第32話 三ヶ月前
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「ククク・・完璧だっ・・!」
狂ったように高笑いする男がいた
ここはとある研究所の一室
生体ポッドの中に浮いているモノを見つめながら男は笑っていた
「さて・・クク・・起動テストをさせないと・・」
男はツカツカと部屋の脇にある機械にあるキーワードを入れた
『**********』
『認証成功 クラクサス 起動』
モニターにそんな文字が出てくると、モーター音が部屋中に響く
「・・・っ」
さっきまで不気味な笑いをしていた男は、緊張した顔で生体ポッドを見つめていた
この数年間の研究が成功する事を祈って・・・
* * * * *
『クラクサス 起動』
・・・各パーツ 異常無し
起動します
ふと気が付くと、ワタシは液体の中にいた ・・生体ポッドの中らしい
またパーツが温まっていないのか、動かない
ワタシの名前は・・クラクサス
薄い・・本当に薄い・・桃色の髪は、肩で切りそろえられ、目は・・深い茶色
この目はワタシを作った、ナズリー=セリラルハコラベと、同じ色
そろそろ、動くかな
ワタシはそっと、目を開けた
水の中だからか、目を開けたばかりだからなのか、視界が歪んで、よく見えない
そう思っていると、急に中の液体が無くなっていった
ど・・どうやって
ワタシはそのままポッドの底に着地した
だがやはり少しよろついてしまう
プシュー、と音を立てて、目の前の壁が無くなる
白っぽい部屋に、機械が所狭し・・というほどでもないけど、たくさん並んでいる
ワタシの目の前に、新緑を思い出すような緑の髪と、ワタシと同じ色の目をした、白衣の男
ワタシは白衣の男に問いかける
「アナタが、ナズリー=セリラルハコラベですか」
「・・あぁ、そうだよ」
記憶、しました
「ワタシの名前はクラクサス これで合っていますね」
首を傾げ、問う
「君の名前はクラクサス=セリラルハコラベ そう、名乗りなさい」
「分かりました」
これが、ナズリー=セリラルハコラベとの出会いだった
* * * * *
私の想い人に似た、目の前の少女
君を裏切るようで、辛いけど・・私は今これをやり切ってみせる
私は興奮を抑えながら目の前の少女──クラクサスの質問に答える
「アナタが、ナズリー=セリラルハコラベですか」
「・・あぁ、そうだよ」
感情表現がまだ上手くできていないのか・・
そこは仕方が無いか
「ワタシの名前はクラクサス これで合っていますね」
首を傾げ、問うクラクサス
「君の名前はクラクサス=セリラルハコラベ そう、名乗りなさい」
「分かりました」
見た目や声、仕草は一部を除けば彼女と一緒だ
・・だが、彼女とは似ていないな
不思議なものだな
まずは用意した服を持ってこなければ・・
* * * * *
あれから3ヶ月経った
父さんはワタシにいろんなことを教えてくれた
花の事、木の事・・
ワタシの名前は、クラクサスの「ス」を「サ」に変えて、並び替えると
サクラサク
父さんは桜という花が好きなのかな
ワタシも、花は好きだ 良い匂いがするから
研究所にあるワタシの部屋、そこに父さんがやって来る
「クラクサス、ちょっとおいで」
「はい、父さん」
メンテナンスだろうか
あの、目覚めた時の部屋に入る
そういえば、あれ以来入っていない
ワタシは生体ポッドの中に入ると、液体が満たされる
液体はどうやら後ろに付いているチューブから出し入れされているようだ
スリープモードになる
ワタシの意識が遠ざかっていく・・・
* * * * *
「やっと・・完成したんだ」
3ヶ月前よりも少しやつれたナズリー
一番大型の機械へと近づき、それを起動させる
そしてナズリーは白衣のポケットから小さなメモリーチップを取り出した
「私と・・彼女の・・記憶」
ナズリーはそれを機械のある場所にさし込んだ
ふと横の生体ポッドの中にいるクラクサスを見る
その米神の部分には細いチューブのようなものが刺さっていた
そしてナズリーは顔を前に戻す
『インストール開始しますか?』
YESとNOという選択肢がモニターに浮かび上がっていた
ナズリーは迷わず、YESを選択した
あのメモリーの中身はナズリーがかつて愛した女性
クラリスの記憶が入っている
ナズリーが少し改ざんした所もあるが、ほとんど彼女のと言ってもいいだろう
───そう、彼女─クラリスは人形のロボットである
出会いは7年前、ナズリーが20の頃
ナズリーが住んでる場所から少し離れた場所
緑と色とりどりの花々
そこに彼はいた
何故そこにナズリーが居たのか、それは誰も知らない
彼は澄んだ小川を跨いだ、花畑に一軒のこじんまりとした家を見つけた
赤レンガの屋根、クリーム色の壁 この辺では少し珍しかった為、ナズリーはその家を訪ねた
「誰か居ませんか?」
「はーい?」
部屋の奥から聞こえる女性の声
彼女がこの家の家主だろう
緑色の木の扉が開いた
そこに立っていたのは、橙色のワンピースに白いエプロンを着けた女性
薄い桃色の髪は緩くウェーブした腰まで届く長い髪
ナズリーと同じ茶色の目
それが彼女だった
「あら、珍しいわね こんな所まで来るなんで」
「ちょっと珍しい家だなと思って」
「まぁまぁ、そうなの。 これも何かの縁ね お茶淹れるわ ささ、あがってあがって!」
両手を顔の前で合わせてニコニコ笑いながら喋る彼女
そして言い切るとそのままバタバタと部屋の中へ駆けて行ってしまった
「・・・」
ナズリーは呆然と彼女が去っていくのを見つめていた
それが彼女、クラリスという女性だった
ナズリーは度々彼女の元へ足を運ぶようになった
それを彼女は歓迎した
そんな日々が続いたある日
どこかの巨大組織の職員数名がが彼女の家に来た・・というよりも押しかけて来た
クラリスはその人達に連れて行かれそうになった
必死に抵抗したクラリス
しかし男女の差と数によって少しずつ外へ近づいていく
部屋の真ん中にあったテーブルは横になぎ倒されていた
誰かが気絶させようとしたのだろうか
クラリスの頭を強く殴った
その為クラリスの制御プログラム、人間で言う理性が故障してしまったのだ
クラリスは暴走、見境無しに攻撃した
ここの世界に存在する、ささやかな魔法を使って彼らを、物言わぬ肉塊にした
彼らも魔法は使えた 彼女よりも強大な魔法が しかし使う暇も無く彼らは殺された
ある者は見えぬ刃で首をもがれ、ある者は地面から突き出た土の槍に貫かれ、
そしてある者は淡い小さな光の粒によって穴だらけに
クラリスの家は血に塗れた廃墟と化した
クラリスの細い腕からパチパチと電気が走っていた
それは腕から顔、足と広がって行き、彼女はその場に崩れ落ちた
暴走による許容オーバーの無差別攻撃、それによる反動
彼女の身体から、ウィィンというかすかなモーター音がしたと同時に、何か軽いものが落ちる音がした
それを最後にクラリスは目を閉じた




