第53話 ショッピング
とりあえず今日の報告は、
オムライスは最高の食べ物だと思った。
これだけ。
ユズキに連絡を入れるのは明後日。
今日は話し合う事も無いので、早めにベッドへ入って寝た。
「おはよう」
まだ朝日が昇りきっていない内にリビングへ向かう。
ソファーにはもうスピリーツが座っていて、テレビを見ていた。
「おはようマスター」
「スピリーツはいつも早いねー・・」
「そうでもないわよー」と湯気が立っているお茶を飲む。
「はぁ・・朝の暖かいお茶は美味しいわぁ・・・。 私も起きたの少し前だもの。
あ、マスターもお茶飲む?」
「あ、貰おっかな」
スピリーツの反応を見て凄く飲みたくなった。
〈今日はどうされますか?〉
「この町を見てみたいわ!」
「それもいいかも」
スピリーツの提案によって、今日は街中を探検する事になった。
僕もゆっくり街を見た事って無いなぁ・・・
・・・・本当僕って人間として何処か欠けてるよね。
「マスタァー、準備出来たぁー?」
玄関から呼ぶ声がする。
「今行くよー」
そう言いながら階段を降りる。
少し大きめの肩にかけるバッグを持って、着替えて来た。
ローブはバッグの中に。
玄関へ行くと、スピリーツがそわそわとしながら待っていた。
今のスピリーツの髪と目は、茶髪黒目になっている。
僕も、黒髪黒目になっている。 流石にあの色じゃ目立ち過ぎるからね。
「お待たせ」
「そのバッグ私が持つわよ。 ・・っと、結構軽いのね」
スピリーツにバッグを渡す。
「まぁ、ローブと財布・・くらいしか入ってないから」
「本当何も入ってないわね」
スピリーツが呆れた顔をする。
・・・なんでこんなに呆れられるんだろうなぁ。
「必要なのってこれくらいでしょ?」
「普通じゃローブは必要ないわよ・・・まぁいいけど。 さ、行きましょう!」
ガチャリとスピリーツが玄関のドアを開ける。
〈鍵はどうしますか? 手元に無いと思うのですが・・・〉
「そうねぇ・・・、兎に角入られなければいいのよね。うん。私が魔法でちょちょいっと鍵を掛けるわ」
ドアに両手をつけて、魔力を流し込む。そしてそのまま手を離し、スピリーツは
「ここにはどんな美味しいモノがあるのかしら!?」
〈そうですね・・街中だと最近評判の喫茶店があるみたいですよ〉
キラリとスピリーツの目が輝く。
「どこどこ!?私甘いもの大好きなのよ!!どこにあるの!?」
〈・・・・喫茶店に寄る前に何かショッピングを楽しんでからにしては如何でしょうか〉
うーんとスピリーツは悩んでいる。
どうやら本気で悩んでいるようだ。
女の人は甘いものが好き、買い物も大好きだからねぇ・・・・
どうやら決まったようで、歩き出す。
少し出かけるのにもこんなに時間が掛かるなんて、思いもしなかった。
「決めたわ!ショッピングを楽しんでからにするわ!! 私の普段着も買わないとね。
やっぱり浮いてるから」
「あー・・それもそうだね。 その服はどこの世界の?」
布のような革のような、少し短めの白いワンピース。
胸元がまぁ、控えめに開かれていて、通気性も良さそうである。
靴も膝丈まである長いブーツ。素材は革っぽくて丈夫そう。色は茶色とクリーム色の間くらい。
ヒールもそんなに高くなくてまさにファンタジーの衣装って感じ。
「え?この服? うーん・・・レクイレーチェかしらね。
うん。そうね、あれから服は変わってないわ」
へぇ・・・。
大分長いんだね
あっ、大分周りが賑やかになってきた。
それに応じて、ほとんど見かけなかった人も、よく見るようになった。
スピリーツの美貌と、この世界では余り見ないであろう服が合わさり、
周りの人たちの目を惹きつける。
多分「コスプレ」だとか思ってるんだろうなぁ・・・・
スピリーツが急に立ち止まり、横を見ている。
見ている先には、窓・・・それも服屋の窓である。
「あら、この服可愛いじゃない! このお店に入ってみよっと」
店内の中に好みの服が合ったのか、意気揚々と店に入っていく。
僕もはぐれたり文句を言われるのも面倒なので、その後ろを着いていく。
「いらっしゃいませー」
店員さんが丁寧に挨拶をする。
店内はスッキリとしていて、清潔感溢れる明るい店だった。
そんなにゴチャゴチャしてなくて、好感が持てる。
でも外から見ると、少し地味っぽく感じられているのか、客は少ないようだ。
・・こういう店って常連さんが多そう。
服もシンプルながらも装飾や模様が凝っているデザインで、
ゴテゴテしてたり派手じゃなくてとても清楚っぽく感じられる。
スピリーツが気に入るのも納得。というか絶対こういうのが好みなんだろうな。
スピリーツの近くで店内や服の雰囲気を見ていたが、チラリとスピリーツの方を見ると、
その腕にはもう服が5枚ほど重ねて抱えられていた。
「そんなに買うの?」
僕は恐る恐る声を掛ける。
するとスピリーツはまた服をもう1枚重ねると、こちらを振り向き、
「女の子の服は幾らあっても足りないのよ!」
怒られた。
〈マスター。ここのお店、女性用だけではなく、男性用や子供用もあるみたいですよ?〉
気遣ってくれたのかは分からないが、ボソッと小さくレヴィンがそう言ってくれた。
スピリーツの方を見ると、まだまだ時間は掛かりそうだ。
・・・終わる頃には何枚になっているかな。
思ったよりもこの店は広く、奥へ行くとレヴィンが言ったとおり男性用や子供用、乳児用に老人向け、
ペット用まであった。
・・・・それはやりすぎじゃないかなぁ。
あれ、この水色のパーカーいいかも。
子供用のコーナーでチラリと見えた服。
長袖の少しゆったりとした被るタイプのパーカー。
中央には、カンガルーポケットというあのお腹辺りにある、繋がっているポケット。
手に取って見ると、あまり装飾も模様も無く、袖とフードの部分辺りは淡い水色になっている。
普段着にいいかも。
少し他の物も見てみたが、特にコレといったものは無かった。
パーカーを手に取り、スピリーツの元へ戻ってくると、
店員さんが少し困った顔をしながら大量の服を持っていた。
スピリーツも手に服を大量に抱えており、服があったであろう場所はスカスカだ。
「・・・スピ、お姉ちゃん、買いすぎだよ」
危ない危ない。スピリーツなんて名前の人、日本には居ない居ない。
僕の声に反応したのか、スピリーツは振り返る。
流石スピリーツ。何も打ち合わせもしていないのに、僕にちゃんと合わせてくれた。
「あー・・・ごめんなさい。 それもそうね、半分・・・の半分位に減らすわ」
半分と言いかけたところで店員さんから何か嫌なオーラを感じたので、
スピリーツはさらに半分とつけたしていた。
その店員さんは、黒い長めの髪をポニーテールにしていて、この店の雰囲気に合っている。
笑えばさぞかし可愛らしい顔なのだろうが、今は何か微妙な顔をしている。
「御免なさい。迷惑掛けちゃって。後はコイツに持たせるから大丈夫よ」
「あ・・えー、いえ、私が持っています。お気になさらず」
チラッと僕を見て、慌てて返事をする店員さん。
いやー・・見た目9歳の子供にあの量はどうかと・・・
上手く積み重ねていったら埋まると思う。
その後スピリーツは順調に服の数を減らして行き、
最後には気に入った10着だけ買った。
その中には勿論、スピリーツがとても気に入っていたあの1枚が入っている。
僕もお会計を済まし、上機嫌のスピリーツはそのまま店を出た。
後ろからは「有難う御座いましたー」と店員さんの声が聞こえた。
機会があれば、マーレやアール辺りにでも勧めてみようかな?
「小腹も空いて来たし、さ!喫茶店に寄りましょう!!」
「程ほどにね」
お金も大分無くなっただろうし。
「大丈夫よ、いざとなったら逃げるわ」
「おい」
もう僕は犯罪者になりたくないよ!
結構逃げるのとか面倒臭いんだから。
・・・・まあ逃げ切れるとは思うんだけど。
〈犯罪者になるのはもう懲り懲り、って感じですね、マスター〉
ううっ。レヴィンに心を読み取られた。
「さぁさぁ。レヴィン、噂の喫茶店とやらを教えてくれなさい!」
「何か言葉おかしいよ」
〈教えてくれなさいって何なんでしょうか〉
教えなさいと、教えてください・・・かな。
「い、いいから!レヴィン早く!」
顔を真っ赤にしてスピリーツは大声を出す。
大声を出しているのに、周りの人が平然としているのは、
恐らくスピリーツが無意識に認識阻害魔法でも掛けたからなのだろう。
〈・・・はぁ、こちらですね。真っ直ぐ行けば『かぷちーの。』という看板が見えるはずです。
そこがその噂の喫茶店とやらです。教えて差し上げましたよ〉
「かぷちーの。ねぇ・・・被りそうな名前ね」
「あ、それは僕も思った」
単純だよね。
「あっ、あれじゃない!?」
「本当だ」
かぷちーの。という看板が見えた途端、また周りの人達がチラチラと見るようになった。
多分、にんしき・・・阻害魔法でいいや・・・を解いたんだろう。
まぁ、店内に入って気付かれないのもアレだしね。
「オススメは何かしら~」
〈モンブランですね〉
「モンブラン!!これも好き!」
これも、という事は他にもまだまだ沢山あるのだろう。
「マ・・雪矢はどんなのが好き?」
「僕? 僕は・・そうだなぁ・・・・ミルクレープかな。
甘さ控えめだともっと嬉しいけど」
僕の答えに満足しなかったのかスピリーツははぁ、とため息を吐く。
「子供だったらもっとチョコとかその辺にしなさいよー」
「いや、僕の好みだし・・・別にいいじゃん」
これには反論する。ミルクレープは美味しいんだから。
「まぁ私も好きだけどね~。 ふふふっ、楽しみ!」
やっと店の目の前まで来た。
スピリーツは戸惑う事無く扉を開けた。
よっぽど食べたいのか・・・
ハァ、と心の中でため息を吐いた。
大体ノリと勢いで書いています。
元々1話で終了させるつもりだったんですが・・・
入りきりませんでした。
ミルクレープって美味しいですよね。




