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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第三章 一節 革命の灯が消える刻
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1.感じたことのない紅色の気持ち

 "神殺し"。

 それは決して許されぬ、重罪を越える重罪。人がそれを犯せば、計り知れないほどの天罰が、僅かの時を経て地上に降り注ぐ。

 それだけではない。天からの罰が下るのは勿論、地上からの罰も受けることになる。


 それは、人々の憎悪である。

 敬う神を殺すことは、その人々の心を殺すことも同然。故に神と人の恨み、憎しみをすべて請け負うことになる。それだけ、許されぬべきことなのである。


 その重罪を犯してしまった一人の青年「リオラ」は、後に「伝説」から「実在」、そして「抹消」すべき対象として人々の記憶に刻み込まれることになる。

 彼は「人類の敵」となる。


     *


《リオラ》


 僕は独りだった。


「……ぁ……あぁぁ……」

「お、おい、アレって……」


 みんな、離れていく。


「……?」


 腫物みたいに、人間は僕を毛嫌う。


「うわああああああああああああ!!!」

「バケモノだあああああああああ!!!」


 人だけじゃない。動物も、植物も、何もかも僕を恐れて拒んだ。


「……? ……?」


 何がどうなっているのか。


「はやく子ども達を中へ!」

「逃げろォ!殺されるぞ!」


 僕にはわからない。


「……?」


 教えてくれない。


「きゃあああああああああ」

「こっちに来たぞォ!」

「銃を持て!」

「なんでもいいから武器を持つんだ!」

「今すぐバケモノを殺せェ!」


 気がついたら、嫌われていた。


「?……?……」


 見放されていた。


 ――ドォン! ドォン! ドォンッ!


「……ッ!?」


 何かをするだけで、みんな死んじゃう。


「近づくなァ! バケモノ!」

「これでもくらいやがれ!」

「さっさと消えろォ!」


 なんで? こっちがききたい。


 ――パァンパァンパァン!


「……ッ!! ……ッ!?」


 何もしていないのに。なんで血を流さなければならない。


「バケモノの分際で人間に成りすましやがって」

「バケモノは所詮バケモノなんだよ!」

「分かったらさっさと消えろ!」

「人間の住む場所に来るんじゃねェよ!」

「どうせなんか企んでんだろ! わかってんだよそんなことぐれェ」


 わかった口をきくなよ。なに分かり切ったような顔してるんだよ。


「……!? ……ッ! ……ッ!」


 そっちがバケモノだろう。


「なんだよ、何が言いてェんだよ。目障りだからさっさと消えろ!」


 こんなに嫌われるなんて、恐れられるなんて、拒まれるなんて。


 ――ドォン!


 僕が何をしたっていうんだ。


「ぎゃははは、ビビッて逃げたか! そのままのたれ死んじまえ!」


 わかるか、独りがどれだけ寂しくて……怖いのか。


「……ッ、……ッ、……」


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。


「お、おい……戻ってきたぞ……!」

「眼から血が出てる……やっぱりバケモンだ」

「くそ、さっさとどっかいきやがれ! 死にてぇのか!」

「おい待てよ、こいつ……銃じゃ死なねぇぞ!」

「に、逃げろ! 殺されるっ!」


 このままずっと、嫌われるままひとりぼっちのままで、そのまま死んじゃうの?


 嫌だ。

 そんなの嫌だ。


 ――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだよひとりぼっちはいやだよいやだよいやだよいやだよこわいよさびしいよこのまましにたくないよだれにもしられないまましにたくないよきらわれたまましにたくないよしにたくないこのままずっといみのないままいみのあるままむだでむぼうでむいみなじかんをすごしてなにもないままひとりでかってにしぬなんていやだいやだいやだいやだそんなしにかたしたくないしにたくないしにたくないたすけてたすけてたすけてたすけてだれかぼくをたすけてよこのこどくからかいほうしてよおねがいしますだれでもいいからぼくをたすけてこえをかけてぼくにきづいてだからおねがいだからひとりぼっちにしないでひとりぼっちにしないでひとりぼっちにしないでひとりぼっちにしないでよおねがいだからだれかたすけてこわいよこわいよこわいよこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいいやだよいやだよいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやたすけてたすけておねがいだからだれでもいいからぼくをたすけてひとりぼっちからたすけて―――――


「ま、待て、来るな……くるなくるなくるなぁぁあああああ!!!」


 ――ねぇ、返事をしてよ。




「――っ!」

 唐突に目が覚め、ガバッと起き上る。滲み出る嫌な汗。深夜だが遠くで鳥の群れが一斉に羽ばたき、獣たちを起こしてしまった。

「……」


 夢か……。

 

 汗を拭い、もう一度古寺の屋根に背中から倒れては寝っ転がる。真上には満点の星空が見えたが、空気にいまいち締まりがない。明日は少し降るだろう。

 

 目を閉じるが、夢の最後に見た景色と同様、真っ赤に染まった世界がある。錯覚だろうと思いつつも、嫌気がさしたので起きることにした。

 この地の遙か底の越えた先へと日が向かったことで訪れた闇は、自分の思考の中のようで、暗さ故の視界の遮りを感じなくても、やはり落ち着かせる何かがある。

 しかし、頭の中をかき混ぜるような渦は、治まる兆しをみせない。


「……」

 それにしても。

「起きた途端、これか」

 なんなんだ、この胸の違和感は。

 悩むたび、あいつの顔が浮かび出てくる。ふと思えば必ずあいつの笑った顔や話しかけてくる顔、振り向いた顔、いろんなあいつの表情が出てくる。


 ――ねぇ、リオラ!


 オレを呼ぶあいつの声。ぼーっとしながら、そう頭の中で反芻している。

「――っ!」

 ハッと我に返る。オレは何してた。何を考えていた。

 それよりもなんなんだ、この表現できないもどかしさは。もやもやが取れない。妙にドキドキする。変な緊張感。心臓が変に高鳴っている。いろいろ熱い。


 ――これからも、ずっと友達でいようね! リオラ!


「――うぁあああああああああっ!!!」

 古寺から飛び出し、サルトの信仰地を駆け抜けてはそのまま崖下へと頭から落ちる。しかし、頭や胸の締め付けられる感覚は収まらない。病気だろうか、苦しくて仕方がない。


「おおおああああああああ!!!」


 無茶苦茶に広大な山内を奔走し続けた。走っても走っても、締め付けられるような何かは治まらない。木々にぶつかっては薙ぎ倒しても、体当たりで崖を抉って洞窟の中を疾走しても、河の中に飛び込んでも、一向に治まる気配すらしない。


「ぬぁあああああああああ!!!」


 オレは大きな岩壁をがむしゃらに殴り続けた。トドメは頭を打ち付ける。

 いらつく。いらついて仕方がない。

 そもそもこれが苛立ちという感情なのかさえ見当がつかない。

 どうなってんだ。


 オレは半分埋まった頭を岩壁から引き抜く。ボロボロに崩れているはずの岩には、無意識だろうか、なにか見たことのある文字が刻まれていた。かなり歪だが、殴って削ったことで文字と化している。


Lievスキ


「……」

 慣れ親しんだ言語ではなく、最近知ったような言語。熱くなった頭では、その意味が何なのか、いまいち思い返せない。変な話だ。

 しかし、こうやって頭では悩んでいても、身体は正直なのか。ぺたり、と座り込んでしまう。森を抜けた先、夜空の星へと顔を上げる。


「はぁ……」

 いつだってそうだ、気がつくと必ずと言っていいほど、あいつの顔が頭の中に出てくる。あいつがどんな人間か、知りたがっている自分がいる。

 明日は会えるのか、そんな期待した感情がいつもある。もどかしくて仕方がない。どうにかこの澱みを取っ払ってしまいたい。


「明日来てほしいな」

 ぼそりとそう呟いたことに気がついた瞬間、恥ずかしくなったオレは「うおおおおおお!」と叫びながら木や地面に頭を打ち付けた。大地が揺れんほどまでに。

 この気持ちは何なのか、それを知るのはまだまだ先になるかもしれない。


 ただ、単純に言い表せるとすれば。

 いつまでも、能天気で元気なあいつと一緒にいたいということは確かだった。

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