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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第三章 二節 人と龍の想い
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19.召使の記録

《ウォーク》

 こうして世界は、人類は滅びることなく、平和が訪れた。


 アミューダ地方の人々は絶望から歓喜の声を上げ、今こうして生きていることを十分に噛み締め、感謝した。

 4国の軍隊はアミューダ地方に侵入した龍群約1万頭を見事殲滅し、「人類の敵」に属する伝説「黒龍神」ミラネス、バルアス、そしてルデオスの計3頭を討伐、無事にそれぞれの国に帰還した。軍の勝利と生還を祝い、国中で宴を始めていた。


 だが、被害は皆無ではない。

 損耗率16パーセント。黒龍神や竜群の相手をしたにしては少ない方ではあるが、それでも今後の軍力が痛手になる程死傷者は出ている。勝利の裏には犠牲があるということを決して忘れないでほしいと願う。

 後にこの戦いを「黒龍戦争」と名付けられた。


 アミューダ地方を始めとした地域、大陸にも甚大な被害が出ている。各国や調査隊より記録された情報をもとに、それらの被害記録を以下に記す。尚、被害は世界規模であるため、以下の記録はアミューダ地方内部及び地方付近での被害を記載する。


・プラネル高原の9割が焼失。土壌の栄養素も枯渇し、長期的な不毛地帯となる。

・ランバルト地方ケイオス地帯の氷河期化。

・アミューダ地方エルベス火山帯の全壊。一面溶岩の海と化す。

・臨海地帯シェイダの半壊。

・第一グリス半島が両断されたかのように崩壊。

・グリス山脈の一部崩壊。78mSvほどの自然放射線が確認。

・グリス国は震度5による街の半壊。しかし、幸いにもグリス山脈という堤防があったため、臨海から津波の被害はなし。反面、山脈で育てている農作物36%が損失。

・シェイダ山の半壊。

・ユモ平野、エルドラス平原、剣針山地帯の8割が焼け野原と化す。剣針山の焼失。

・サルト砂漠の峯山ラゴスの倒壊。

・鉱脈地帯の爆破的被害。

・プリュート山脈群の半壊。

・アーク海の海底火山大量出現。

・デタラメな海流などの環境急変による生態系等の様々な悪影響。

・漁獲量等の漁業問題の回復見込みは現時点でなし。

・あらゆる場所に白い落雷とそれによって起きた白い噴火による国や村の損壊。

・死傷者、計測中だが世界的天変地異が引き起こされた割には、記録的に少ない方だと現時点の数値で判断できるほど。


 抽象的に述べたが、以上が現在確認された黒龍戦争の日にて勃発した被害記録である。


 また、これは確信的な情報ではなく、話で聞いたことだが、ジンガ大陸レヴィア地方に属する巨山の火口内部にある神域エスカドラ。

 その地域環境は激変し、樹海から高濃度の放射性物質に汚染され、地球誕生のようなマグマ地帯と氷河期のような氷河地帯が対立しているとのこと。気圧、気流がデタラメに神域を包んでいるので常に悪天候。そんな地獄の環境が今でも持続している。想像するだけで背筋が凍る。


 尚、これらの災害被害は「神殺しの天罰」ということで大体の国民の中では収められた。五十数年前の神殺しによる天罰は、今回ほど規模は広くなかった分、壊滅的だったという。記録としては一度の大地震と大津波がアーク国やグリス国を襲い、サルト国とプラトネル国は疫病を流行らせた。その前は気候変動による温暖化だったという。


 これは私自身の推測だが、その天災のどれもが龍の仕業だと考える。神として崇め奉られるものには、ほぼ龍の生活と関係している。その神を象徴した何かを壊す、または殺した場合、生活上悪影響を来す龍が怒り、対象に天災を下すのではないかと思われる。


 余談……ともいえないが、世界的に及ぶ竜の数が激減したという。絶滅危惧種レッドデータに登録される種もいくつかみられ、生物愛護委員会や環境保護団体の動揺が見られたという。竜は人々にとって脅威だが、種の大多数は自然にとっては益虫と同様、恩恵をもたらしている。人々の安寧を優先するべきか、自然の均衡を優先するかでハンターギルドもこの青天の霹靂に戸惑っているようだ。


 とにかく、この様々な地帯の劇的な環境変化は人類に多大な影響を与える。いつもの毎日はもう訪れることなく、人々は新しい生活を始めるだろう。無論、サルト国もその例に過ぎない。

 時代は変わった。新しい世界へと変わったのだ。


     *


 王宮に帰るなり、レインに殴られ、罵倒を浴びる羽目になった。だけど、あいつは突然いなくなった王女と僕を相当心配していたようだ。それはそうだ、勝手にいなくなったものだから。軍といっしょに黒龍を討伐しに行ったんじゃないかと勘違いしていたようだ。こんな怪我で行けるわけないだろ、と呆れて笑い飛ばした。


 次の日に開催された宴は車椅子に乗りながら参加した。今回の一件による影響は凄まじくとも、国民の誰もが時代の戦争が無事に終わったことに喜びを噛み締めていた。サルト国は奇跡的に死亡者は少なく、白い落雷の被害も、他国と比較すれば最小で収まった。

 哀しみが混じっているも、その宴ではみんなが笑っていた。その光景がとても幸せに感じた。心の奥底から生きていることに対して、天罰で世界が滅ばなかったことに対して、本当の喜びを表していた。


 あのあと、サルト国では天災の被害を受けた場所の修復作業に取り組んでいた。


 大工を務めているレウは黒龍戦争から帰ってきた後、まともな治療と休養を得ず、街の修復作業に取り組んでいる。

 人間離れの兵器級人間であれ、あいつの本業は大工だから、街の修復依頼が殺到しているのだろう。休養は取ってほしいと義理の弟である僕が言っても、何ともねーから心配すんなと言うばかりだった。

 朗報。この修復作業が終わった後、アーカイドが営む龍材屋兼ハンター業にもう一度務めるらしい。数年ぶりのハンター生活を送るのでレウ本人は楽しみにしている。顔には出さないが。


 ちなみに戦争に参加したポートさんはじっくりとプラトネル国で治療を受けている。知人の医療施設で治療を受けているらしい。だから内蔵された兵器がバレないのか。全快したらまたこの国に訪れるとレウから聞いた。


 そんなポートさんの友達であり、龍材屋兼ハンター業を務める同胞セトの容態は徐々に回復したようで、今では何とか話せる状態まで達したが、残念なことに五感の劣化と肉体の弱体化が後遺症として残ると聞いた。つまり、もう二度とハンター生活を送れない、僕と同じように障害をもった体を負うことになったのだ。

 だが、医師の想定より格段に速く意識が戻り、言語を話せる状態まで回復したのは神の気まぐれだろうか。今度、セトの見舞いに行くとしよう。


 アーカイドはなんと、情報屋のキケノさんと結婚することになった。プロポーズはキケノさんが先らしい。これを知った国軍のサニーは、ほら見ろ、俺の思っていた通りだ、と何故か自慢げに言っていた。

 ともあれ、ふたりが永遠の愛を誓えるのか不安だが、まぁなんとかなるだろう。喧嘩する程仲がいいともいう。ある意味幸せな家庭を築いていけると思う。いやそう願おう。ただ、アーカイドがプロポーズにイエスと応えたのが最も意外だとここで誓おう。


 龍材屋兼ハンター業を務めるタキトスの友達ハリタロスさんは龍材屋に務め、アーカイドらとハンター生活を送ることとなった。

 騒音機が2台に増えたからアーカイドはうるさくて仕方がないだろうと思う。でも十分な戦力になることに変わりはないだろう。また賑やかになりそうだ。迷惑なくらいに。


 レイン、サニー、クラウの国軍仲良し3人組はサボることなく熱心に訓練に励んでいるらしい。

 二カロの件と黒龍戦争をきっかけに、もっと強くなろうと決心したのだろう。おかげでレインと話す機会はさらに減ったが、親友の努力に僕は口出しをするつもりはない。ただ、彼の頑張りを応援すればいい。


 エンレイ国王は戦争が終わり、少し表情が和らいだように見えたが、心の奥底から何かの嫌な違和感が僕の目に滲み残る。失礼なことを言うが、何か、恨みや憎悪が混じっているような、そんな感じがした。


 イルアは最近やけに王女に会いに来ている。研究の方は大丈夫なのかと訊くと、今までよりも断然頑張っていると言っていた。集中している分、何かのリラックスタイムは必要なのだろう。その相手が王女や僕なのは別にいいのだが、こっちの日程の事も考えてほしいとは思う。自分の都合を基準にしないでほしいが、まぁより会話が弾むからいいとするか。


 あのあと、リオラは信仰地の近くに墜落していた。彼はすでに死んだかのように意識を失っていた。だけど、その顔は何かを達成したのか、世界が無事に終わったという安堵感からきているのかわからないが、安らかに眠っているようだった。数日後、また訪れてみると、その姿は血の跡すら忽然と消えていた。


 案の定だったが、信仰地にて彼は死に掛けていた。王龍との戦いの後遺症が出てきたのだろう、本人曰く、毒や"曝素"という放射線物質と同義の物質が未だ浄化されていないという。回復力、治癒力、再生力も王龍の毒で劣化しているのだろう、その傷はまったくと言っていいほど治る余地が見られなかった。全快するのにかなりの時間がかかるらしい。

 王女といっしょに来るなり、森から採ってきた木の実や獣の肉などの食糧を持ってきている。大食漢の彼にとってはスズメの涙程度だろうと思うが、無いよりはマシだ。きっと今も信仰地のアマツメの大樹の上で居眠りでもしていることだろう。

 この先、王龍のような存在はもう現れないはず。だから、ゆっくりと休んでほしいと思う。リオラにはいろんな恨みがあるが、世界を救ってくれたので、生意気いうがおあいこにするとしよう。


 僕は『ハル・ダ・ラミノーム』の首領ニカロによる致死寸前に匹敵する怪我に加え、療養中に抜け出したが故の悪化により、さらに体の自由が利かなくなった。手も痺れては上手く使えなくなり、足は完全に神経から障害を受けているという。

 それでも今まで通りに仕事を続けたい、と僕からお願いし、さらには他の方々、国王や王女までもが頼んだ末、プラトネル技術で新型の義足を提供してくれた。脊髄に多少の傷害があるも、四肢を動かすための運動神経と機械との接続に関しては特別問題はなかったため、すぐに実施された。


 これで僕も機械人ハーフアンドロイドの仲間入りか。リハビリも大変だろう。でも、今まで通りの生活に戻れるのなら、手足が自分のではなくなったって構わない。もう、戦いをすることはないだろうから。


 サクラ王女は相変わらずの明るさと活発さを振る舞って日々笑顔で過ごしている。なんだか前よりも楽しそうだ。

 だけど、そんな彼女が何か違和感をみせるのも気のせいではなかった。僕の考えが正しければ、いや、そんなことは、そんなことは決してない、はずだ。そんなわけが……ない……。


 とりあえず、世界が変わり、時代が変わった今、この出来事は歴史に刻まれることだろう。

 だが、真実は歴史に刻まれない。

 あれだけの天罰のような災害被害を発生させ、それに気づかない人は誰一人いないはずだ。だけど、人々は暗黙の了解で真実を抹消する。自分たちの都合のいいように、歴史を捏造し、作り変える。真実を書き換え、公表する。言っては悪いが、まぁ当然だろう。

 長年のあらゆる天災を巻き起こした上、《神殺し》を犯した憎まれるべき、殺されるべき虚無の伝説、「災龍」がこの世界を救ったのだから。


     *


「……今日はこんな感じでいいか」

 いろいろ思いを連ねつつ、残すべき記録、日記を書き終える。毎日の日課だが、今日は書くことが多すぎた。

 最後に「ウォーク・ショナー」とサインをしては書記を閉じる。


 同室で寝ている同僚のヘディツやアドックも既に寝ており、うるさいいびきを立てている。歳の割にオヤジくさい鼾を立てられるのは快くないが、今日も復興作業や国軍兵の療養の手伝いに明け暮れたから、疲れて当然か。

 時間は1時を越えている。流石に今日は抜け出してないよな、王女。

「……」


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