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クロノカタナ   作者: とららん
クロノカタナ
7/7

クロノカタナ (完)

最終回と言う事でいつもよりも少々長めになってしまいましたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。

クロノカタナ (完)



~※~



 そこは、古い廃墟となった寺だった。


 一本の大きな蝋燭の火、それがこの空間の明かりの全てだ。

 

 自分を覆った布から放り出された桜江は、手足を縛られたまま何とか身動(みじろ)ぎながらも正座まで整えた。

 

 目の前には腹心であったはずの髭面の侍が座し、四方には顔が見えないが確かに四人の男が立ち、桜江を見据えている。

 

 三郎が桜江の後ろにいる男に合図し、口に嵌めた手ぬぐいをほどいた。

 

 息苦しさと、口の中の気持ち悪さから解放され、桜江は思わず大きく息を吸った。



「少しは、落ち着かれましたかな?」



 三郎の一言が心を逆撫でる。だが、ここで皮肉や罵倒を浴びせた所でどうなる物では無い。


 意外と冷静で居られるものだと、桜江は自分に感心していた。



「何が望みです三郎。貴方ほどお家に尽くし、私を・・・いえ、父を敬っていた方を私は知りませぬ。そんな貴方が間と組みし、何故このようなことを」



 凜とした佇まいを保ちながら、桜江はあくまでも三郎を見据えて問い質す。すると、三郎は小さく頷くと、四人の間達が静かに寺から夜の暗がりへと消えていった。



「もう一度尋ねます。あの者達は何なのです」


「姫様も、もはや存じて居られるはず。間・・・で、ございまする」


「それは理解しております。私は貴方との繋がりを質しているのです」



 三郎は口を一文字に結び、膝に置いた手が震えながら拳を握った。



「三郎・・・・・・今なら私の胸の内で全てを治めます。吹雪の件に関しましても言い争いから縺れた行き違いであったと証言しましょう。吹雪にも口裏を合わせるようにしておきます」


「命乞い・・・ではございませぬな。姫様は本気で申しているのでしょう」


「あの間達には、手持ちで路銀を渡せるはず。すぐ領から出るのでしたら罪には問いませぬ」



 静かに、あくまでも淡々とその旨を伝える主に対し、三郎は大きく息を吐き、意を決したように口火を切った。



「姫様・・・何故、皆を集めたあの日、クロを大広間へお連れに成られたのか」



 何かを抑えるように、震えた声で三郎が呟いた。



「クロをあの場に連れてきたことで、皆に要らぬ誤解を招いたことは反省しております。しかし、あの時の私にはクロが必要でした」


「間が必要と申されたか。我らだけでは姫様の支えにならぬとおっしゃるか!」


「それが貴方の本心なのですね。私の行いが貴方を追い詰めてしまったと」



 目蓋を閉じ、しばしの沈黙の後、桜江は大きく目を見開いた。



「クロは、私が万状として迎え入れたのです。あの場では彼が必要でした。これからの我が藩にとっても、その大きな切っ掛けになるやと思ってのことです。実際、彼の地道な働きは、周囲の信頼を得るに足りるものでした。それは、貴方も認めていたはず。そんな貴方が見えない所でクロに良くしてくれたことも、私も存じております」



 叱るわけでも無く、怒るわけでも無く、ただ相手に対し諭すように桜江は優しく語りかけた。だが、三郎にとってその労りの言葉の全てが今の自分には痛々しく感じるものだった。



「そう・・・迎え入れた。買われたのでは無く、拾いに成られたのでも無く、迎え入れたと言う事実が問題なのです」


「どう言う意味ですか」


「間を迎え入れた。つまりは、万状と呼びながらも我ら人と同等と見なし、姫様はおそばに仕えさせることを良しとした。それを不服とする者がいても仕方無き事でありましょう。それほど、人と間の溝は深いのです。身分関係の話しではございませぬ。間はそれ以上でも以下でも無い。このまま親方様にもしもの事があり、姫様が起たれれば、何代にも渡り結ばれた藩の結束は塵となり、お家での権力闘争、延いては内乱もありえる大事。此度の一件、それほど重大なモノでござりまする。畜生を同列と見なされれば、家臣達も心中穏やかではござらぬはず」



 大きく首を振りながら、三郎は悲劇とばかりにか細い声で訴えた。



「間は私達と同じ人です。私は、トト様・・・いえ、親方様の跡を継いだ後、人と見られない人など居ない。そう言った藩にしようと思っています。クロはその最初の一人なのです」


高邁こうまいな理想論をおっしゃりますな。蔑まれる者がいてこそ、私賤しせんの民草の安念が保たれていることを何故ご理解出来ませぬ。さすれば、あの男は姫様の理想のためせしめている。と言う事でございますか?」


「そう思われても構いませぬ。皆が平和に、人を蔑む事の無い藩、国を作ることが私の理想でございます」



 キッパリと言い切った桜江に迷いは無かった。



「藩の上の者達がそれを承知すると? それがしが農民上がりの武士として親方様に仕えて十数年、ようやくここまで来られたにも関わらず、間風情が半月足らずで並び立つと仰せか!」



 歯を食いしばり、震える拳が今にも向かって来そうなほどの怒気を孕んだ気迫。怒り、嫉妬、憎しみ、そして忠義。混沌とした想いが三郎の心をかき乱す。



「其方を仕向けた者は誰なのです? 法度に対して厳格な其方が、そこまで卑下する者達と通じるなどと、その矛盾した行い私には奇妙でなりませぬ」



 胸を張り、強気な口調で誇示し、桜江は言い聞かせるような物言いで家臣に問うた。



「姫様・・・桜江の方様・・・・・・」



 後ろめたさから目を細めたのか、三郎はゆっくりと床に手を付き深々と頭を垂れる。



「この三郎、一生の願いでございまする。どうか、クロを斬らせて下され。そう、お命じくだされ。今の姫様に藩を纏めることは、蜘蛛の糸から蝶が逃れることよりも難儀。姫様のお考えは、民草すらも死中へ向かわせると同義でございます。なにとぞ! なにとぞぉ!」



 涙ながらに訴える三郎の忠義と献身は承知の上。だが・・・・・・。



「私の意志は変わりませぬ。親方様、いえ、例え上様のお言葉であったとしても、間という理由で、忠節の士に対し心無く人を斬れと言い渡すほど、私は愚かではありませぬ」



 真っ直ぐなまなこを三郎に向け、桜江は迷い無く毅然と言い放つ。



「では、愛しき万状を三途の川原にてお待ちくだされ。姫様は召し抱えた間の乱心により、たった今、命を落とされたのでございます。そして、それを阻めなかった拙者もまた、万状を葬った後に腹を切る所存!」


「お待ちなさい! 其方をたぶらかした者は一体!」


「問答無用! 藩の平穏のためご覚悟を!」



 三郎が抜いた刀が冷たく月明かりに照らされ煌めいた。



~※~



 廃墟となった寺が見えるやぶの中、クロは四人の間を目の当たりにし身を潜めた。


 そこは偶然にも、クロが街へ入る前日に一夜を明かした場所だった。


 吹雪の東と言う言葉を頼りに、クロがここしか無いと直感に従った事は大旨正しい。ただ、辿り着いた後の事を除いては・・・・・・。



「この後、どうすれば良いんだろう」



 直前まで、桜江を救う事しか考えていなかったクロにとって、救うまでの過程を思案するほどの余裕など全く無かった。逆に自分の無能さと臆病さに呆れて物が言えない。


 不意に保身の感情が先走る。もう傷つきたくない。傷つけられたくない。首から下げたハクに対し心の中で訴える。



『逃げても良いよ。危なくなったら・・・じゃないともっと辛い目に遭っちゃうかもしれないし』



 戦が開けてより五年、かつての彼女の言葉に従い逃げ続けた。逃げて逃げて生き延びた。


 腰に下げた刀を握り締め、恐ろしさの余りカチカチと歯を鳴らす。


(逃げたい!)しかし、今逃げたら、きっと『あの時』と同じかそれ以上の物を失うかもしれない。思わず、首から下げた彼女に問う。



「逃げて・・・良いの、かな?」


『ただの通りがかり、成り行きで会ったコでしょ。別に良いんじゃ無い?』


「本当に?」


『でも、そうしたら・・・もうきっと戻らないよ。あの時みたいに、この時間は』


「あ・・・・・・」



 瞬時に『あの時』の感情が蘇る。失意、苦痛、恐怖、絶望。それらが混じり合った漠然とした喪失感と慟哭。自分を呪い壊した瞬間。


 しかし、同時に過ぎった桜江の笑顔、自分を気遣う吹雪、叱りながらも気にかけてくれた辰巳の声、煙たがりながらも万状として置いてくれた屋敷の人々。


 短い間に生まれた、かつて失ったモノと同等のモノをクロは感じつつあった。


 拠り所。桜江に彼女を重ねたのは、その一言で済んだモノだったのかもしれない。



『それを手放すの? そんなに恐ろしいモノ? 皆を失うことよりも?』


「違う!」


『なら、どうしたいか言ってみて』


「俺は・・・もう、逃げ、たくない! 怖がられても、嫌われても良い、あの子を助けたい!」



 いつも懐に肌身離さず持ち歩いていた外套を羽織ると、クロは刀を両手に添え神仏に畏敬の念を示すかのように深々と頭を下げる。


 そして悔恨を払うが如く面を上げ、祝詞か呪詛を思わせる言の葉を紡いだ。



「自己任務、謹んで承り候。抜刀開始から戦闘行動へ移行。全能力値30へ限定許可」



 瞬間、ひたいから左目蓋、頬にかけて引かれ一線の刀傷がほんのりと焔の色を浮かび上がらせた。



『頑張れ。クロ・・・・・・』



~※~



 ザザザザザ・・・・・・。


 耳を突く、枯れ草が風に擦れて揺れる音が煩わしい。


 ザザザザザ・・・・・・。


 寺の外で待つ四人の間は辺りを見回した。


 寺は厚い塀に囲われ、入り口は正門しか無い。見張りという意味では楽な仕事だ。


 だが、妙な胸騒ぎが一人の間を不安にさせた。



「何か音がしなかったか?」


「草の音だろ。まあ、こっちは人さらいをしてるんだ。慎重になることは悪いことじゃない」


「本当に、こんな事で百両(約1300万円)も貰えるのか?」


「ああ、さすがに高すぎないか? 中の旦那は一銭もいらんそうだが、良家の娘としか聞いていないとは言え、一人に二十五両(約325万円)は報酬としては悪くない」


「とにかく、この仕事が薄気味悪い事には変わらねえ。さっさと明日にはトンズラしたいぜ」



 ザザザザザ・・・・・・。


 変わらず枯れ草の擦れる音がする。



「何か、変じゃないか?」


「ああ、近づいている!」



 そう言った一人が刀に手を置き、素早く正門へ走った。


 小高い丘に立てられた寺だ。必ず一本道の石段を登ってくる。いや、そうで無くても門をくぐるはず。だが、見通しの良いはずの石段を見下ろし、左右を確認しても何も見つからない。


 猿か猪かはたまた狸か。正門の間は仲間へ無事を伝えようとしたその時――


 右の塀の一部が、轟くような爆音と共に吹き飛んだ。



「何!」



 闇夜と粉塵の中、塀に穿たれた大穴からのっそりと大きな黒い影と共に、微かに深紅の光沢を放つ線が浮かび上がる。



「馬鹿な! コイツ、塀を吹っ飛ばして――」



 言い終わるよりも早く、なぎ払われた黒く長い棒の近くにいた一人が宙を舞う。



「か、刀?」



 ゆっくりと瓦礫と塵から現れたのは、棒ではなく黒い刀を握り締めた背の高い男だった。


 月明かりの下、縦一線の深紅の傷が引かれた顔。風にたなびく黒い外套。


 そして、並の人間では振るうことも難しい大太刀。それをコレは軽々しく振るって見せた。



「「平次郎!」」



 三人の間が、思わず空を舞う男の名を叫び駆け寄るもそれは虚しく、平次郎と呼ばれた間は顔から地面にぶち当たる。確かめるまでも無い、その面相は完全に潰れているだろう。



「貴様ぁ!」



 激情に駆られた一人が黒い影に斬りかかった。だが、横に引かれた白刃の一線は、地に刺された黒い刀により阻まれる。



(は、速え!)



 金属がぶつかり合う高い音が響く。と同時に黒い影は刀身を両手で素早く握ると、峰で襲って来た男の首を持ち上げる。いや、自身を壁にして刀で相手を締め上げた。


 一瞬、ゴキリと鈍い嫌な音が残った二人の間の耳を突く。



「こ、コイツ・・・まさか・・・まさかぁ」



 正門にいた間がへたり込み、黒い影を茫然と見上げた。



「へ、へへ・・・百両だと? や、安すぎらぁな」



 泣き言を漏らした間の胸を黒い刀がそっと貫いた。その行為は、先の二人に比べれば慈悲と言えたかも知れない。


 次の瞬間には、最後の一人を討たんと外套が翻った。



「うぐっ!」



 最後の間の頭を影の男は軽々と左手で持ち上げ、瞬く間に寺の戸口へと勢いよく投げつけた。



(間か! だが、この強さは何だ? 何なんだ? まさか、依頼人もコレを知って)



 思考がそこで止まる。最後の一人は木の戸を文字通り木っ端微塵に吹き飛ばし、堂内を転がり回ったあげく指一つ動かなくなった。



「クロ!」



 寺の中へ足を踏み入れた黒い影の名を桜江が叫んだ。

 


~※~



「クロおおおおおお!」



 今まさに桜江の首を跳ねんとした、髭面の侍が咆えながら即座に刃をクロへと向けた。



「貴様さえ! 貴様さえ現れなければ!」



 刀を振り下ろした三郎の刃を黒い刀で受ける。


 左右、刀の間合いを詰めて斬りかかる三郎に、クロは刀で防御に徹する事で精一杯だった。



「これだけ密着されては、刀身の長さの有利も無い。むしろ! 不利なり!」



 素早く、三郎が片手で脇差しを抜き取りクロの右手を切りつける。



(浅い!)



 クロが咄嗟に腕を手前に引いた事で、脇差しの刃はかすり傷で留まるも、つっと鮮血が線を引いて流れ出しす。


 体制が崩れ三郎も後ずさる。その失態を嘆く暇も無く再び刀を持ち直す。が、瞬時に一歩前に出たクロの刀が三郎の腕を薙ぐも飛び退いたときに微かにぶつけた。と言う感触があったが切られたという認識は出来なかった。



「やはり、見てくれだけのなまくらか」



 鈍い痛みはあるが大した事はないと、三郎はさらに三歩間合いを取りクロを観察する。


 一言で言うならば、構えが全く成っていない。クロは刀を振り上げた状態ではあるが、でくの坊のように立ったままスキだらけに見える。


 恐らくガタイによる力任せで刀を振るっているに過ぎない。


 それでも奇妙なことに、クロ自身は震えること無く、真っ直ぐに三郎を見据えた状態で微動だにすることは無かった。



(浅いとは言え、腕に確かな傷を負わせた。何故臆さず刀を掲げたまま動かぬのだ。自分が思ったよりも痛みが無い程の傷なのか?)



 怪我に動じないクロの意識を見極めることが叶わず、思わぬ自問自答に三郎は息を飲んだ。と同時に、クロの刀は頭上から真っ直ぐ襲いかかる。


 その速度、まさに黒い旋風。だが刀身が振り下ろされるより一瞬早く、三郎は刃でそれを受け止めた。



「万状風情が!」



 巨体を押し返さんと全身を強張らせ、三郎が峰に左手を添えた。だが――



(重い! この細身の刀で。これではこちらが先に折れ・・・いや、曲がる!)



 強面の侍から冷や汗がどっと流れ出る。このまま小便も漏らさん勢いだ。


「しぃはぁぁぁ」と、クロの大きく開かれた口から、白煙のような吐息が漏れる。



(何たること! 此奴のなまくら刀は斬撃のためでは無い。信じられぬほどの堅牢なる刀身、単純に受けた刀を曲げ、そのまま相手を押し潰す!)


「・・・だあく・ぶれいど・・・・・・」



 クロが静かに口にする。三郎にしか聞こえない程の小さな声、その言葉の意味は分からない。だが、ありとあらゆる呪いが染み渡った呪詛の一言だと本能で感じられた。



「お、お、おおおおおおおおおおおお!」



 悲鳴か雄叫びか。三郎の叫びは大きく猛る。



(熱い! 陽炎で刀身が揺れる。何という熱気。此奴もだが、コレもただの刀では無い!)



 クロの刀の峰に穿たれた小さな穴。黒い刀身に隠れた針先も無い一列に並んだ無数の孔からは、紫電を纏った黒い蒸気が吹き出し重圧がさらに勢いを増す。



(からくり!?)



 金属の歯車が回る鈍い闇色の音が聞こえる。黒い刀に組み込まれた機関が咆える。


 そう過ぎった瞬間には、男の脳天に黒い刀身がめり込んでいた。


 文字通りの即死。勝負どころか、暴力ですらない。今のクロにとって虫を潰すことと同義と言える加減。そこに殺意は無い。ただ、邪魔だと退いたのみ。



(拙者は間違えてなどいなかった。姫さま・・・どうか目をおさましくだされよ。このモノは、間ですら・・・・・・)



 今際の際の刹那、三郎の脳裏を掠めたのは主君に対する忠義と気掛かりだった。



「自己任務・・・完了。確認」そう呟くと、クロは首から下げたハクを握りしめた。



~※~



「クロおおおお」



 背にした桜江の声に反応し、クロは巾着から三錠の薬を口にすると静かに振り返った。



「大丈夫ですか? 怪我は平気ですか? いえ、平気じゃないですよね」



 飛びついてきた姫君の手が腰に回され、クロは少し困惑しつつも胸を撫で下ろす。



「桜江さまこそ・・・大丈夫・・・ですか?」



 途切れ途切れの言葉使いが戻る。



「私よりも貴方のほうが心配なのです。ああ、傷から血がいっぱい」



 桜江がそっと腕の傷に触れる。それは在りし日に彼女がしてくれたように、いたわりに満ちた温もりを与えてくれた。


 言葉遣いも表裏が無い程戸惑っているのか、そんな桜江が何故かおかしかった。



「大、丈夫。大丈夫です。姫様」



 何年ぶりだろう。自然に口元が緩む。



「俺、人を守る事苦手で・・・人を殺す事しかできなくて・・・それしかできなくて・・・なのに妹も、ハクも守れなくて。守られてばかりで、殺す事しかできなくて・・・そこには、人も間も無くて、戦場が唯一の公平な場所に見えて・・・そう見えてしまった自分が怖くて、だから逃げ出して・・・怖いことが解っているのに刀を手放せなくて・・・・・・」



 拙い、いつもの口調で想いを紡ぐ。今のクロにはそれが精一杯だった。



「いえ、いいえ! 貴方は私を守りました。誰が何と言おうとその刀で守ったのです。イモ様もちゃんと見ていたではありませぬか。貴方は、怖くない。貴方が怖がっても、私は貴方を怖い何て思いません」



 桜江が初めて出会った時と同じく、そっとハクに手を添えた。



「きっとイモ様はアニ様である貴方を誇りに思っています。これからも、私をその刀と共に守ってください。私のためだけでなく、民や間の方々のためにも。私も孤軍奮闘し、必ず願いを成就させます。間もまた人で有ると言うことを示すためにも、私には貴方が必要なのです!」



 それは、初めて自分にかけられた言葉ばかりだった。



『護るから。大きくなるまで、私が、私とその()が貴方を守るから』



 かつての彼女の言葉が反芻はんすうされる。



「俺が・・護る? 俺が」 



 自分はこの刀に守られていた。だが、目の前の少女は自分を守れと言う。


 こんなにひ弱で、誰かに守られていないと何も出来ない、ただの人殺しに。


 この姫君は自分を守ってほしい、必要だと懇願してくれる。



「一つだけ・・・貴方に言っていなかった言葉があります。万状とは昔、きずなありさまと書いて、絆状ばんじょうと読まれていたのです。私は貴方と・・・そうありたいと・・・・・・」



 クロの頬を一滴の水が滴る。まなこから溢れたそれは、彼に刻まれた刀傷を覆うように線を引いた。


 悔悟かいごの涙が、戦場で傷つき血にまみれ、事切れる寸前の彼女の言葉を蘇らせた。



『私の名前は・・・エリス。エリス・カイン・コール・・・貴方が貴方で居られる場所を見つけるまで覚えていて。私に守られ無くても良い場所が見つかるまで、私は貴方と一緒にいるから』



「見つけたよ。ハク・・・えりす・・・・・・ねえさん」



 吊された人形の糸が切れたように、巨体は力無く倒れ伏した。



「クロ!」



 慌てて自らの絆状の顔を覗く桜江だったが、その表情は母に抱かれ、安堵に満ちた子供のように穏やかなモノだった。

 取りあえず、『クロ』のお話としては一段落。

 主人公が居場所を見つける短編~中編小説として書ききる。と言うことを前提としていたため、色々書き足りない面もあると思いながら、そこは割り切って当初の目的は達成できたと思います。

 初めての連載でしたが、最後まで投稿できたことはほっとしています。

 続編もボンヤリと浮かんでいますが、今は短編小説として読んで頂けたら幸いです。

 ご意見やご感想など頂けますと、今後の励みになりますのでよろしければお願い致します。

 重ね重ね、最後までお付き合い頂きまして本当にありがとうございます。


 今作はテストも兼ねた投稿でしたが、まだまだ『小説家になろう』には不慣れな部分があり、文章スタイルの見直しや、システム面の活用方法など試行錯誤しながら色々書いて行けたらと思います。

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