第33話 暴走
いつものようにナズリーはクラリスの家に来た
しかしいつもと様子が違う
扉が無く、そこから除いたクラリスの部屋は酷い有様で、ナズリーはしばらくその部屋の中を見つめていた
目の前に映るのは、初恋の人、クラリスだった
「クラリスッ!!」
我に返ったナズリーはクラリスの元へと駆け出した
途中視界の端に色んなモノが映ったが気にせずクラリスを抱き寄せた
「どうして・・」
冷たい身体に、涙が零れ落ちる
その涙は一度こぼれたら止まる事は無かった
ひとしきり泣いた後、ナズリーはクラリスのすぐ側にあるものを拾った
「これは・・・」
クラリスのメモリーチップが落ちていた
彼女が最後にした行動は、今までの記憶をナズリーにあげる事だった
ナズリーは彼女がロボットだという事は、本人から聞いていた
クラリスをクラリスと同じ髪の色、桃色の花が咲くの木の根元に埋めて花を供えた
そしてナズリーは家に帰り、早速メモリーチップを見る
全部見るのには1ヶ月ほどかかったが、何とか見終えた
心に残ったのは、あの組織・・ゼリスクに対する嫌悪感と、悲しみだった
それからというもの、ナズリーはクラリスを蘇らせる為に、研究に没頭した
そして完成したのは、幼い頃の髪の短いクラリスの姿をした人形ロボット
クラクサスだった
YESを押した途端、モーター音が唸る
モニターに数字が表示される
『インストール完了 11%』
その数字は今も尚、じょじょに増えている
80%を超えた辺りだろうか
『Error! Error! 85%』
「なっ・・!」
ナズリーは焦る
今中断したら、クラクサスの人格もクラリスの人格も無くなってしまう恐れがある
完璧な身体、それによって生まれた人格 それがクラリスを拒んでいるのか・・?
そう考えをしていると、とうとうモニターの数字は100に達した
『インストール 完了』
モニターには白くそう、浮かび上がっていた
五月蝿かったモーター音はいつの間にか止んでいて、部屋の中は静まり返っていた
─ピッ
ガラスに皹が入るような音がナズリーの耳に入ると、彼はその音がした方へと目を向ける
それは、クラクサスが入った容器が割れている音だった
まだ起動していないはずの彼女の目は何故か───開いていた
それに気付いた時、物凄い風がナズリーと部屋を襲った
「・・・ッ!!」
ナズリーは思わず目を閉じた
その風は数十秒間続いた
しかし突然ピタリと止んだのだ
「・・クラクサス?」
ナズリーは恐る恐る目を開けながら、かつて愛したヒトに似た少女の名を呼ぶ
まず最初に目に映ったのは、風で吹き飛ばされて壊れたであろう機材達
しかしそれらは今のナズリーにとってはどうでもよかった
「・・・お前はクラクサスなのか?」
次に映ったのは、くすんだ淡い桃色の髪と、目に光が宿っていない濁った土色の瞳をした、クラクサスが立っていた
「キヒッ」
「!!」
クラクサスがナズリーの方を向いて、笑う
ナズリーにとってはそれがとても不気味だった
そしてクラクサスは、身体もナズリーへと向ける
メンテナンス時には何も着ていないはずのクラクサスだが、今は何故か灰色のワンピースを着ていた
「キヒ、キヒヒヒヒ ハヒヒヒヒヒハハハヒヒヒアハヒヒヒ!」
クラクサスは魔力を放出させ、それを見えない刃にさせ、無雑作に飛ばす
「・・っ」
クラクサスの見えない刃で腹を斬られたナズリー
彼は数年前の出来事を思い出した
クラリスの暴走
ナズリーはその後も足や顔を斬られ、ついにその場に倒れた
「ごめん・・クラリス・・私は馬鹿だったよ・・・・」
彼はそう言い残して、この世を去った
「キヒッ? ここは・・? お父サンは?」
目に光が宿ったクラクサスが呟く
そして彼女は目の前の惨状を見つける
「お父サン!!」
すぐに駆け寄り、抱き寄せた
その姿は、クラリスとナズリーが逆になったようだった
「誰が・・誰がやったんダ!?」
ボロボロと愛する父の亡骸に涙を落とすクラクサス
彼女にはあの時の記憶が一切無い
「そうだ・・きっとそうだ ワタシの半身をそうしたようにお父サンまで殺したんダ!!
そうだヨ絶対そう! 許さない 許さないよ─────ゼリスク!!」
こうして歪んだ彼女が生まれ、勘違いした彼女は組織へと復讐しようと誓うのだった




