第54話 ケーキ・パフェ・プリン
カランカラーンとベルが鳴る。
結構豪快なもので、チリンなど控えめな物でも無かった。
煩くないのかなぁ。
「いらっしゃいませ!」
店内は混雑、と言うほどでも無かった。
今はお昼時だしね。
このお店はデザートや飲み物は豊富だが、ランチ等には向いていない。
まぁ食べようとすれば不可能でもないだろうけどね。
近くにこのお店の支部、じゃなくて・・・うーん、何て言ったらいいかな、ああ。
同じ会社が経営しているファミリーレストランがあるから、多分そこで昼食をとってから
15時、おやつの時間にここに来る人が多いんだろう。
「どこに座る?」
ずっとここに留まっているのも邪魔だし迷惑なので、どこか座ろうとするが、
どこに座るか迷う。
「あ、そこのテラス開いてるわよ。3席しかないし、今全部空いてるからチャンスよ!」
「それもそうだね」
スピリーツが指差している右奥を見ると、確かに3席とも空いている。
結構天気もいいし、埋まっててもおかしくないんだけどね。
僕達はテラスにある端の一席に座る。
僕とスピリーツは向かい合って座っている。
テーブルの上にはメニュー表が置いてあり、スピリーツはにこにこ顔でメニューを捲っている。
「ふふ、何にしようかな」
「僕にも見せてよ」
そう言うとスピリーツは顔を上げて、メニューを渡してくれた。
「あら、すっかり忘れてたわ」
自分の世界に入り込んでいたようだ。
メニューを開くと、色んなデザート、軽食・・・パン等、飲み物も結構沢山ある。
ミルクレープは・・・あっ、あった!
飲み物も適当に、えっと・・あ、メロンソーダにしよう。
「はい、決まったよ」
スピリーツにメニューを返す。スピリーツは驚いた顔をして、メニューを受け取る。
「・・もう決まったの?」
「うん。 僕はミルクレープとメロンソーダ」
「本当ミルクレープが好きなのねー・・あっ!ミックススペシャルデリシャスセット!?」
「色々おかしくない?その・・ミックススペシャルデリシャスセットって名前」
先程メニューを見ていたときにチラッと見えた写真には、
5種類ものケーキのショートケーキ、チョコレート、チーズ、ミルクレープ、そしてフルーツタルト。
それらがホール状に並んで出されるメニュー。円状になるように大きめにカットされていて、
大分ボリュームがありそうだ。
1200円って、どうなんだろ、安いのかな・・。
「後飲み物は・・・オレンジジュースにしようかしら。あっ、後チョコレートパフェも食べようかしら!」
「・・・そんなに食べるの?」
スピリーツはむーっと口を尖らせ、拗ねた顔をする。
「何よ、別にいいじゃない。私が払うんだから」
そう、先程の服屋は僕が出した物だ。
結構な値段だったなぁ・・・・
家に何故かお金がたくさんあるからいいんだけどね。
あの家って最初から何でもあったんだよね。だから不自由しなかったんだけど・・・
今考えると不思議な事ばかり。何故あそこで目覚めたのか、とか色々ね。
そうだ、スピリーツにそろそろ頼んでもらおう。
喫茶店ではスピリーツが沢山食べそうだから、スピリーツが払う事になったんだ。
一応僕が渡したお金なんだけどね。
メニューを見終わったのか、スピリーツは長い金髪をくるくると弄っていた。
「スピリーツ、そろそろどう?」
「それもそうね。私が行って来るわ~」
スピリーツは立ち上がり、店の奥へと入っていった。
この店は、店員さんを呼ぶのではなく、店員さんの下に行って頼むのだ。
マ○ドナ○ドとか、その辺りかなぁ?
あ、出来たものはちゃんと運んでくれるよ。
テーブルとかは大丈夫。テラス席にはパラソルが付いていて、店の中から見えるように数字が書いてある。
僕達の席はテラスの1番。 まぁ待っていれば来るだろう。
スピリーツが戻ってきて、席に座る。
相変わらず綺麗だよねぇ・・・。好きな人とか、居たのかな?
まさか・・・・まさかね。
「さて、クラクサス・・だっけ。アイツをどうやってぶちのめ・・捕縛するか考えましょ」
うわぁ、今「ぶちのめす」とか言い掛けてたよあの人・・・・
「とりあえず会って見ないと分からないね。 アンドロイド・・ロボットだっけ?
だったら回路とか切ったりできるような気もするし、姿形のモデルも居ると思うんだけどなぁ」
スピリーツが顎を手に乗せている。
「ふぅん・・・そういえばそうだったわね。 少し調べてみようかしら」
スピリーツが胸元に手を当てると、淡く光り、すっと手を前へ戻すと、そこには一冊の本。
あれは・・スピリーツの本体の魔導書?
「名前は希望の書。これが私の本体ね。 調べ物をする時は少し本らしく本を使う事が多いのよ」
「へぇ・・・」
パラパラとページを無造作に捲っていくスピリーツ。
「あ、あった」
「早っ」
〈これは、スピリーツさんの魔導書があった場所・・・!!〉
今までずっと黙っていたレヴィンが思わず、という感じで言葉を口にしていた。
「嘘っ!?」
「少し驚いたわね・・・はい、マスター」
スピリーツから本を受け取ると、そこにはあの、見覚えのある花畑。
ページいっぱいに描かれた花畑。色んな種類と色の花があって、絵・・?から見てもとても綺麗だ。
ただ、僕が見た時と違うのは、その花畑に囲まれるようにして建っている、小さな家。
ぽつんと建っているが、その家もまるで花畑の一部のように佇んでいて、違和感も無い。
「・・・この家の家主?」
「えぇ。その人がモデルみたいよ。 ただ・・・」
スピリーツが言いよどむ。
本に描かれている情報・・文字や絵を見ていくと、ある一文が目に留まった。
「・・・その家主も、」
「そうよ。アンドロイド、ロボット」
「つまり、クラクサスを造った人は、あのロボットを参考に・・?」
「そうね・・でも、家主・・クラリスは、クラクサスが造られる7年も前に、命・・いえ、
活動を停止しているわ」
スピリーツは一拍置いて、
「そしてまた、クラクサスを造った本人、ナズリー=セリラルハコラベも、クラクサスが起動してから
3ヶ月で、命を落としているわ」
〈考えられるのは・・暴走、ですかね。 ただ、クラリスさんの死因が分かりませんね〉
レヴィンはふむ、と考え込んでいる。
〈あっ! 7年前の事件、ロボットの反逆・・!すっかり、忘れていました〉
「・・そういえば」
僕もすっかり忘れてた。
確かゼリスクの職員と幹部が犠牲になったんだよね。
・・アイツ等が原因なんだけどさー。
「どこかで聞いた事があるわね。 そのロボットの記憶やデータが入っているメモリーチップが無かったらしいのよ。
どこにもね」
〈多分、ナズリーが拾い、それを参考に、クラクサスさんを7年の年月を掛けて造った、という事でしょうか。
・・・恐らくナズリーとクラリスは友人、親友、恋仲のどれかだったんでしょう。
でなければ知らない他人・・ロボットに似せたロボットなんて、7年も掛けてなんて造りませんよ。
そうですね・・その人がよっぽどな人であれば別ですね〉
多分それで合ってると思う。
「とりあえず帰ったらまた調べてみましょ」
ハイとスピリーツに本を返し、スピリーツが本を持ったまま手を翻すと、本はもう消えていた。
「今は、美味しいスイーツを味合わないと!」
先程までの険しい顔と一転、ニコニコ笑顔でそう言った。
それと同時に店員さんが遠くから「テラス席1番のお客様。大変お待たせいたしました」という声が聞こえてきた。
スピリーツはそれに「はいはーい」と手を振って答えた。
店員さんは小さめなカートを押している。
狭いし、ウッドデッキは少しでこぼこしていて、大変そうだ。
「大変お待たせしました。 此方が、メロンソーダとオレンジジュースで御座います」
まず最初に出されたのはメロンソーダとオレンジジュース。
次に待望のミルクレープと、あのミックススペシャルデリシャスセット。
思ったよりも大きい。
スピリーツをチラりと見ると、物凄くキラキラした顔でミックス(中略)セットを見つめている。
更に、先程言っていたチョコパフェ(但し通常の2倍)、ホットケーキ(3段重ね)、プリンとテーブル一杯に乗せられていった。
「どれだけ頼んだの?」
「え?まだこれだけよ」
まだ、これだけ・・・・
ふらりと倒れそうになるが、背もたれでそれは防がれた。
店員さんはカートを押して戻っていく。
相変わらずテラス席は僕達しかいない。
店内は満席、流石にコレはおかしい。
・・・多分スピリーツが何かやったんだろうな。
チラリとスピリーツを見ると、幸せそうにケーキを頬張っていた。
・・・・・。
僕も食べよう・・・。
一口サイズにフォークで切って・・形が崩れないように注意を払って、と。
いただきます。
・・! 美味しい。
僕が食べる所を見ていたスピリーツは、ニヨニヨと何とも不思議な顔をしながら此方を見ていた。
うわっ、ミックスセットもチョコパフェももう無いじゃん!
「それ、美味しい?」
「・・絶対一口頂戴って言うよね」
「うっ・・・」
ビンゴ。
「まぁ一口位ならいいけどね。 ・・はい」
ケーキが有ったであろうお皿に一口サイズを乗せる。
「ああっ」
「一口とか言って半分位取るつもりだったんでしょ?
食べたいなら自分で頼みなよ」
あからさまにしょんぼりとするスピリーツ。
大人しくミルクレープをパクッと食べた途端、スピリーツの顔が輝きだした。
「美味しい!!」
「やっぱり思った?」
コクコクと何度も首を縦に振る。
「次はミルクレープも頼むわっ」
「・・そう」
ハァ、とため息が出る。
次々にホットケーキも食べていく。
まるで掃除機。
あっという間にホットケーキも、いつの間にかプリンも完食されていた。
「もっと食べよ~っと!」
店内へと駆けて行くスピリーツ。
スピリーツの胃袋は正にブラックホール。
*
「ふぅ~美味しかったぁっ」
あれからまたどんどんと食べ、終いにはメニュー全制覇までしていた。
「もう日が暮れてきたよ」
「あら、もうそんな時間?」
やはり一度もテラス席に僕達以外の人が来る事は無かった。
お会計も済まし外へ出る。
またカランカランとベルが鳴った。
〈・・・お疲れ様です、マスター〉
「本当にね・・・」
もう暫く甘い物は控えよう・・
今日はそのまま人気の無い所でサクッと瞬間移動をして家に戻った。
町並みをゆっくりと見ながら帰るのも良いんだけどね・・・今日はそんな気力もう無いや。
「ふぅ・・ただいま」
誰も居ないけれど、つい言ってしまうこの言葉。
〈お帰りなさいませ、マスター〉
「・・・。ありがと、レヴィン」
レヴィンが「お帰り」と言ってくれたのが、少し嬉しかった。
「結局何も無かったわね。・・っと、マスター、ローブ」
「あっ。ありがと」
スピリーツからローブを受け取る。
何時までも灰色なのもアレだし、いっそのこと買い換えようかな。
今度は冒険者風に、革っぽくしたいから、薄茶色かな?
「ふー・・今日も色々あったけど、話すのは明日にしましょう。
今日は眠いわ」
ふあぁ、とスピリーツが欠伸をして、階段を上っていく。
「お休みなさい、ますたぁー」
「お休み。 ・・ふぁぅ・・・。僕も寝ようかな、凄く眠い」
今まで寝てなかった分が、最近回って来たのかな。
最近凄く眠いし、寝てばっかり。
〈お休み、なさいませ。マスター〉
「うん。レヴィンもおやすみ」
僕はリビングから廊下に出て、寝室へと向かった。
──そういえば、最近全然リーディは表に出てこないなぁ。
そこまでケーキの話をしていません。
思ったよりケーキって食べれませんよね。お腹にとても溜まります。




