたくしゃくしゃの紙がいくつも散らばっている中、机の上の隅に小さな紙切れがあった。いつからここに置いてあったんだろう。今まで気づかなかったのが不思議なくらいだ。
何か書かれている。
「……ウォークの字だ……」
その紙切れには男が書いたとは到底思えないようなきれいな字で小さく書いてあった。ただのメモだろうか。
乾いた目を擦り、読む。
――『以前私が申し上げた"本当の友"というのをお忘れですか? 心を落ち着かせたときに一度、思い返してみてください』
そのとき、つーっと頬に何かが流れる。
何も感情を表していない。考えてもいない。
なのに、目から何か濡れたものが流れ出る。
自然に溢れ出てくるソレは拭っても止まらない。
そして、ひとつの言の葉が口から出できた。
「わたしは……ばかだ……っ」
その紙切れを握り、急いでバルコニーへ出る。すると、ここから見えるサルタリス山脈の奥から小さく、うっすらと湧いているかのように黒煙が立ち上っていた。
ドォン……と遠雷のような轟音が霊峰から響いてくる。
「まさか……」
今日が……?
茫然とし、その煙る山を見つめることしかできなかった。
寒気立った曇り空。
雨が降り始める。
*
《リオラ》
緑が芽吹き始めた森の中だというのに、轟音とともに爆発の大合唱が奏でられた。緑は赤に染まり、やがて黒へと還る。
降り始めた雨の中、同じく雨のように飛んでくる無数の砲弾を避け、サルタリス山脈を無我夢中で下山する。
走ったり、木に飛び移ったりする速度を上げても、すぐさま追いついてくる。
なんだあのデカい機械は。
なんだあの機械を装った人間は。
『――』
電波を通じて何かを伝達し合っている。ここまで技術は優れていたのか。だが、電波が肉眼で見えても、音声として何を言っているのかも、オレにとってはどうでもいい。雑音だ。
またも電波の雑音が左後ろの鉄のデカい車越しから聞こえた。木々を踏み倒し、棲み処ごと動物たちを轢き殺していく。空からの爆撃も同様だ。鳥や獣、竜が逃げていくも、お構いなしに火薬臭い鉄の塊を飛ばしてくる。
「……っ!」
その瞬間、顔をぶつける。急いで前を確認しても何もない。何にぶつかった。
見えない何かを凝視し、薄い電磁波の膜が視認できたとき、後方から避けきれないくらいの鉄の筒がオレの背中に激突し、大爆発を遂げた。目の前に繰り広げられた爆炎の赤がどこまでも邪悪に感じる。
「ぶがぎ……ごぱぁっ……! 畜生が、こんな程度で」
血反吐が盛大に出てきて前のめりになっても尚、脚を踏み込み、体勢を崩さずに振り返る。背が、痛いとは表現しきれないぐらいに痛い。背中から何か温かいものが脚をダラダラと伝ってくる。それに、体中があまりうまく動かず、神経が直接傷つけられた感覚だ。
「――うぐぅっ! なんだ、こりゃ……?」
今までにない嫌悪感を含む痛覚。しかし、過去に体感したことがあると確信した。
龍の殆どが弱点とする龍属性。"竜煙性電解質"を加工した化学物質。オレも龍の端くれ、というより龍そのものに近いからか、この属性には少しばかりか弱い。だが、それが効くのはある程度の条件が揃っていたらの話だ。
高く空を跳び上がる。爆炎を抜けたその先には大量の浮遊した機械と、それに装填されていた幾つものの砲。筋繊維がぶぢりと千切れながらも空を蹴り、空中を移動しようとしたとき、集中砲火に巻き込まれた。
行動を読まれている。こちらがもうやけくそになっていることも承知している。
数え切れないほどの同時の爆撃によって爆炎に包まれながら崖に落ちる。
樹を抉り、ぬかるんだ土に塗れ、湿った崖岩に落ちては身を叩きつけられる。
悪運が強いのか、山の麓に着陸したオレは、巻き上がった砂煙を薙ぎ払い、前へ進もうとした。雨に交じり、草の臭いが強い。
だが、それ以上に大量の鉄と火薬の匂いが鼻に刺激される。
「どんだけいんだよ……」
目の前に飛び込む、命を吹き込まれた鉄の群れ。自然の世界に有るまじき文明の利器。この世界の人類も随分と歪んだ道を行き、同じような技術を作り上げる。
将来あいつと親しく関わるであろう他国の王の軍隊。下手に命を奪ったらいけないと思っているが、そんなことを考えるほど、今のオレに余裕はない。それでも、やけになって命を奪ってしまっては、あいつに合わせる顔がない。
王龍がなんだとか、向こうの技術がなんだとか関係ない。手を出すこと自体が問題なんだ。
電波を通した無機質な声。全機の砲門がこちらに向けられる。後ろは崖の山、前は鉄のバケモノ。上空も同じく。もう、逃げられない。
「……悪いな」
やむを得ない。
ここで一発、強行突破するか。
殺さない程度に、しかし行動不能にさせる程度に。
砲門すべてから迫撃砲の弾が放たれた。だが、恐らくその砲弾は対黒龍用のものだろう。いやそれ以上か。とにかく、この壊れかけた体で喰らったらひとたまりもない。
オレはその目を覆うほどまで迫ってきた砲弾を受け止める。
黒い煙が温泉の湯気のようにモワモワと空へ沸き立つ。砲弾は全て直撃した。
『――!?』
目の前の無事だった軍兵は驚愕したかのように息が荒くなっていた。心臓の音がここからでも憎いほどに聞こえる。
『なにが起きたんだ……!』
飛行用兵器に乗っていた一人の軍兵が呟いたのを聞き取る。
単純な話、砲弾を一瞬ですべて殴って撃ち返しただけ。直撃したかのように見せかけた黒い煙は、殴った衝撃で表面の鉄が粉砕されて舞い上がったものであり、中身の火薬の塊はその衝撃で爆破するも、爆発自体を撃ち返したにすぎない。時にして光のように一瞬。撃った相手に増し増しで返しただけ。
数十年前の時も、社壊されないためにこうやって打ち返したんだっけか。
「……痛っ」
やはり手の骨がミシリ、と軋む。構わず身体に鞭を打ち、オレは大破された幾つもの兵器の中を駆け抜け、山から離れる。しかし、それでも全身鎧の軍兵や鉄の軍は火を噴きながらオレを追いかけてくる。
木々を抜け、平原らしきところを走る。脳内が混乱し、感情バランスが保たれてない為か、通りかかった新緑の芝生は近づくだけで枯れ、触れるなり炭化する。傍にいた鹿や鳥などの小動物もガスを吸ったかのようにパタリ、と泡を吹きながら倒れていく。濡れるはずの身体も、蒸発して湯気が立つばかり。
「ハァ……ッ、ハァッ……! うぐ……!」
それでも、蒸発しきれずに身体は濡れる。真っ赤な髪も濡れていき、感じなかったはずの寒さを感じる。顔に浴び続ける雨。素っ気ない味だったはずなのに、ほんの少しだけ海と同じ味を感じる。どうしてだろうか、どうしてこんなに顔がびしょ濡れになっているんだ。
顔を拭う。見れば雨と血が混じっていた。蒸発し、赤がこびりつく。その様に心を濡らしていく。
背後から弾丸の雨が襲いかかる。平凡な緑地は次第に死の荒れ地へと変貌する。
小さい弾丸に被弾するだけでも体のバランスが崩れかかる。まるでただの竜並みのひ弱さだ。撃たれただけで死ぬ人間までには弱くなっていないが、激痛が容赦なく脳に伝えてくる。
弾全てに麻痺毒や神経毒のような効能をもつ物質が入っていると今更気づく。手間暇かけてるなと、オレは身震える心の中で苦笑した。
「ぁぐっ!」
砲弾に右腕が直撃する。一瞬腕が吹っ飛ばされた感覚に陥る。体のバランスが傾き、衝撃で浮いては左半身から地面に叩き付けられる。草が千切れ、土と雨と草の臭いがこびりつく。ぐしゃりと聞こえた音は倒れる音か自身の骨や内臓が潰れた音なのかはわからない。
幸い腕はもげていなかったが、皮膚の表面がドロドロに焼き爛れていた。激痛が走るが、それでも怯んだのは一瞬。数発身体に弾が穿つも、無我夢中で走り続ける。眩暈がしようとも、平衡感覚が無くなろうとも、ひたすら前へ、より速く平原を駆けた。
もう走りつかれた。もう痛い。苦しい。喉が焼ける。肺が裂ける。口から血が溢れ出る。足が千切れそうだ。それでも、全力で走らなければならない。
背中を撃たれる。転びかけるが、足を前に出して、無様に走り続ける。
足を撃たれた。草原を転がる。勢いに流されるまま、どこまでも転がり続ける。濡れた土と草、血と肉でぐしゃぐしゃになった身体。地に手をつき、すぐに立ち上がっては足を前へ前へと運び続けた。
「やっと……ハァ……見えてきた」
血に塗れた目に映ったのは、20メートルはあると思われる茶色い城壁だった。雨で色は濃く映る。城門はどこにも見当たらない。
まだ倒れるわけにはいかない。まだ成し遂げていない。
高い城壁に跳び移り、這いずるように壁を登る。指を城壁に食い込ませ、腕から垂れる血が雨と共に身体を伝う。
背後にいた軍兵器も流石に手は出さなかった。婚約者の国に攻撃するに等しいから、迂闊に手を出せないはずだ。ただ、何もしていないというわけではなさそうだ。
城壁を登りきった瞬間、
「ひっ! ちっ血まみれのバケモノ……っ」
数メートル横にいた監視係の国軍兵が、脚を震わしながら銃を構えてきた。その兵から漏れる声も恐怖でかなり震えていたが、手に抱えられていた銃の定めは一寸もずれることはなかった。
まずい……!
急いで国内の屋根に飛び移ろうとするが、彼の撃った弾にアキレス腱が掠れ、空中のバランスを崩した。それでも体勢を無理矢理整えようとした。
が、その為体重の圧力まで完全に抑えることができず、着地した一軒家の屋根が凹み、崩れた。
――ガシャアン! と荒々しい物音。何かを割った音が甲高く響く。誰かの悲鳴も近くで聞こえた気がした。屋根代わりの布や網に絡まってしまった。身体に触れた布は焦げ始め、煙を上げる。
「きゃあああっ!」
「なんだ!?」
「誰か落ちたぞ!」
「お、おいっ、燃えてるぞ!」
「――っ、竜だ! 血だらけの竜が――」
「違う! にんげ……なんだこいつは!」
「バケモノ! バケモノが!」
構ってられない。耳を貸すな。
「ぅあふ……げほっ、ごほっ」
「なに、この臭い……うぉえっ」
「眩暈が……うぅ、吐きそうだ」
「大丈夫!?しっかりして!」
「まさか毒ガスか……?」
じっとしてられない。振り返るな。
「おい! 逃げるぞ!」
「速すぎる! やっぱり人間じゃねぇぞあれ!」
「まずいっ、国軍に連絡しろ! 今すぐ!」
放っておけ。ただの戯言だ。受け入れるな。
ヒトの目、目、目。そのどれもが、脅えている。いや、脅えているだけならいい。拒絶して、今すぐ死んでほしいと願っている目。
慣れたはずなのに。もう平気だったはずだろう。
そういうところだけ、人間らしくなってどうするんだ。
「……っ、くそぅ……!」
焦げていく布を被り、街を駆ける。足がもつれ、ぐしゃっと転ぶ。目の前の水たまりが自分の顔を残酷なまでに映す。雨の波紋でぼやけても、ただの人間の顔ではないことは明解だった。
歯を噛み締め、右手で水溜りをばしゃり、とぐしゃぐしゃにした。瞬く間に蒸発した水溜りのあった場所を踏み込み、再び走り始める。
街角にぶつかっては簡単に建造物が欠ける。それでも人にだけはぶつからないように雨降る街を駆ける。人々の声は、もう聞こえない。
あいつしか、もう映っていない。
会いたい。
会いたい。
会いたい……!
勢いあった雨も小雨になる。水溜りを踏んでは蒸発させる。この心臓の苦しさは息切れによるものだと思い込んで、町の屋根へ飛び移った。
*
《サクラ》
「リオラを助けないと――っ」
何の支度もせず、直行して隠し通路の入り口である絵画に手をかけたとき、時間が止まったかのように行動を停止する。
――私がそこに行ったところでどうなるの?
ただの邪魔者になるだけじゃ……。
そんな思考が遮る。そして迷いが生じる。
「……どうすれば」
しばらく考え込む。それはどれだけ経ったか。案外数秒かもしれない。でももしかしたら十数分かもしれない。それだけ考え込んだ。
その思考回路を巡らせた結果、
「考えたって何にもならないよ」
そう自分に言いかけて、絵画の額縁に手をかけドアのように開けたとき、何かの違和感、いや、握り潰されそうとも体現できる威圧感がこの王女室を包み込んだ。
「――っ!?」
それはかつて味わったことのある懐かしい空気。最初は恐れていたこの重み。かつては愛おしかったほどの温もり。
私は隠し通路の額縁のドアをそのままにし、バルコニーへ駈ける。
「……リオ、ラ……?」
信じがたい光景だった。名前は言ったが、自信は無かった。
私は問いかける。しかし、返事はない。
「リオラ、だよね……?」
雨が上がる。雲から差し込む光は神々しく、そしてやさしかった。
それを背に、バルコニーの出入り口の開けっ放しだった窓に佇んでいたのは、真っ赤な服を着たかのような、全身にかけて血まみれの異形を成した人間だった。
人間と龍が混じったような、異形。それは人と呼ぶべきではないのかもしれない。だけど、見覚えのある顔は鱗と羽毛に半ば侵蝕されていれど、ちゃんと誰かは認識できた。
両腕が焼けただれていて、血管と骨が露出し、使い物にならないような腕と同じ状態である脚はガクガクと必死でその体重を支えていた。体中銃弾による穴が数え切れないくらいあり、そこから鮮血がトクトクと湧き出ていた。
しかし、彼の赤黒い髪越しに見える煉獄の眼は、生を失いかけた躰とは違い、燃え盛る業火のように生き生きと煌いていた。
それは、最期になにかを果たす使命を託された英雄の瞳。そう感じた。
「サクラ……!」
死に掛けた躰とは裏腹に、声もはっきりとしていた。だが、精一杯に絞り出している声だと気付く。
「リオラっ! だ、大丈夫なの……?」
するとリオラはニッと血で染まった歯を見せて陽気に笑った。
「はは、は……っ、こんなの屁でもねぇよ。大丈夫大じょ――」
「ほんとのことを言って!」
急に大声を上げた私に対し、いたずらに笑っていたリオラは黙り込む。
目から涙がこみ上げてくる。出せるはずの声もどうしてか掠れてしまっていた。
「もうやめてよ……そんな強がりは……」
声が強く出ず、情けないぐらいに震えてしまっている。
リオラは一瞬だけ驚いた表情を見せた。そして再び申し訳なさそうな顔をして少しだけ俯く。
ゆっくりとその重い口を開く。その声は今までよりも優しく耳に透き通る。
「……ごめんな」
「……」
「あのときも、ひどいこと言って……」
嗚呼……あれは嘘だったんだね。
よかった……。
私は涙を流しながら微笑んだ。
「うん、大丈夫だよ……嘘って言ってくれて……よかった」
「……」
とても悲しそうな顔だった。こっちまで泣きたくなりそうなほどの……。
「でも……そんなウソをつくぐらいなら、ほんとのこと言った方がまだいいよ……」
「うん……ごめん、悪かった」
でも、とリオラは続ける。
「サクラに心配かけたくなかったから……」
「本当は……リオラはどうしたいの……?」
知りたい。
全部わかりたい。
その想いを……本心を伝えてほしい。
だって、好きだから。
苦しくて息ができなくなるほど、好きになってしまったんだから。
「……っ」
リオラは歯を食いしばり、涙が出そうになるのを堪える。絞り出すかのように声を震わした。
「オレは……! ほんとは、サクラとずっと居たかった! でも、そんなんじゃ……おまえ……っ、幸せになれねぇだろっ! だから……だからオレは――っ」
私はリオラの血で染まったボロボロの服の袖を掴み、部屋へ入れる。引っ張った勢いで逞しい体と私の小さな体がくっつきそうになる。
リオラはがくっと膝が崩れかけ、丁度私と同じぐらいの身長の高さまで下がり、バランスを保つべく、壁に寄りかかる。彼の手に触れた壁が熱で黒く焦げていった。その痛いほどまでの熱さも、息が詰まり鼻の曲がるような臭いも、すべてが懐かしい。
私の瞳と彼の真っ赤に燃える瞳が合わせ鏡のように映り合い、見つめ合っている。あとわずかで互いの唇が重なりそうになる。響くほど聞こえる心臓の高鳴る音。たぶんリオラも私の心臓の音が聞こえている。私の手はリオラの袖を掴んだままだ。
こんなに近いのに。あと数ミリの距離が、どうして遠く感じるの。
……――。
無限に感じる程、そのまま居続けた。部屋が静かな分、さらに胸が苦しいほど高鳴ってしまう。
改めて、この想いをもう一度言えるかもしれない。
今ここで言うしかない。
どうせならいっそ、彼の身体を抱きしめて、死にたい。
「リオラ……」
少し頬が赤く染まっている。リオラが低い声で静かに返事を返す。
「……なんだ」
「私、やっぱりリオラの事……」
私はリオラの身体に委ねようとした。
「サクラ!」
彼は怒鳴るかのような声で、だけど恐怖じみた顔で言いつけた。
びくっと体を震わし、私は一歩、後ずさりする。それでも、彼との距離は触れ合いそうなほど近かった。
「だって、わたし……っ」
「オレの身体で……目の前で大切な人を、死なせたくない……」
もう傷つけたくないと、悔しそうに彼は俯き、目を強く瞑った。
彼も本当は私と同じことをしたかったはず。
でも、神様がそうさせてくれない。
触れ合うことさえさせてくれない。
抱き合うこともさせてくれない。
愛し合うことも許されない。
なんて、残酷なことだろう。
「じゃあ……これだけは言わせて……」
私は透き通すように息を吸い、彼の瞳の奥まで見つめ、唇を動かす。震えてしまうけど、ちゃんと言わなきゃ。
届いて。伝わって。
まだ伝えていない、好き以上の言葉――。
「リオラ……あいし」
――ドガァン!!!
「いたぞぉ!」
「王女から離れろ! このバケモノがぁ!」
「――ッ!」
――ズガガガガガガガガッ!
「王女をここから逃がせ!」
「今すぐ部屋の外へだ! っ、おいあいつを外へ逃がすな! ここで仕留めるぞ!」
ドォンドォンドォンドォンドォン!
「サクラ王女ッ! 早くこちらへ!」
「王女、お怪我は! 大丈夫です! すぐに我々がこのうす汚いケダモノを始末しますので」
「よし、端へ追い詰めた! 一斉に畳み掛けろ!」
ゴゥン! ゴゥン! ゴゥン!
「くそっなかなかくたばらねぇ!」
「身体もろとも吹き飛ばせぇっ!」
「息の根を止めるまで撃ち続けろ!」
ズガァン! ズドォン!
「王女っ! もう大丈夫です! 大丈夫ですから暴れないでください!」
「チッ、ゴキブリみてぇな生命力だ」
「仕方ねぇ、ひとまず生け捕りだ。殺すのは後だ!」
「王女、暴れないでください! 何故わざわざバケモノの所に向かおうとしているのです!」
カランカラン……――シュー……。
「もう一発食らわせとけ」
……ドォン!
「 」
…………ドチャッ――。
『目標"災龍"を捕獲。全軍撤退。至急応援を頼む』
第四章一節、完結。




